38.ヴァネッサ視点
相手側サイド
昔から、持ち物は姉二人のお下がりばかり。
それが嫌で嫌で『綺麗になれ』って願った。そうすると、不思議と持ち物が新品同様になるのだ。
喜んで両親に報告したら、怖い顔で隠すようにと言われた。
凄いことをしたはずなのに。不満な日々。
それが正しい気持ちだと、魔力検査で聖魔法の証である七色の光が現れた時に感じた。
ヴァネッサの人生は正されて、新しく素晴らしい生活が始まる。そう思っていたのに、僅か一年少しでも躓き始めた。
「何で何で何で何で! 何でなのよぉ!」
「ああ、ネーサ。我が付いておるぞ」
「テオォ!」
王城の一室にあるヴァネッサの部屋で、愛するテオの腕の中に収まっていた。それでも気持ちは晴れない。
ヴァネッサの好みが反映された可愛らしい内装は、投げて壊れた花瓶の破片と花が散らばる。それを拾い集めるルイとニル。
だが、この苛立ちの原因に近しいのはニルだ。体は動けない分、口を動かす。
「そもそもニルの妹が来てからじゃない! だからアタシ、他の女を王妃にさせるの嫌だったのにぃ!」
「申し訳ございません!」
すくに膝を突いて頭を下げる。イケメンが自分に心酔してる状態に、少し気分が落ち着いた。
聖魔法使いとわかってから、ヴァネッサの人生は一変した。
この国最大の権力者、五大家がこぞってチヤホヤする。上に立つ人だからか、みんな顔が良くてヴァネッサは満足した。
特に王子のテオは好みのど真ん中で、そんな人が自分を真綿で包むように優しくしてくれるのが嬉しくて仕方ない。
こんな素晴らしい生活を邪魔していた家族は、処刑してもらった。貴重な聖魔法使いの気分を害したのだから、この位は当然だ。
テオだけでなく、ルイもニルもナッ君も、歳が近くて親が国を動かす人達が甘やかしてくれる。アズレイア侯爵にも子供はいるけど、一つ下でまだ学園に居ない。
けど、魔法が使えない女らしく、見せてもらった姿絵は画家の腕が悪くても美しさが分かった。
これはいらない。ヴァネッサの世界には、強くてカッコイイ男の人と好きなだけの贅沢があればいい。
イケメンに囲まれて、守られて、最高の生活だ。
ルイとナッ君の婚約者は不相応さを理解して、黙っていた。けど、ニルの婚約者は水魔法使いということもあって五月蝿い。
大きなお世話である説教をしてきて、凄く邪魔だった。
でも、弟が『異端』になったらしい。天罰だと思った。ヴァネッサに治して欲しいと願ってきたが、やりたくなかった。
断ったら癇癪起こして殴ってきたが、ニルがやり返したのを見て心が晴れた。ざまぁみろ。
『貴女を王妃にするわけには行きません。そう、夢を見ましたので』
邪魔する女が居なくなって、順調にテオと過ごしていたのに。
急に王妃様にそう告げられた。
テオや皆と一緒に抗議したけど、首を横に振られた。王妃は予知夢を見る事が何度かあって、今回もそうらしい。
泣いた。せっかく這い上がったのに、今更テオと結婚できないなんて。そう嘆くと、王妃から補足が入った。
あくまで王妃に出来ないだけで、結婚や出産は構わないという。意味がわからないが、そういうものらしい。
正妃の座だけは適当な女を添えて、本当の愛はヴァネッサと育む。テオ達はそう約束してくれた。
不満はあったけど、むしろ今まで通りの贅沢をしつつ仕事は丸投げできると聞いて提案を呑んだ。
ここで問題になったのが、代わりの王妃。
貴重な王家に仲間入りするのだから、高貴な血筋でなければならない。
ここで思い浮かんだのが、ニルの元婚約者。あんな風に毅然とした淑女を自分より上にして、見下されるような思いをしたくない。
そうヴァネッサが言えば、その願いも条件に付け加えられる。
相反する条件だ。そんな女、いるはずがない。
多少の威厳は損ねるが、無理に王妃を立てる必要はないのでは。誰もがそう思い始めた時、ひょんな所から解決策が見つかった。
『ワーキン侯爵令嬢と思われる噂を聞いた』
そう告げたのは、ルイの叔父で外交に行ってた侯爵だ。高位貴族の内、外の国に行くのは一握りで稀だ。
目的はこの国では生産できない品の購入だが、平民よりも低俗な連中とは話が合わず、ストレスが溜まる仕事だという。それでも、下手な知識を持ってこられても困る為、四大侯爵の親類から厳選されるらしい。
そこでルイの叔父は、ニルによく似た特徴の娘が貴族の悪事を暴いたという話を聞いたとの事だ。
何でも、ニルには二つ下の妹がいたが、誘拐されて消息不明だったらしい。
水魔法が使えない娘で、ニルがいるならと無理に探さなかったという。
高貴な四大侯爵の血を持ち、この国の知識はヴァネッサよりも劣っている。下賎な外で生きてきたというレッテルから見下せる。
これ程、都合のいい女はいない。
女の方も、自分が高位貴族の一員で王子と結婚できるのだ。メリットしかない。
だが、あの女が来てから、ヴァネッサの生活は大きく狂った。
フィアンナと言う女は、自らを平民と名乗ってまともに教育を受けない。駄々を捏ねてニルの家族を困らせただけでなく、寄りにもよってニルの元婚約者の家に行った。
また、テオと結婚できる名誉を受けておきながら、手紙一つ寄越さないのだ。この時点で、礼儀知らずの最悪女という印象だ。
そして、忌々しいあの入学式。
アズレイア侯爵の娘が擦り寄ってこないよう、大声で親切にも身の程を教えてやった。
そうしたら、あの女は口を挟んできたのだ。
アタシが国一番のお姫さまなの!




