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海外式の為、秋の入学です

 

 学園の制服と言われて、思い浮かべるのはまずワンピース。清楚な感じで、それでいて可愛らしい物がいい。

 あとはブラウスとスカート。純白からふんわりと広がる裾はさぞかし愛らしく見せるだろう。




 そんなフィアンナの期待は、黒単体のローブとものの見事に裏切られた。




「ちくしょーめ! やっぱこの国はムリ! ムリ! ディル様に会いたぁぁぁぁぁぁぁい!」

「落ち着きなさいな、フィアンナ」


 王都にあるモンチェ辺境伯のタウンハウス。

 その一室で、可愛げも何もない制服に身を包んだフィアンナは嘆き喚いている。それを、レナータはため息混じりで宥めた。

 だが、同じ制服のはずなのに、レナータの着ている物は別である。


 膝下まであるローブの裾は腰の位置にあり、そこからきっちりとしたマドンナブルーのズボンが足を覆う。

 袖や襟には同じくブルー系統の刺繍で鮮やかに模様が描かれており、リボンタイ位しかお洒落ポイントがないフィアンナとは全然違う。


 これも、ヘンドルスト国(このバカ国家)の悪い風習らしい。


 魔法が使えない生徒は全員黒のローブ。

 魔法使いは自分の魔法をイメージする色合いで、自由に制服をアレンジできるという。

 する気のなかったレナータに強制したあたり、むしろアレンジして魔法使いの偉大さを見せつけろとの事だ。


「雷はイエロー、火はレッド、水はブルー、風はグリーン、土はブラウンとグレイ、聖魔法は特例として全色、と……レナータお姉様とクズ野郎が同じ色なのが解せない」

「あの人達は手を加えすぎて、制服の原型がありませんの。見ても違うとなりますわよ。特にあの女は……女性として、恥ずかしい物ですわね」

「さすが性女だわぁ」


 娼婦真っ青な破廉恥制服なのだろう。ありありと想像が着く。その時、侍女がノックと共に時間を告げる。




 嬉しくない記念日、学園の入学式である。




「行きたくないぁ〜い」

「ベアトリス・アズレイア侯爵令嬢を説得するのでしょう?」

「そうでした!」


 どれだけ嫌がろうが、忘れてはいけない。

 ベアトリスを説得して、この国のあり方に反旗を示してもらう。そうしなければ、ディルムと愛し合えないのだ。

 考えただけでも恐ろしい。

 登校する気は起きたが、基本的には嫌悪感が勝る。渋々ながら馬車に乗り、レナータと学園に向かった。


 王城より少し離れた広い学園。タウンハウスから馬車で十数分程度だ。

 学園内に寮はあるが、書類を見せてもらって驚いた。完全にぼったくり価格である。

 遠方の貴族子息、子女は入らざるを得ないというのに、酷い話である。おまけに、魔法使いなら無料というお触れ付き。

 ここでも魔法贔屓かつ五大家贔屓だ。やはり、この国は歪んでいる。


 学園の見た目も、これまた酷い。

 国の力を見せつけるような、豪華絢爛さ。必要のない金銀の装飾に、五大家を崇めるような彫刻や絵画。フィアンナには金の無駄遣いにしか思えない。

 しかめっ面を隠さないままレナータの後ろを歩き、ついた場所はだだっ広い円形の建物だった。


「ここは?」

「全生徒が集まるホールですわ。基本的には、ここで五大家のお家自慢を聞かされますの」

「なるほど! 懲罰ってことですね!? 私、平民ですから、知らなかったです!」

「ふふっ。素直なフィアンナは可愛らしいけれども、周りにはお気をつけなさい?」


 人差し指を口に立てるレナータがセクシーすぎる。見惚れつつも、指摘された事は反省した。

 今は近くに人がいないが、いたら能無し王子や性女、クズ野郎と他二人に知られる可能性があった。危ない。つい、邸にいる雰囲気で話していた。

 失言しないよう、両手で口を押さえる。


「大まかな席は決まっておりますの。今日は入学式ですから、新入生が前方になりますわ。その中でも、爵位が高い者から座るようになっておりますわよ。貴女は四大侯爵家、最前列ですわ」

「私、平民ですから」

「残念ながら通じませんの。メリットはアズレイア侯爵令嬢がすぐ近くに居られること。デメリットは……殿下達が声をかけることですわ。特にデンバー子爵令嬢。アズレイア侯爵令嬢を見下しに来ますわね、確実に」

「四大侯爵家なのに魔法使いじゃないからですか?」

「そこに美貌の嫉妬も混じえると思いますわ。フィアンナも、自分の身代わりだと下に見るでしょうから注意なさい」

「イエス、レナータお姉様!」


 やる気に溢れた返事をする。

 フィアンナにすれば、向こうからの攻撃はカウンターで言いたい放題できるチャンス。苛立つ気持ちを倍返しにするつもりである。

 レナータは期待するとばかりに美しく微笑んだ後、ホールに入っていった。すくに後を追わず、時間を少し空ける。

 魔法使いであるレナータと一緒にいれば、身内だろうと羨望の目が向けられてしまう。

 そうなるとフィアンナに対して無意識に壁を作り、今後の行動に支障を来すからだ。

 流石ディルム、賢い考え方である。思い返すだけでうっとりとしてしまう。

 だが、横切る人の視線が向けられる事で我に返った。


 王子の仮の婚約者、仮の王妃予定。目立つのは仕方ないが、不審がられてはいけない。


 意を決してホールの中に入る。劇場のような造りで、舞台と観客席に分かれている。

 時間ギリギリだからか、殆どの席が埋まっていて、近くの親しい人と話しているようだ。


 舞台中央にマイクスタンド、その後ろには馬鹿丸出しの椅子が六個並んでいた。

 これでもかと魔法を強調した装飾の椅子の中で、一つだけの粗末なボロ椅子が変に目立つ。

 恐らく、というよりは間違いなく、フィアンナの席だろう。性女の代わり、本当に仕方なく座らせるという意思表示に違いない。そんなの、こちらこそお断りだ。


 レナータに教わった通り、背筋を伸ばして毅然と歩く。

 最前列を目指すフィアンナの耳に、他の生徒のヒソヒソ話が聞こえてくる。



「あの人が例の……」

「そうじゃない……?」



 女生徒の不安そうな声。仮の王妃を心配しているのか、今後の自分達を心配しているのか。




「聖女様の代わりにならなさそうだな」

「ああ。オーラがねぇ」




 男生徒の呆れ声。性女オーラなどいらない。




「アズレイアの令嬢とどうなるんでしょうねぇ?」

「仲違いではありませんの? アズレイア令嬢、魔力がないから殿下のお眼鏡にかなわなかったと言うのに」

「同じ立場の令嬢が婚約者ですもの。ああ、お可哀想」

「四大侯爵家の名折れですわよねぇ?」

「でも、結局あの方も名前だけでしょう? どちらも可哀想ですわねぇ?」




 明らかに嘲笑う女生徒の声。上から目線で笑っているが、僻みに聞こえるのは気の所為ではないはずだ。




「ベアトリス様、大丈夫かな……」

「守りたくても守れないのが辛え」




 悲観する男生徒の声。ベアトリス・アズレイア侯爵令嬢のファンのようだ。こういう性格の人が味方になって欲しい。


 色々と考えながら最前列まで来ると、一人だけ座っている女生徒を見かけた。

 視界に入れた途端、全ての思考が弾け飛んだ。



「ヒォエック!?」


 言葉にならない声が口から出た。それさえも気にならず、ただただ視界に映る少女を目に焼き付ける。



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