46.ビー視点
ビーの目標は最奥。王族を入れた牢と、聖女とその取り巻きを入れた牢だ。
その二つが見える位置に立ち止まると、中の人々が睨みつけてきた。
「貴様! それは我が一族の秘宝! 返せ!」
「ここから出しなさい!」
「我は次期王ぞ!? 無礼者が! 何故魔法が使えぬのだ!?」
「アタシは聖女よ!? 偉いのよ! 早く出してよ!」
「出せ! 全員斬り殺してくれる!」
「ねぇ、僕の頭に何かしたんでしょ!? 返してよ!」
自分の置かれた状況を理解せず、未だに権力が通ずると信じきってる。活きがいい罪人達だ。
一人だけ、緑髪の少年は壁にもたれかかり、虚ろな顔で祈りを捧げている。先に心が折れたらしい。しかし、それ以外は喧しいくらいに元気だ。心置きなく、真実を告げられる。
「ハイハイ、落ち着くネ。ビーは忙しいヨ。だから、簡潔に事実を言うネ。王妃を誰にしようと、この国滅んでたヨ」
たった一言。それだけで、騒々しかった牢獄が水を打ったように静まり返った。
現王妃に拒絶された聖女の代わりに、王妃になる為の女を用意した結果が今なのだ。根本が間違っていたなどと、すぐには飲み込めないだろう。
我に返ってまた喚かれる前に、話を進める。持っている杖を見やすいように前に突き出した。
「これ、ビーもビックリな有能遺物ヨ。一つ、持ち主を中心に、魔力増やすネ。一つ、この国に産まれた子、魔力を増幅させるネ。一つ、周囲の人間の子供、魔法適性率を高めるネ。作った人、天才ヨ」
限定しているとはいえ、数多くの人に何十年何百年と同じ効果を与え続ける。少なくとも、今の技術では不可能だ。
古代文明に何かしらの不可思議な技術や術者がいたのだろう。ロマンのある話だ。
魔力量が多い程、魔法使いだった場合は有利になる。
その上、王族の近くにいるほど魔法適性を持つ子ができやすいなら、四大侯爵家に魔法使いが生まれ続けていた理由もわかる。
段々と効力は衰えているだろうが、それよりも先に別の問題が浮かんだ。昔の人々が考えつかなかった、スキルの存在だ。
「スキル、割と歴史浅いヨ。だから、昔の人、知らないネ。魔力量が多い程、無意識の制御は難しいヨ。意図せずして、スキルが暴発……『異端』と呼んでたネ? 起こりやすくなるヨ」
「そ、それがアタシとなんの関係があんのよ!」
「関係ある、聖女じゃなくて王子ヨ」
「はぁ!?」
聖女が表情を歪めて疑問の声を上げる。しかし、他は放心状態の中で、随分と復活が早いようだ。
「ビー、スキルを研究する、大好きネ。ここにいる全員のスキルも、改めさせてもらったヨ。王子のスキル、杖と同じ『増幅』ネ」
「馬鹿を言うな! 名誉ある魔法以外、何の価値も」
「そんな常識古臭いネ! だから投獄されてるヨ、バカタレ! 大体、スキルの恩恵、知らずに受けてたヨ!」
ビーは眦を吊り上げ叫んだ。こちとら、スキル研究に一生を捧げると教会で誓っている。
その情熱が、目の前にいる無知な連中への怒りに変わっていく。
「聖女が何事においても好ましく思えたのは、『魅了』の効果! 宰相子息が最適解を選べたのは、『直感』の効果! 無意識に使ってたのは、王子の『増幅』の効果ヨ! 『異端』がここ十年で増えたらしいネ? それ、王子の『増幅』の効果が、国王が持つ杖によって広がってたと思うヨ」
宰相子息が息を飲む音が大きく聞こえた。心当たりがあるようだ。恐らく、逃亡中。
杖からも王子からも離れ、無意識に使えていたスキルが使えなくなったのだろう。
捕獲した時には、宰相子息が聖女を見る目が冷たく、自分の頭脳が働かない事の理解を拒んでいたらしい。その事実が、ビーの話が真実だと分からせているようだ。
だが、本題はここからである。
「さて、簡単な問題ネ。過剰な魔力は『異端』を増やすヨ。杖、持ってない状態でこれネ。なら、王子が杖を持ったらどうなるヨ?」
誰もが答えない。結びつかない愚か者と、辿り着いた事実を受けきれない小者、どちらかに分かれている。
主に持ち主の魔力を上げる杖。魔力を増幅させるスキルを持つ王子。
1+1の単純な話ではない。効果は何倍にもなって、目に見える形で現れるはずだ。
『異端』という、この国では殺処分の対象として。数多く現れるそれらを駆除していき、遅かれ早かれ気づく。
まともに成長できた子供がいない。
他国との交流を絶っているこの国では、出産でしか人は増えない。未来を担う若い芽がいなければ、国が滅亡するのも当然だ。
その前に考えを改めれば、衰退で済むかもしれない。その可能性は低かっただろう。もう、たらればの話だ。
「王妃の『予知夢』、国の滅亡見たネ? だから、聖女を拒んだヨ。国、滅ぼしたくないからネ。でも、原因間違えたヨ。『王子を国王にしない』、『王子に秘宝の杖を持たせない』が正解だったヨ」
「意味がないじゃない」
冷ややかな反論。声の主を見れば、取り乱していた事が嘘のように落ち着いている。
年老いてなお美しい顏に表情はなく、国王の呼び掛けにも答えずビーを眺めている。
「テオはね、王家に伝わる金の髪に雷魔法、美貌を持っているでしょう? 産まれたてのテオを抱いた時に思ったわ。この子以上に、国王に相応しい子はいない。だから、テオが素晴らしい国王になる道だけを残したもの、その座を退けるなんて論外よ」
「そんなん、ビーに言われても困るネ。その言い方、王子の兄弟姉妹はわざと作らなかったネ?」
「争いの種にしかならないもの。でも、手を下す必要はなくなった。この人、タチの悪い病気で高熱を出したの。それから種無しよ」
「うそっ、嘘を申すでない!」
「ホントの事よ。テオが生まれて数が月くらい経った頃合だったかしら? だから、テオが唯一の直系なのよ。テオが国王になるべきで、ならなくてはならないの。それで国が滅ぶというなら、相手が悪いわ。テオは尊い血筋なのだから。聖女とはいえ、元は子爵令嬢ならそちらが悪いわ」
「何ですってぇ!? テオの不手際をアタシの所為にしないでよオバサン!」
「お黙り小娘!」
男を巡り、 母と恋人が口論を始めた。薄いとはいえ壁を挟んでいるが、それでも凄まじく口汚い罵り合いだ。
周りの男が止めようとしているが、それだけでヒートアップする女の争いが止まるはずがない。
もはや、第三者であるビーは居なくていいだろう。ただ、伝えきれてない事がある。聞こえていないだろうと思いながら、口を開く。
「まぁ、あれヨ。滅亡の中でも、今回は最悪な結末ネ。フィーちゃん狙ったのが悪いヨ。フィーちゃんと最愛のディルムはクリスの大切な人ネ。クリス、愛する者が引き離された悲劇、知ってるネ。だから、容赦なく取り戻したヨ。この国と話し合い、無理だと分かってたからネ。仕方ないネ」
そう告げたが、やはり反応がない。喧しく口喧嘩する女性陣しか気にしていないようだ。
「そうそう。まだ決まってないけどネ。有力なの、石打ちヨ。皆が満足するまで、頑張るネ」
途端、別の牢から悲鳴や足掻きが響いてきた。他の貴族達は怖がらせる予定ではなかったが、悪影響が出るものでもない。
それよりも、ベアトリスの『軟化』を詳しく調べたい。
行きと違って、命乞いを聞きながらビーはその場を後にした。
牢屋から悲鳴が上がった。




