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衝撃の事実
長年の差別は、大きな権力に歯向かうという反抗心を削ぎきってしまった。
逆らわなければ、細々とでも生きていける。心に染み込んた意識は抜けやしない。
他国の援助と『異端』の真実。『異端』として身内を亡くした人ならまだしも、普通に暮らせている人が立ち上がるには弱いようだ。
「不満を持つ全員を立ち上がらせるには、もっと大きな要因が必要だ。それこそ、国が揺らいでチャンスだと思わせるような強い要因が、だ」
「アズレイア侯爵の子供はどうです? 酷い扱いされてるって話ですし」
「ええ!? ほんとうのいみで、かれんではかないベアトリスじょうをやおもてに!?」
「え!? 令嬢!?」
アダムの反論に開いた口が塞がらない。
令嬢。その可能性が頭からすっぽ抜けていた。他が令息でこぞって性女に侍っているからだろう。
むうとぷにぷにの頬っぺを膨らませて、アダムは不満げにフィアンナを睨む。
怒っている意思表示とわかるが、なんとも愛らしい姿である。
その横で、モンチェ夫婦も難しい顔をしていた。
「確かに、彼女が旗印となれば誰もが立ち上がる。しかし、そういう事が苦手な令嬢だったはずだ」
「そうねぇ。領民に分け隔てなく接する心優しい令嬢よ。でも、父親には逆らえない子よね?」
「お父様もお母様も、アズレイア侯爵の陰湿そうなお顔付きを覚えております? あれは自分の野望の為なら、他人はどうでもいいタイプですわよ。土魔法が使えないならと、自分に逆らわないよう洗脳していても可笑しくありませんわ」
「……『せいまほう』つかいがでたときいて、まっさきにベアトリス・アズレイアれいじょうだとおもいました。ねね様からきくせいじょより、ベアトリスじょうのほうがいいです」
各々の意見を聞きながら、フィアンナは考える。
モンチェ一家からの高評価から、間違いなく常識人だ。
その上で可憐な見た目に優しい性格となれば、革命の先頭で勝利を導く聖女と祀られて問題ない。
偶像があれば指揮も上がる。いい事づくめだ。
四人とも、難しいというだけで反対意見がない。適任と少しでも思っている証拠だ。
ビーも同じ意見なようで、満足そうに頷いている。
「ハオハオ。その子をこっちに引きずり込む、メインミッションネ! 上手く接点作るヨ! どうするネ!?」
「彼女はフィアンナと同い年。つまり、フィアンナが学園で距離を詰めるべきですわ。ワタクシも、学年が違いますが援護は致しますわよ」
「レナータお姉様がいるなら百人力です! 頑張りますね!」
「ただ、ヴァネッサ・デンバー子爵令嬢が殿下達を引き連れて絡んできますわ。間違いありませんわよ。あの女、地位が高い令嬢を見下したい病気ですもの」
「私が近くにいたら、思いっきり煽っていいですか?」
「むしろガッツリやりなさいな。激昂するあの人々で、皆の心は五大家から更に離れますわよ!」
レナータのお墨付きが出た。心置きなく煽れるとガッツポーズをする。
崇めざるを得ない、権力を振りかざすだけの人間達。外から来た小娘一人に地団駄を踏む姿は、さぞかし滑稽だろう。
そこにモンチェ辺境伯令嬢と地位のあるレナータが誘いをかける。『異端』が治った事実と次期辺境伯すら見捨てた王家に、不信感が倍増しだ。
「水面下で準備を進めていって、アズレイア侯爵令嬢を説得してこちら側に来てもらう! 上手く行けばかなり有利になりますね!」
「その通りだわ」
「民も反旗を翻し、盤面がひっくり返るだろう」
「方向性は決まりネ! ヨシ!」
ビーが嬉しそうに手を叩く。笑顔で応えるモンチェ辺境伯は、テーブルの上に何枚も紙を並べた。
文章が凝縮された誓約書だ。見ているだけで頭が痛くなる。
それに目を通しながら、ビーは疑問に思った部分を指摘する。対してモンチェ夫婦が答え、また指摘と説明。
互いに納得出来れば、その文章を書き直していく。完成された書類では無いらしい。
これは重要なやり取りだ。誓約をもって、詳細を詰める。
話の流れはわかる。言葉もわかる。だが、意味がわからない。
ただでさえ難しい話を、堅苦しく綴っているのだ。理解できない。
いつもなら、ディルムが分かりやすく訳して耳元で囁いてくれる。吐息と共に耳から幸せが内側に入る、あの恍惚感は忘れられない。
混乱するフィアンナを他所に、話し合いはどんどん進む。レナータは無論のこと、アダムまでもが自分の意見を述べている。
蚊帳の外のフィアンナは逃げ出したいが、タイミングか不明だ。どうするかと悩み始めた所で、ドアノックという天の助けが入った。
「対談中失礼します。ザックス・コンスタ」
「ザックス様が来られましたのね!?」
執事の言葉はレナータの歓声で途切れた。ダンっとテーブルを叩いて立ち上がったレナータに、全員の目が向く。
『早替』を使ったらしく、ゆったりとしたドレスから身体の線が際立つドレスになっている。
スタイルの良さと剣を振るう細腕を出した方が、ザックスの反応がいいからだろう。単に慣れていない可能性もあるが、レナータにしてみれば武器に変わりない。
「後で書類を確認させていただきますわねお父様! ザックス様、今参りますわ〜!」
「あ、レナータお姉様見張っときますんで!」
これがチャンスだ。フィアンナは心でザックスに感謝する。
そのまま、意気揚々と部屋から小走りで出ていくレナータの後を追った。
敢えてアズレイア令息とかは書かなかったです
次回、パラロック国目線です




