39.ヴァネッサ視点
寄りにもよって、ヴァネッサの聖魔法が『異端』と同じとほざいた。
我慢できるはずがない。すぐに処刑させようとしたが、皆に止められてしまった。
ただ、皆があの女を敵視して、ヴァネッサを更に甘やかしてくれるようになったのは嬉しい。
それでも、気分が悪い。怒ったテオが放置しているのに、頭を地に付けて謝罪しに来ない。
頭に来たので放置してたら、更に酷い事態になった。
アズレイア侯爵が『異端』になったらしい。テオと楽しんでた時だから、何も知らない。
暇だったとしても、危険だから嫌がったかもしれない。ただ、アズレイア侯爵なら、謝礼金たっぷりで渋々やったとは思う。
問題はその後。娘がアズレイア侯爵を見捨てたと言って、権力者の座から消えた。
どうでもいいと思ったけど、テオ達は焦っていた。長い間、均等を保っていた五大家が欠けた事で、大変な事になるという。
実際、その通りになった。隅っこにいるような人達の目が冷たくて、平民達がうるさくて、買い物もままならない。
ヴァネッサが生きてきた中で最悪な状況。イラつくなと言う方が無理だ。
「ねぇテオ! いつまでアイツらに大きな顔させてんの!? アタシ達に失礼よ!」
「全くもってその通り。だが、下手に動けば更に悪化すると、ナッドより言われておる」
「今、ナッドが改善の手を考える為に動いてるって。だから、ヴァネちゃんも元気だして、ね?」
テオがギュッと抱きしめて、ルイが甘い声でお菓子を差し出してくれる。それを口に入れてテオに寄りかかれば、少し気分が落ち着いた。
ナッ君は飛び抜けて頭がいい。きっといい方法を見つけてくれるだろう。そう思うと少し心が軽くなって、ニルに許しの言葉をかけた。嫌なのは妹であってニルではない。
ニルも加わって、ヴァネッサをチヤホヤしてくれる。それに癒されていると、ノック音がした。
「誰ぞ」
「ボクだよ、テオ様」
「おお、ナッドか! 早う入れ」
嬉しそうにテオが入室の許可を出す。
そうやって入ってきたナッ君は凄く明るい顔をしていて、いい案が浮かんだんだと皆分かった。
「ただいまお姉ちゃん!」
「お帰りナッ君! 何かいい事、思いついた?」
「うん! 今、国王様にも話して許可を貰ったんだ〜」
国王の許可が降りたということは、正式な作戦になる。ヴァネッサはワクワクしながら、ナッ君の話を聞く。
「下民共の敬いが減った原因は、主に三つ。アズレイア家を継いだ無能が離反を宣言したのと、前アズレイア侯爵を『異端』として即処理した事に対しての不平と恐怖だね」
「最初はわかるが、あと二つはどういう意味だ?」
「一つは献身的なアズレイア侯爵を見捨てたボク達に対して、不信感を持った事。もう一つは、大人のアズレイア侯爵が『異端』になったから、自分達がいつ同じ末路になるか恐れてるって事」
「魔法も使えない癖に、一丁前に生きたいとか図々しいなぁ」
「ルイ兄の気持ちわかる。でもまぁ、それでこっちに迷惑かけてんなら正してやるのも上の役目だよ」
「どうするのだ?」
「まず一つ目。アズレイア侯爵の離反は、そのまま通す」
思ってもなかった提案に、驚いて声が出た。皆も同じようで、ナッ君はそれを制しながら続ける。
「これに関しては、前から気になってた事なんだよね〜。ここ数代に渡って、アズレイア侯爵の近縁者が要職に就いてない。おまけに土魔法使いも少なくなってきて、遂にはゼロ。そこを理由に、離反を認める旨を国王から通達してもらうんだ。一緒に権力を返してもらう。そうすれば終わりだよ、あの家は」
愛らしくクスクス笑うナッ君を流石だと思う。簡単に問題の一つを解決してしまった。気分が上がる。
「ナッ君すご〜い!」
「えへへ〜」
「一つは解決したが、もう二つはどう致すのだ?」
「アズレイア侯爵が『異端』になったのは 原因があって、その所為で見捨てざるを得なかった。そういう世論に持っていくんだよ」
簡単そうに言うが、ヴァネッサにはよく分からない。皆の顔を見渡したナッ君は、笑顔で解決策を告げた。
「フィアンナ・ワーキンは外の国に魂を売り、この国を破滅に導こうとアズレイア侯爵を『異端』に変えた。その罪で、公開処刑である。全ての罪を背負わせて、目障りな女が消えるっていうとってもいい案でしょ?」
言われた事を何度も心で繰り返し、理解する度に紅潮していく。これ以上ないくらい、最高な案だ。
じっとしてられなくて、立ち上がってナッ君を抱きしめ褒める。嬉しい、嬉しい、嬉しい。今にも踊り出したい位、気分がどんどん高まっていく。
「ステキステキ! 凄いよナッ君!」
「なるほど。探し出した王妃席がそのような事になれば、両陛下も無理に王妃を据えようとしないだろう。殿下と聖女様が結ばれるに当たり、障害が完全になくなる訳だ」
「ニルスはそれでいいの?」
「聖女様に迷惑をかけるなぞ、妹などと思いたくもない」
「確かに素晴らしいが……公開処刑まで持っていくとすれば、流石に確たる物がなければ下民共は納得せんぞ」
テオが唸る。でも、テオの疑問にもナッ君は笑顔で答えた。
「当たり前じゃん? その為に、わざわざ時間を割いて揺さぶってやったんだから」
そう言って、小さな水晶玉を見せてくる。確か、雷魔法で起動する録音水晶玉の筈。
皆が見守る中、録音が再生される。それを聞いた瞬間、ヴァネッサは一気に怒りが込み上げてきた。
「テオと結婚できる癖に! 他に男がいるっての!? バカにしないでよ!」
「全くだ! 我を愚弄しおって……絶対許さん!」
「クソが……!」
思い思いの怒りをぶつける。
当たり前だ。この国で最も尊敬される王族に嫁げるのに、あろう事か知らない人物に愛称呼びを許している。
名前の響きから、男に違いない。
外の国に男を残しているなんて、王家に対して無礼しかない。これは公開処刑に値する。
アズレイア侯爵が『異端』になったのも、あの女が外の国の何かでやったに決まっている。
外の国によって変えられた哀れなアズレイア侯爵。黒幕に従わせられないと、泣く泣く処罰した。
完璧な流れだ。
「にしても、ナッドはよく気づいたな〜」
「ボクでも無理だよ! あの女の罪を重ねて盛ろうとしただけなんだ。それで軽く突っついただけなのに、大きな物が釣れて良かったよ」
それを聞いて、やっぱり神様は自分達の味方なんだと思った。
皆が笑顔で、ヴァネッサも喜びが倍だ。
「ニルス! 明日、即座に奴を捕縛し牢に入れよ! 全ての貴族の前で、その首跳ね飛ばしてくれようぞ!」
「ハッ!」
あの女、人を馬鹿にしたあの顔が、騎士達に連行される時にどんな醜い顔をするのか。今から楽しみだ。
ヴァネッサは久しぶりに、次の日が待ち遠しくなった。
醜い策が進んでいく




