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 入学式はメインが居なくなった為、勿論中止。

 解散を指示され、外に出る生徒達の声は明るかった。



「初陣を飾りました、ディル様!」

「さすがボクのフィアだよ! 凄い! 可愛くて強い!」

「ディル様ぁ〜!」

「フィアぁ〜!」


『夢路』の花畑に寝転び、愛しのディルムと抱き合いながらフィアンナは勝利を噛み締める。

 間抜けな顔で逃げていったものだ。是非ともディルムにも観てもらいたかったが、顔に降り注ぐ口付けに奴らの記憶は消えた。


「皆喜んでくれたってことは、どれだけ五大家が嫌われてるかわかるね」

「それもありますけど、例年通りだったら三時間は拘束されてたんですって!」

「三時間!? 自慢話なんでしょう!? 馬鹿馬鹿しいよ!」

「本当ですよ! 五大家がいなければ、奴らの息がかかった学園長が話すらしいです!」

「時間の無駄だね。フィアの大切な時間が削られなくて安心したよ」


 ディルムの言葉に首を激しく縦に振る。

 ディルム達との三時間はとても重要で大切な物だが、五大家との三時間は苦痛で拷問に近い。避けられて何よりだ。


 流石に五大家を敬っていても、飲まず食わず動かずで三時間も話を聞くのは辛かったようだ。

 これは、空いた時間で合流したレナータから聞いた話だ。 


 毎年、数人を除いてゲッソリと気力を落として入学式は終わるらしい。学園生活の始まりの日としては、最悪である。

 自由な時間と権力を握っている五人の情けない姿は、上級生も喜んでいたという。




 ただ、もの好きは何処にでもいた。

 あのインパクトはなかなか忘れられない。




『ちょっとそこの平民! テオドール殿下の有難いお言葉が聞けなくなってしまったじゃない! やっぱり聖女様以外でテオドール殿下に相応しいのはアテクシだけだわ! とっととその座を渡しなさい!』

『勿論、熨斗つけて渡しますね』

『きぃぃぃ! 負け惜しみを!』

『いや、渡しますって。要らないし』

『アテクシを馬鹿にして! 平民なら地べたでも這い回ってなさい! 聖女様の代わりになるのはアテクシが相応しいのよ! 家柄も、美貌も、スタイルも!』





 ベアトリスと話しながら建物をでると、すぐに取り巻きを連れた女子生徒に絡まれた。

 盾ロールを越してもはや縦ドリルの女子生徒は、それはもう金切り声で喚く喚く。おかげで、ベアトリスの微笑が曇ってしまったのが解せない。

 それを伝えると、ディルムの眉がへの字を描いた。しかめっ面はレア表情だ。かっこいい。


「フィアに罵声を浴びせるなんて……その虫は何処の住処かな? 突如、クロスボウに射抜かれても問題ない虫? ハリネズミにしてあげるよ」

「私の為に……嬉しいです、ディル様……! でも、そんなメスより、私だけを意識してほしいです!」

「な、なんて健気なんだ! 当たり前だよ! 僕にはフィアだけだよ!」

「ディル様!」

「愛してるよフィア!」

「私も愛してますディル様!」


 強く密着して花畑を転がる。愛おしくて楽しい。


「でも、制裁なしは気が済まないよ。国の立て直しが終わったら、どうにかしてやらないと」

「それなら安心してください。すでに恥をかいているんです、あのメス」


 口に弧を描き、フィアンナはクスクス笑う。あれは面白かった。


「レナータお姉様が来たんです。そしたらまぁ、一気に小物感が出たんです」

「フィアの話だけでも想像つくよ。あのザックスをたじろがせる淑女に、そんなメスが立ち向かえるはずがないよね」

 フィアの髪を撫でながらディルムは告げる。実際、その通りだったので笑顔で頷いた。


 その場にいるだけで圧倒的なオーラを放つレナータに、縦ドリルはたじろいだ。

 自慢げに揺らしていた梨も、自然と揺れるメロン相手では魅力にかける。むしろ悲しくなる。

 縦ドリルは適当な高笑いを上げ、即座に逃げていった。本能で負けを悟っても、はっきりと口にしたくなかったらしい。

 合流したレナータに聞くと、縦ドリルは五大家を心から信仰する伯爵家令嬢との事だ。

 それを聞き、ディルムはため息をつく。


「五大家に関わる人は尽くダメだね。変にプライドが高くて.人の話を聞かない頑固な傲慢さ。面倒だよ。それがなければ今回だって、爪の先程の温情をかけて交渉したというのに」

「本当、この国は一部の異常者の為の国です。私、もう少しまともな所に産まれたかったです……」

「ああ、フィア! その方がフィアに幸せな日々があったというのに、そうだったら僕と出会えなかったという絶望が勝ってしまったよ……!」

「それもそうですね! きっと、いや絶対に私、ディル様に会う為にクソみたいな国に産まれたんです! だから今のこの状況を解決したら、永遠に結ばれるに決まっています!」

「愛してるよフィア!」

「大好きですディル様!」


 愛の前では、理屈や事実は無いに等しい。近況報告の合間に愛の再確認が入るのは、もはや本能的行動。

 会えない分、言葉にして脳裏に叩きつけるのだ。


「それにこんな屑入れのような国でも、レナータお姉様やベアちゃんに会えたのでラッキーです。むしろ奇跡」

「アズレイア侯爵令嬢と仲良くなれたんだね?」

「はい! 屑ばっかの侯爵家に突然変異した優しくて可憐で儚い可愛い子です! レナータお姉様と並ぶと系統の違う美少女二人が両手に花で目が幸せぇ〜ふへへへへへへ」

「フィアの蕩けるような顔も素敵だ……でも、僕以外がさせたって事実に妬いてしまうよ……!」

「ディ、ディル様ぁあああああ!」

「フィアぁあああああああああ!」


 同性にも嫉妬するディルムの愛情を、全身で感じる。嬉しさで爆発しそうだ。

 強く抱きついて頬ずりすれば、優しく背中を撫でられる。幸福というものは天井なく許容できるから、いくらあっても足りない位である。



 入学式中止で空いた時間、レナータに校内を案内してもらった。その間にベアトリスによく話しかけた結果、こちらへの警戒心が解けたようだ。

 吃りは少しずつ改善していき、心から浮かべた微笑。最初に間近で見てしまい、心臓が止まるかと思った。

 幸いにもすぐに耐性ができ、脳にその笑みを焼き付けるべく凝視した。レナータと並ぶ姿はもはや絵画。

 言い値で買うから一流絵師に描いて貰いたい程である。その時に、愛称で呼ばれたいと可愛いお願いをされたのだ。


 全くもって可愛いとしか言えない。


 だが、ベアトリスは暗い顔をする時がある。長年の虐待による自己否定はそう簡単に消えないようだ。

 やはりアズレイア侯爵、ひいては五大家を許してはいけない。

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