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展開が進む時は早い物
アズレイア侯爵が、『異端』と化した。
センセーショナルなニュースはあっという間に国内に広がった。
それは学園も同じで、レナータと昼食を取っていたフィアンナは、予想外の話に飲んでいた紅茶を吹き出した。
変に飲み込んで咳き込むフィアンナに代わり、同席していたレナータが話を促す。
情報を持ってきた相手は、こちら側だとはっきりしている子爵令嬢だ。しっかりと裏付けしたらしく、興奮した様子で続きを話す。
実子であるベアトリス、使用人達が目撃して王家に報告。
それに対し、王家や他の侯爵当主達は即座に討伐隊を派遣、鎮静化させた。
『異端』発現により、巻き込まれた一人が死亡。
使用人達の話によれば、アズレイア侯爵の庶子のようだ。
土魔法が使えて『異端』にもならなかった少年を、跡取りとして正式に養子にする手筈だったという。
それを己の手で殺してしまうとは、本末転倒である。
かくして四大侯爵、ひいては五大家の当主の座が空いた。
順当な流れでいけば、土魔法が使えないとはいえ実子であるベアトリスが当主となる。
王家がどう決断を下すか。今後の動向を決める上で、重要な局面と言える。
話し終えた令嬢は、レナータの褒め言葉に満面の笑みを浮かべて帰って行った。
その後ろ姿が見えなくなっても、開いた口が塞がらない。
「はえ〜……」
「偶然にしては、タイミングが良すぎますわね。ベアトリス嬢が何かしたようですけれど……魔力暴走は人の手で起こせますの?」
「やろうと思えばって感じです。魔力を人に流し込んで、それがその人にとって多かったらなりますね」
「……ヘイダス・アズレイア侯爵の魔力量は、決して高くないと噂されておりましたわ。それが事実で、尚且つベアトリス嬢の魔力量が多ければ起こせる訳ですわね」
「でも、ベアちゃんにその辺りは詳しく話してないです。私もよく分からないですし」
「貴女の話から推測し、行ったと考えられますわ。それも、彼女自身が魔力について知っていたことになりますわね」
考え込むレナータに、フィアンナは自分が思った事を話す。勘だが、間違っていない気がするのだ。
「もしかしたら……ベアちゃん、無意識にスキルが使えていたかもです。私も、酷い状況で生き残ろうとして、スキルが発現しましたから」
意識せずにスキルが発動する事は、一桁程度の前例がある。いずれも、極限状態による生命の危機に対しての反応だと、ビーから教わった。
稀な例が近年で二件。ビーが狂喜乱舞する様が浮かぶ。並行して、ベアトリスの白い肌が脳裏を過ぎった。
プルプルとしたあの肌を守ったのも、スキルなのだろう。フィアンナでも想像がついた。
不意に、レナータはため息をつく。疲れを癒すべく、手元の紅茶を優雅に飲み干した。
「フィアンナとの会話から、ベアトリス嬢も決意なされたのでしょう。つまり、彼女はワタクシ達の味方と考えて問題ありませんわ」
「やった!」
ベアトリスが仲間になった。状況的にも感情的にも大感激である。しかも、流れ的に侯爵当主の席付き。豪華なセットだ。
「四大侯爵の一人がこちら側。侯爵令嬢とするより遥かに信頼できますわね。これで、流れはこちら側に来ましたわよ。追い風が強すぎて、体幹をしっかりしなければ飛ばされてしまいそうですわ」
「いい事です! その風で奴らを地の果てまで吹き飛ばしたい……!」
「ですが、ほぼ確定の状態では少々危険ですわね。頃合いを見て、ベアトリス嬢の真意をきちんと確認しなければなりませんわ」
「そうですね。あとビーさんと一緒に、スキルの確認もしたいです」
「正式な発表があり次第、ワタクシの名で連絡を致しますわ」
レナータの言葉がとても心強い。当主となったベアトリスとは、中々会えなくなるだろう。
多忙になる前に、またお茶会をしたいものだ。
呑気なフィアンナの考え。そんなものは軽い物だと、次々と届く大ニュースが告げた。
「侯爵当主のベアちゃんが味方で、こっち優勢になった。そう考えていた時期が私にもありました」
「それ以上の事態ですわよ……ワタクシも考えが及びませんでしたわ。ねぇ、時の方、ベアトリス嬢?」
「レナータ様に、褒められると、嬉しいです。アンナちゃんの、役に、立ったのが、もっと嬉しい、です」
フィアンナとレナータが気落ちする中、一人ニコニコと微笑んでいるベアトリス。
渦中の人物とは思えない落ち着きようだ。肝が据わっている。
王都でも有名なカフェの二階。貸し切りにした空間で、三人は近況報告という名のお茶をしている。
結構な時間が経っており、飲み物も茶菓子も残り少ない。
甘味を堪能しながら、ベアトリスはたまに立っては窓の側に行く。
そして手を振ると、外にいる民衆の歓声が響き渡った。多くの民にとって、今やベアトリスは英雄に近い。
何せ、アズレイア侯爵家を王家から離し、真っ向から否定したのだ。
不満不平を抱いていた多くの民は、アズレイア侯爵ベアトリスの名の元、表立って爆発させられる。待ち望んでいた時だろう。
「まさか、面と向かって王家に歯向かうとは……一欠片も思いませんでしたわ……」
「事実しか、言ってません。前当主が、身をもって、王家と四大侯爵家は、当てにならないと、教えて、くれました」
「そうそう、、気になってたんだけど……魔力暴走起こしたの、ベアちゃんが何か」
「アンナちゃん。愚図で役立たずと、言われてたから、出来るはずない、よ」
「あ、はい」
淑女の微笑で、圧がかけられた。余計な事を考えるなという事だろう。物理的にも口を閉じるよう、ケーキを掬ったスプーンを差し出される。
口に入れれば、甘酸っぱいフルーツの味が広がった。美味だ。
フィアンナはおそらく、半分くらい理解しきれてない




