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「ベアちゃんの笑顔を曇らせるアズレイア侯爵を生かしておくべきかぁ……!」

「それはそうだけど……フィアが手を出しすぎても、よくないと思うよ」

「えっ、どうしてですか?」

「話を聞く限り、その令嬢はかなり受動的だね。主な原因はもちろん父親。その状態で、他人に父親が排除されたらどうなるか。理不尽に耐える事に慣れすぎて、今後も人に流されるだけの人生になると思うよ」

「さ……さすがディル様! 考えつかなかったです!」


 言われてみればその通りだ。仲良くなったとはいえ、ベアトリスから話題を振ることも、要望を言うこともない。

 可愛い可愛いベアトリスは人生を満喫して幸せになるべきなのだ。

 頭のいいディルムに尊敬の眼差しとキスを贈る。 ディルムからもお返しのキスを貰いつつ、フィアンナは口を開く。


「ベアちゃんが侯爵と対峙するには、どうするべきですかね?」

「その辺りは、レナータ嬢に考えてもらう方がいい。僕は実際に会っていないから、いい案が出てこないよ」

「それもそうですね……」

「ただ、策を思いついても時間はかかってしまう。フィアと離れ離れの時間が……辛い…………!」

「私もです…………!」

「その上、王家側に頭が切れる相手がいるとなると……ビーや僕達も動きにくくてさらに時間がかかる」

「あの腹黒子供めぇ……!」


 フィアンナの頭に、赤髪が一瞬過ぎる。髪色だけだ。ディルムを前に、敵意しかない男など思い浮かべたくない。

 それすらもすぐに消し、愛しのディルムだけを見つめる。何百回見ても素敵な人だ。

 特に目を伏せて考えるディルムは更に素敵だ。その表情を間近で見られるのは、フィアンナの特権だ。うっとりとしてしまう。


「しかし、()()()()()()()()()()()とは……それを言い出す女も、応える王家側も、性根まで腐ってる……宰相子息が火消ししていたから、ほとんど広まらなかったようだね」

「はい。レナータお姉様は一応屑野郎の婚約者だったから知っていたようです。それ以外だと、ひと握りの侯爵家くらいだとか」

「激昂したとはいえ、人前で自分から暴露しかけたんだ。本人達に罪悪感はなさそうだね。吐き気がするよ」

「全くです」


 フィアンナもディルムも不快感を表す。それ程、五大家と性女が受け付けない。





 現デンバー子爵は、五大家の息がかかった男性だ。

 性女の家族は本人を除き、デンバー子爵夫婦、長女次女と双子の長男と四女。

 六人が揃って毒杯で亡くなったのは、約一年前。丁度、聖魔法により性女が五大家に保護された頃だ。


 学園の案内が終わり、三人でお茶をしている時に聞いた話だ。レナータが堂々と語りながらも常に周囲を確認し、ベアトリスは他に聞かれていないかと青ざめていた。

 そこまで警戒する必要があるかと思ったが、どうやらフィアンナの煽りも関わっているらしい。



 人知れず捕縛、処刑されたデンバー子爵一家。

 罪状は、聖魔法使いを国に隠していたから。



 性女曰く、家族揃って聖魔法を知っていたのに魔法検査をさせてくれなかった。

 これを受けた能無し王子曰く、これは虐待であり、国益を大いに損失させる重罪である。

 裁判も何もなく、流れ作業のように進んだという。


 しかし、今回のケースは非常に稀であり、多くの貴族が知れば恐怖に顔を白くする程らしい。


 そもそも、魔法検査は高額であり、受けても大抵は適性なしで終わる。その為、殆どの令息令嬢は学園の入学にて魔法検査を受けるだけだ。

 自分の子に聖魔法が出てくるなど、どの親も想像していないだろう。

 仮に性女が言う通り、聖魔法の片鱗を見せていたとする。だが、そこで問題になるのが『異端』の存在だ。

 フィアンナが煽ったように、聖魔法も『異端』も定義としては同じだ。


 五属性に入らない不思議な力。

 子供がその力を発現させたとして、何十年何百年に一人出ればいい聖魔法とは思わないだろう。

 むしろ、ここ十数年で急増している『異端』を先に思いつく。

 そして、『異端』は死の宣告に等しい。我が子が可愛いからこそ、前デンバー子爵夫婦が隠した理由は納得できる。


 偶然に偶然が重なった現実だけを見て、性女は感情的に家族を切り捨てたのだ。

 五大家は当たり前とばかりに止めなかった。


 この事実が広がれば、表面的には従っていた貴族も一気に離れ、五大家へ大ダメージになる。

 そのゴタゴタで、打ち崩す算段もつけやすかったはずだ。

 それがわかっていたからこそ、腹黒子供はあの場で上手く場を治めた。

 今後、ビーも『異端』の真実とこの事実を合わせて仲間を増やしていくだろう。





 最初の情報共有で、ディルムが考えついた内容だ。説明を聞く間、フィアンナはぽかんと口を開けるしか出来なかった。

 フィアンナからの情報でここまで推測できるとは、ディルムの頭の良さは天井知らずである。

 改めて思い返し、記憶と現実で二重に胸がときめいた。


「ああ、フィア……奴らは何をしでかすか分からない。僕は人だから、奴らの思考が予測つかないんだ。もしも、もしも何かあったら……フィアだけでも逃げて欲しいよ」

「ディル様……でも…………」

「……分かってる。フィアは友人を見捨てないだろ? レナータ嬢やベアトリス嬢に何かあったら、フィアは逆に反撃に出てしまう……その時になったら、僕はなりふり構わずそちらに向かう。そして、クロスボウで一人でも多く地獄に送るつもりだ。そうなったら……最後まで、付き合ってくれる?」

「勿論です! 地獄だろうと冥界だろうと無だろうと、何処までもディル様の傍にいます!」

「フィア!」

「ディル様!」


 感極まって強く抱き合う二人。最悪の事態になろうと、気持ちは一つだと改めて感じた時間だった。


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