演目:狂愛王
残酷描写注意
ある国の国王夫妻に、待望の第一子が産まれた。元気のある男児で、跡継ぎの誕生に国中がお祭り騒ぎ。
すくすくと育つ彼は、後に生まれた弟妹よりも優れていた。
難しい本を読み耽る。
剣を持って大人を薙ぎ払う。
機を見計らい大金や有力な繋がりを得た。
「彼が国王となったなら、この国は安泰だろう」
誰もが口にする言葉。ただ一つ、彼には懸念事項があった。
男女の機敏が分からないのである。
年頃の子供なら経験するような淡い恋心や憧れ、更には恋愛小説すらもよく分からない。
その為か、誰にも平等に接する。婚約者候補と使用人を同じく扱い、癇癪を起こされていた。
王妃教育の関係上、早くに婚約者を決めたい国王夫妻や重鎮達は頭を悩ませた。
そんな彼は、十歳で運命の出会いを果たした。
ある侯爵の従兄弟で、他国の伯爵が連れていた娘。素朴な美しさを持った彼女に、彼は心底惚れた。
その場で話し、口説き、周りさえも納得させるような弁論。結果、彼女は婚約者として城に住まうことになった。
それから、彼は彼女だけを愛した。
周りの煩い輩は黙らせ、悪意のない者だけで囲う用心深さ。重すぎる愛情に周りは心配したが、当人達は幸せそうだった。
「お慕いしております、陛下」
「嗚呼! オレはなんて幸せ者だろうか!」
二人の愛は枯れることなく、むしろ増していく。即位の一ヶ月後には行われた結婚式のパレードで、幸せな二人を老若男女が祝福する。
相愛の二人にはすぐに子が宿り、祝福ムードが続く。
しかし、子を宿した彼女が急変した。
子を守る野生の獣の如く暴れまわり、手が付けられない。愛する妻の変貌に、彼は頭を悩ませて仕事も進まない。
それを聞いて登城したのは、自分達と同じ年頃の若き女男爵だ。
「前触れもなく登城したことをお許しください。ですが、王妃様のご容態を考えると、時間が惜しかったのです。私の『鎮静』なら、王妃様とお子様をお守りできると考えた次第です」
監視の元でやらせた所、彼女は冷静さを取り戻した。そのまま順調に過ごし、見事男児を産み落とした。
彼は大いに喜び、女男爵に多くの褒美を取らせた。また、彼女から聞いた人柄と子を宿していた事から、王子の乳母を命じた。
女男爵の男児と王子は兄弟のように、元気に育っていく。それを見ながら、彼は次の子は間を開けようと決めていた。
彼女の体力は勿論のこと、スキルがなければ彼女が危険だとわかっているからだ。
王子が乳母離れできてから。それを不満としたのが、城仕えの高官達だ。
「王子一人の期間が長いと不安だ。早く次を作るべきだ」
「それに男爵ごとき、これ以上手柄を取らせてなるものか」
「要は、妊娠中の王妃を落ち着かせればいいんだろ?」
「ワシにアテがある」
ある日、彼の元へ高官が一人の婦人を連れてきた。貴族らしい婦人の話し方には、他国の訛りが混じっている。
「こちらの婦人は、『鎮静』に似たスキルを持っています。ですから、王は王妃と愛を交わしあってください」
父の代から仕えている高官も、婦人を後押ししている。
その言葉を信じ、彼は再び彼女と床を共にしてすぐに二人目が宿った。
「な、何これ! ここまで酷いとは聞いていないわ! 『抑圧』を最大まで使わないと!」
実際に暴れる彼女に、婦人は悲鳴を上げてスキルを使った。
『抑圧』により、彼女は落ち着いていく。そのままどんどんと気力を失い、虚ろになって独り言を呟き始めた。
恐ろしい変化に婦人が怯える間に、彼女は急に部屋を飛び出して行った。
突然の出来事に困惑する中、彼女は城内の時計台に登り落下した。
血だらけで冷たい彼女を抱きしめ、彼は叫ぶ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
血涙を流し、天に吠える彼。
最愛を失った彼に、大切な物はもうなかった。
「王よ、お待ちくださっ」
「黙れ! 死ね! 彼女の分も苦しみ悶えろ!」
原因となった婦人を、推した高官を、止めようとする部下を、容赦なく斬り捨てた。
全て斬り捨てた後、返り血まみれの彼は生き残っている者に淡々と告げる。
「オレは一人の男として、彼女が亡くなった時計台で、一年間の喪に服す。その間、王の仕事は弟に任せる」
あまりの惨状に、誰もが頷くしか出来なかった。
彼はふらつきながら時計台に入っていく。
「なんて事だ……このような愚行をされるとは……」
「だが、大切な王妃と子を同時に失われたのだ。多少は致し方ないかもしれない……」
「この件は、私達が上手く処理しなくては」
「あの時計台、見張り用に部屋はあるが……食料は定期的に届けなくてはならないな」
「王弟殿下にも話をせねば」
「約束通り、一年経てば……きっと……」
彼が言う一年は、気持ちの整理をする時間。そう結論づけ、臣下達は静かに見守ることにした。
王弟夫婦に事を伝え、代理として王座に着いた。それは国内にも通達され、誰もが悲しみの中で彼を想った。
しかし、欲を出した令嬢が一人。
「邪魔な女狐が居なくなった!? やっと彼と結ばれるのね! でも、他にも狙ってる女が山ほどいるからねぇ……どうしましょう……そうだ! 先に子を宿してしまえばいいのよ! 『幻惑』を使って、癪だけどあの女狐のフリして……」
早速、令嬢は動く。
見張りも『幻惑』で通り抜け、意気消沈の彼の前に、自分を彼女の姿に見せた。
「嗚呼! やはり、未練が残っていたのか! 本当に、本当に会いたかった! 愛してる!」
歓喜に震えた彼は、そのまま令嬢をベッドにエスコートした。
毎日毎日、彼女に会える事で気力を戻していく彼。彼女が本物だと疑いもしない。
一年後、名残惜しくも時計台を出た彼を待っていたのは、高位貴族を集めた場と側室と言い張る腹の出た女だった。
「側室なぞいらん。誰だその女は。オレは霊となっても愛し合う彼女がいるのだ」
「それは私ですわ」
胸を張って真実を伝える令嬢。親戚は王族と縁が繋がる事を喜び、一年前の惨状を知る臣下は青ざめた。
乳母も青ざめながら、王子と子を守っている。
彼は令嬢の主張を、真顔で聞いている。そして、息をするように淡々と告げた。
「オレの子と言うなら、確認しよう」
そのまま令嬢を押し倒し、短剣を掲げてその腹に突き立てた。
令嬢の絶叫が木霊する。見ていた人々から悲鳴が飛び交う。彼は気にせず短剣を動かし、その腹を裂いた。
「何だ。オレの子か分からないではないか。嘘つきめ」
虚ろな目で呟いた彼は、またも返り血まみれで何処かへ走り始めた。
凶行に固まっていた人々は動き出し、何人かは彼の後を追う。
彼の行先は時計台だった。追いついた臣下達が見た物は、彼女と同じ位置に落下した、笑顔の彼の遺体だった。
二度に渡る惨劇は、有能な実績を以てしても拭えない恐怖を人々に与えた。
一連の流れを知った人々の間で、いつしかこう呼ばれるようになった。
愛に狂った王、『狂愛王』と。




