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 自宅である男爵邸で次期当主のディルムが殴られたら、即座に大混乱だ。

 その隙に、屑野郎とお付きの屑達がフィアンナを連れ去り、護送車に押し込めて馬を走らせる。多分だが、これが一番成功する誘拐方法だろう。



 なんとも外道な方法。さすが屑野郎。



 更に、この方法なら大きなメリットもある。

 混乱が落ち着いてから王城に連絡して、そこから国境に通じるまでには時間がかかる。

 適当に詰められた品々から、屑野郎達は休憩や野宿で止まる気はなさそうだ。つまり、王城で何らかの手を打つ前に、パラロック国を出る。

 そうとしか思えない。



 何故なら、ディルムと()()()()は乳母兄弟だからだ。



 唯一無二の親友同士で、第一王子はディルムとフィアンナが他を圧倒する程に溺愛し合っていると把握済みだ。連絡が入れば、最速で事態が動くに決まっている。

 その上、現国王夫婦はフィアンナのスキルをよく知っている。強力な力を悪用されないようにと、制約が課せられる王立魔術団へ加入させた程だ。


「……あれ? 下手したらこれ、戦争では?」


 確か、王立魔術団と王立騎士団は入団していると、王族が身元を引き受けている状態のはずだ。

 その一員かつ第一王子の乳母兄弟の恋人。その人が乱暴に誘拐されたとなれば、国を挙げても問題ない気がする。曖昧な考えなのは、()()()()()()()()()()()をフィアンナも理解しているからだ。



 ただ、戦争となればどちらも消耗が激しい。



 ディルムはその辺を気にせずフィアンナを取り戻そうとするだろう。

 第一王子は情を持ちつつも、冷静に判断できる人だ。余程の利がなければ、一先ず見送る気がする。

 魔術団長はスキルオタク。未知のスキルを求めて進軍に賛成しそうだ。

 逆に、騎士団長は第一王子よりも利的に物事を考える。


 そもそも、軍の決定権は現国王だ。仮にその四人が戦争と声を上げても、現国王夫婦はより現実的に判断する。

 自国民の被害を考えれば、進軍はしない方へ話は進むだろう。


「うーん……よかったけど、ディル様に早く会いたい。ディル様ぁ……止まる気がないなら、ディル様のスキルも届かないし……」


 考えがあちこちに飛んでまとまらない。溜息をつき、ディルムの麗しい姿を思い起こす。

 ディルムのスキル、『夢路』。夢を介して、遠方の人と対面できるという、フィアンナとは真逆の素敵なスキルだ。

 手紙と似ているが、直接会うという感覚は得難い。また、手紙が届くまでの時間がかかる。その二点を解消しているスキルになる。

 だが、ディルムの魔力量は低く、連発で使用できない。また、どちらか一方でも移動していると、上手く発動できない。

 現状に当てはめるなら、馬車で移動させられているフィアンナに『夢路』は使えないということだ。

 フィアンナには『暗示』による空想ディルムがいるが、ディルムにはフィアンナを現す物がない。ディルムの悲壮感を思うだけで胸が痛い。


「せめて、私に出来ることをしなきゃ……とりあえず、大人しくしつつも態度は抵抗的で。何がしたいか知らないけど、好きにはさせないんだから!」


 誘拐した相手に不敬も何も無いが、あまり暴れ散らかしたら屑野郎側から戦争を仕掛けるかもしれない。

 原因が自分達にあるにも関わらずだ。


 パッと見だけだが、屑野郎はプライドが変に高くて自分達の非を認めないタイプだ。それを咎めないお付きの屑も同類。

 最善策は大人しく言うことを聞くだが、 絶対に嫌だ。だから、抵抗の態度でスキルは使わない方向にしよう。



 方向性を決めたフィアンナは、食料を確認する。パンに水と簡素な品は、最短で一週間程度と思う。


「ヘンドルスト国まで一週間くらいか……それで止まる気ないの? え、嘘でしょ!? 仮にも女性を連れてるのに!?」


 どんな旅でも、宿泊や休憩は必須だ。馬を休め、心身を整えられる。それがないということは、一週間もの間、身体を清めたり用を足したり出来ないという訳だ。

 外の屑野郎達はどうする気だろうか。考えるとすれば、馬は歩きと走りで体力をコントロールさせ、用を足す者だけ止まって馬で追いつく。

 最悪、体は清めなくてもいいと思っているかもしれない。


 だが、フィアンナは女性だ。それも花も恥じらう乙女。

 冗談ではない。


『私は落ち着く場所まで我慢できる。身の汚れも同じ』


 ふつふつと湧き上がる怒りを抑えながらスキルを使う。女性に対する扱いがなっていない。屑野郎達の評価を更に下げ、フィアンナは椅子に座り直した。


 食事はできるだけ少なめに取る。運動できない馬車内で太りたくない。フィアンナの思った通り、馬車の動きは速い時と遅い時に分かれている。

 本当に休憩を取らない気だ。こんな乱暴な乗り手で、馬が可哀想すぎる。

『暗示』で強制ストップさせたいが、対象に触れていないと効果が出ない難点がある。また、向こうもスキル対策はしているだろう。

 下手に手を出したら、それが戦争の種火にされかねない。

 悔しい気持ちのまま、知らない道を進んでいく。


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