番外編 後
「………………」
「………………」
空気が重い。フィアンナは不安げに何度もディルムと顔を合わせる。ディルムも感じているようだが、開口一番の言葉が思いつかない。
考えがまとまらないから目の前のケーキや紅茶を口に入れて、口が開けないから困る。さっきから二人して繰り返している行動だ。
ベアトリスは美味しそうにケーキを頬張っている。元々、自分から話しかけるタイプではないから、純粋に味わっているようだ。
どうしよう。フィアンナは頭を巡らせる。
『狂愛王』の観劇が終わり、近くのカフェでお茶。ここまでも予定通りである。
劇に対するベアトリスの反応。今回、クリストフに命じられた内容である。
何故かと言われれば簡単なことで、クリストフが『狂愛王』の息子であるから。
父親の件で王が代わり、同時に周りから人が消えた。王太子、次期国王の恩恵を受けようとした人が多く、叔父や従兄弟達へと移ったらしい。
残った少数の内、ザックス、ビー、ディルムの三人が最も心許しているようだ。
それが執着に近しい物で、クリストフは三人を害する相手を全力で潰す。
あの国の革命も、フィアンナがディルムの最愛だったから起きた物だ。
普通の平民だったら、ディルムが諦めるような人だったら、革命は起きなかった。
本質が父親に似ていると分かっていたクリストフは、『特定の女性』を作る事を恐れていた。だが、ベアトリスに恋をしてから、執着や独占欲が天井知らずで増しているようだ。
『トリスに親父を題材にした劇を見せてくれ。んでもって、やべー反応だったら…………オレは記憶を消す』
本気の目だった。ビーの集めたスキルに『忘却』はあるが、そんな大きな感情と一緒にベアトリスの記憶を消して、無事でいられるはずがない。
その決断をする程、ベアトリスを愛してしまったようだ。
できれば実ってほしい。ディルムもフィアンナもそう思っている。
思っているが、ドロドロとした愛憎劇の感想をどう聞き出せばいいか分からない。
劇後に、周りから怖いと言った批判的な単語が聞こえたのも、ベアトリスに感想が聞きづらくなった要因だ。
中には浮気した相手を連れて反省を促した人もいたという。反面教師にしろと言うものらしい。ディルムが教えてくれた。
悩み顔で話さないからか、ベアトリスがたまにこちらを見ては不思議がっている。その仕草も可愛い。
重い沈黙に耐えきれなくて、フィアンナは景気づけに残りの紅茶を一気に飲み干す。その勢いのまま、口を開いた。
「ベアちゃん! あの劇どうだった!?」
下手に誤魔化そうとすれば、おかしくなる。そう分かっているから、ストレートに尋ねた。
ベアトリスはきょとんと目を丸くした後、言いにくそうに返答する。
「劇の感想……他の人と違っていたから、ちょっと、言い難い、かな……」
「ベアちゃんの感想だもん。変と言わないよ、私」
「そう、だよね……」
キッパリと言い切るフィアンナに、ベアトリスは視線を少しさ迷わせる。
そして、恐る恐るという風に声を出した。
「…………羨ましかった」
「羨ましい?」
思ってもいなかった言葉を繰り返す。ベアトリスは頬を染め、ポツポツと続ける。
「愛される気持ち、アンナちゃんと出会ってから知った。友情とか、優しさとか、初めて。でも、ああいう風に、愛された事は、ない。溺愛? 偏愛? ただただ、羨ましい。アンナちゃんみたいに愛し合うのも、魅力的だけど、返し方がわからない。レナータ様みたいに愛を贈るのは、愛が分からなくてできない。だから、抱えきれない愛を受け取るの、一番素敵で、とても憧れる」
「愛が重いとか、怖いとかは、そういう気持ちはなさそうかい?」
「……ない、ですね。むしろ、今までの分も、愛されたいです。満たされて、みたいです…………わがまま、かな?」
「「全然」」
同時に言い切ったからか、またきょとんとするベアトリス。ただ、今はディルムと隠れ話が先決である。
「ディル様ディル様! 思ったよりも好感触ですよ!」
「僕も驚いているよ。これなら、クリスに自信を持てと言えるね」
「作戦名、ガンガン行こうぜ、ですね!」
「喜びすぎて書類をダメにする未来が浮かぶよ」
フィアンナも簡単に想像できる。あの劇を見てこの感想とは、クリストフの愛の重さも喜ぶだろう。
誰もが幸せなハッピーエンドだ。フィアンナとディルムは顔を見合わせ、笑みを浮かべ合った。
この後、やはり気絶したレナータを抱えるザックスと合流し、クリストフへ事を告げた。
全力を出してベアトリスを落としにかかってから気持ちが通じ合うまで、さほど時間はかからなかった。
クリストフとベアトリスは破れ鍋に綴じ蓋。
これにて完結となります!
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