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 暇だ。暇である。

 フィアンナは薄暗い牢獄の中でぼんやりと天井を眺めていた。



 フィアンナの失言を腹黒子供が上手く使い、アズレイア侯爵殺しを正当化しようとする。


 腹黒子供が去った後、ベアトリスとレナータにそう言われていたから覚悟はあった。

 それでも、フィア呼びは愛するディルムの特権だ。

 親しい人に呼ばれても不満な呼び方を、嫌いな奴に何度も呼ばれて大人しくしているほどフィアンナは甘くない。


 言うなればこれば、愛を貫いたが故の投獄。死ぬのはごめんだが、致し方ない。


 人の神経を疲弊させる暗さに、粗末な造りのベッドと机に椅子。貴族牢ではなく一般牢だ。

 入れられる際、屑野郎が平民にはお似合いだと言って性女が笑っていたから間違いない。

 だがしかし、塵一家に軟禁された部屋よりマシである。一応、城の地下牢とあって見栄を張ったと思う。


「何日目だっけ……うん、忘れた」


 投獄日数を確認しようとして、即座に止めた。どうせ意味の無いことだ。ベッドの上でゴロゴロと回る。ちょっと埃臭い。


 目に入るテーブルには、空のコップとトレーがある。

 コップには清潔な水が、トレーには柔らかいパン、軽い野菜炒め、熟した果物が乗っていた。全てもう、腹の中である。



 もう一度、ゴロンと転がる。小さな笑い声が漏れた。



 フィアンナを捕縛したのは、城に仕える騎士達を連れた能無し王子達である。実際に動いていたのは騎士達で、四大家連中はその場で分かりきった指示を出すだけだった。

 指示自体も逃亡させるな位で、フィアンナの周りを騎士達が囲んで移動していた。優越感に浸っている連中は、こちらを全然見ない。

 投獄を予想している状態で、こんなにも動きやすい状況はないだろう。よろけた振りで騎士を掴み、『暗示』を使う。期間が分からないので、三人だけに発動させた。

 おかげで三食おやつ付き、濡れタオルで身体も拭けるという獄中にしては良い環境である。


「奴らも来ないから楽でいいね〜。まぁ、私が思いっきし吐いたのが原因っぽいけど、結果よし!」


 天井に向かって両手の親指を立てる。一人の空間はテンションが上がっていいものだ。


 仕方ないのだ。フィアンナを牢に入れた後、性女が喚いてきた。王子と結婚できるのに男がいるのが生意気とか何とか。

 それを周りの男共が慰め、涙を止める。ここまではまだ三文芝居として耐えられた。



 性女がお礼として、全員と口付けする様を間近で見せられるのは予想外だ。おまけに能無し王子とは、それはもうねっとりと濃いキスである。




 吐いた。





 向こうがぎゃあぎゃあ騒いでいたが知らない。

 何が悲しくて、嫌いな連中が唇を重ね合う動作を観なければならないのだ。どんな苦行だ。ディルムと無理やり引き離された時と同じ苦痛レベルだ。


 それ以来、見ていない。会いたくもないから万歳だ。なお、後処理などは『暗示』を掛けた騎士にお願いした。

 それだけは申し訳ないと若干の後ろめたさがある。

 騎士達を観察した所、四大家連中の指示を我先に受け取り悦に浸っていた数人が役職持ちだった。

 他の騎士達はそこまで忠誠心を持たない、つまりはまともな可能性が高い。計画の際には寝返るまではいかなくても、妨害しないでほしいものだ。


「……暇ぁ……」


 フィアンナの脳は、点と点を結びつけて線にする推理力や発想力は殆どない。故に、頭を使うことをすぐに止める。そうすると、何も無いこの牢で時間を持て余してしまう。

 次に来た騎士に、外の状況を聞こう。そう考えていると、階段を降りる音が聞こえてきた。

 そして、フィアンナの牢の前に一人の騎士が現れる。『暗示』を掛けた一人だ。鍵を使って中に入り、配膳を下げる。

 このまま一緒に外に出たいが、下手に騒ぎにしたら更に面倒だ。仕方なく、ベッドから閉まる檻を眺めた。


「ねぇ、外はどんな状況?」


 フィアンナの問いかけに、騎士は足を止めた。今回の『暗示』は細部まで指定してある。

 敬語では無いフィアンナの疑問に真実を話す事も、その内の一つだ。発動する魔力も維持する魔力も大きいが、メリットが上回るなら使うしかない。

 騎士は無表情のまま、口を開く。


「現在、貴族会議にて処刑までの流れを作成中です」

「処刑は確実なの!?」

「はい。ですが、一応四大……いえ、三大侯爵家の令嬢に死罪を適応するからには、通常は綿密な捜査や裁判が必須です。テオドール殿下は特例として押し通そうとています」

「流れってのは?」

「尋問、裁判において、『フィアンナ・ワーキン侯爵令嬢が外の国にいるディルという者と手を組み、ヘイダス・アズレイア前侯爵を異端とさせて我が国に害をなそうとした』と明白になり、歴史上最悪の悪人として死罪。危険人物により、速やかに死刑を執り行うという流れです」

「冤罪の裏側が丸見えじゃん、やだ〜」


 ベッドの上でジタバタする。改めて、この国の嫌な部分を確認した。したくなかった。


「じゃあ、それが終わったら私、死刑?」

「はい。ただ、二点の問題からまだ時間がかかりそうです」

「何があったん?」

「一つ。王家の威厳回復を狙った公開処刑です。それに辺り、全ての貴族を王都の広場に集結させます。遠方に住む男爵家などもです。王都に来るまで、馬を走らせ続けて約三日はかかります。但し、それは王都の早馬計算で、普通の馬だと倍かかるかと」

「うわ〜最悪の強制力〜。もう一つは?」

「仕舞いこんであったギロチンが錆びていました」

「ブフォッ!」


 真剣な重い話が一気に笑える話になってしまった。噴き出したフィアンナは面白さをベッドを叩いて発散させる。


 あれだけ意気込み、首を切り落としてやると豪快に宣言していた。それが、錆びている。

 処刑道具が使えない状態を、能無し王子達はどんなアホ面で眺めていたのだろうか。想像するだけで笑いが止まらない。


「錆びて、錆びって………!」

「最後の使用記録がかなり古く、我が国は王家と元四大侯爵家によって平和的でした。その間、きちんとした整備がなされていなかったようです」

「錆は、刃の部分だけ……?」

「全体的です。まず、錆の所為で刃が引き上げられません。ロープは切れており、繋げ直しました。ですが、無理やり引っ張った所、先に刃の付け根の木片が取れました。あと、腐臭が酷いです」

「む、りぃ……! ヒヒッ!」


 話を聞く度に、新しく笑いのツボが突かれる。何とも滑稽な喜劇だ。本当に自分を処刑する気なのか疑ってしまう。

 向こうが本気なのは分かるが、今の状態では集めた貴族達の威厳回復は無理だ。

 騎士を帰らせた後も、思い出しては笑ってしまう。当日までに、笑いを止めるようにしなくてはと思う。


「ギロチンは作り直しだろうし……多分、月単位はかかるよね」


 処刑道具の詳しい作り方なぞ、フィアンナは知らない。だが、大掛かりな道具だ。一から作るとなれば時間が必要なはずだ。

 その間、レナータやベアトリス、ビーが計画を進める。ビーとレナータ、モンチェ辺境伯を会わせた時点で、フィアンナの役目の大半は終わっているのだ。


 あとは革命開始まで、能無し王子達に計画を隠すだけ。


 その目的三割と私怨七割で煽りに煽っていたが、アズレイア侯爵の死で色々と計画が変わった。

 はっきり言って、今の状況は好機である。能無し王子達の意識は、フィアンナの処刑にしか向いていない。レナータ達が動きやすくなった。


「まぁ、大人しく死ぬ気は無いけどね」


 再度仰向けになり、顔の前で握り拳を作る。好きで死ぬ人間はいない。

 死出の道を歩かされている現状だが、必ず助け出されると信じている。なら、フィアンナは待機するだけだ。


「……最悪、『暗示』をかけた騎士に助けてもらえばいいし。でも、ディル様に助け出されたいな〜」


 囚われの姫を助ける王子の図が、自分とディルムに置き換わる。それだけでフィアンナの顔は緩み切り、ベッドの上で悶えた。

 最高の展開をいくつも思考している内に、いつしか目を閉じて意識をゆっくりと落としていった。


よく監禁される主人公。

それでも本人はポジティブ。

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