表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

2

話が進むまで時間がかかります


 

 森林を表す綺麗な緑髪に、淡く輝くピンクの瞳は恋を象徴するローズクォーツみたい。

 義父の髪色と義母の眼を受け継いだ次期男爵、ディルム・カドヴァーノ。今年で二十一歳を迎えるが、誕生日はまだ来ていない。だからフィアンナより、()()()()()()()()上である。


 ディルムは様々な知識を持ち、狭い世界で生きていたフィアンナを優しく支えてくれる。

 とても素敵な人、フィアンナの運命の人。間違いない。ディルムも、同じく自分を運命の人だと言い、愛の真綿で包み込んでくれる。



 これを最高の日々と言わず、何を最高とするか分からない。

 運命を間違えず、相手と心から愛し合う。どんな御伽噺も敵わない、フィアンナとディルムの物語だ。



 それが嬉しくて嬉しくて、自然と口角が上がる。

 それはディルムも同じで、互いの気持ちも一緒だと更にときめいてしまう。早く結婚したい。そうすれば、一時も離れず傍に居られる。


 しばらく微笑みあっていたが、不意にディルムが眉尻を下げた。驚くフィアンナの頬に手を添えて、悩ましげにため息をつく。


「僕のフィア……実は、暫く仕事が忙しくなりそうなんだよ」

「そんな……! 何があったんですか……?」

「私から話すよ。カドヴァーノ家に関わる話だからね」


 ディルムに代わり、カミルが口を挟む。家全体の問題となれば、フローラが主体に動く必要がある。

 カミルは二人を見た後、フローラと目を合わせてから話を切り出した。


「一昨日、国境を通った人々の中に良くない人が混ざっていたようなんだよ、フローラ」

「あらあら。どういう人かしら?」

()()()()()()()()()()()()

「あの()()()()がこの国に!?」


 フローラの反応にフィアンナは目を丸くした。淑女の鑑、常に穏やかで微笑んでいる。その義母が、不快感を顕に言葉を荒らげた。

 恐ろしくてディルムに寄り添えば、ディルムもそっとフィアンナに寄り添う。

 より密着して体が蕩けそうだ。顔はもう蕩けている気がする。ディルムの前では些細なことだ。


 しかし、ディルムが忙しくなる事は二人の時間が削れる事を意味する。そこまでして警戒するヘンドルスト国とは、どういう国だろうか。

 フィアンナの頭に合わせた勉強スケジュールは、まだパラロック国さえも終わっていない。他国、それも面倒そうな国についてなど後回しにされているだろう。

 それならそれで構わないが、ディルムの手を煩わせるのは許せない。全く知らない国に怒りが湧く。

 ヘンドルスト国を敵とみなして、ディルムに詳しく聞こうと口を開いた。




 瞬間、激しい振動と音が響き渡った。




「あひゃあ!?」

「何事だ!?」


 質問は悲鳴に変わり、ディルムの胸元で縮こまる。フィアンナを包み、ディルムは叫んだ。

 その問いに使用人達が返す前に、答えは複数の金属音と共にやってきた。


 鎧を身につけた騎士が五、六人。我が物顔でカドヴァーノ邸を歩いていた。


 制止をかける侍女を無視し、前に立ふさがる侍従を払い除け、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。少なくとも、友好的な態度ではない。

 先頭を行く男に、他が付き従っているように見える。濃い紫色の髪を切りそろえ、鋭い瞳は髪より薄い紫色。

 フィアンナのパンジー色の髪とラベンダー色の瞳に色合いが似ていて、不愉快になった。


「何者だ!? 勝手に邸に入るなんて無礼だ!!」

「男爵風情が何を言う。こちらは侯爵だ、弁えろ」


 淡々と吐き捨てる男。さも当然の態度に、唖然とした。



 男爵は夫人の方だ。この男、明らかに間違えている。

 侯爵だとしても、礼儀作法を知らないのか。

 土足で無断侵入した馬鹿男に弁える道理はない。



 ツッコミどころ満載だ。これがヘンドルスト国から来た者に違いない。フローラが嫌悪する気持ちがよくわかる。むしろ、普通の常識人が擁護する点が一欠片もない。

 そして、その馬鹿な男がディルムとフィアンナを目的に大股歩きしてくる。不快感に鳥肌が立ってきた。


()()()()()()()()()()()

「は、はぁあああ!? 知らない男が名前を呼ばないでください!」

「そうだ! フィアの名が汚れる! 帰れ!」


 怖い。怖すぎて、全身にさぶいぼを立てながら逆切れした。

 ディルムが護るようにフィアンナを更に抱きしめてくれ、触れた部分から不快感が浄化していく気分だ。さすが愛しいディルム。

 たったそれだけの反感が気に食わなかったのだろう。男はぴくりと眉を上げ、腰に下げた得物に手をかけた。



 驚く間もなく、頭に強い衝撃を受ける。

 痛いとか、何でとか、鞘付きとか、いろいろと考える前に意識が真っ暗になった。


明日以降は12時更新になります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ