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 ディルムと当の本人から聞かされた話だ。



 金龍帝国の中で最も実権を握っているのは、齢七十二の前皇帝である。

 圧倒的に秀でた手腕と美貌に多くの配下が娘を差し出し、精力も人一倍の皇帝は断らずに後宮の華とさせた。


 結果として、十数人と子宝にも恵まれた。


 その内の一人、こちらの文化に魅了された皇女がいた。

 彼女は父親と話し合い、商人と共に渡航。様々な国を渡り歩き、パラロック国の商人と恋に落ちて結ばれた。


 そこで産まれたのがビーだ。

 祖父直々に名付けがされたが、パラロック国では浮くからと本名を文字ってビーと名乗っている。


 由緒ある血筋なのだが、如何せん普段の奇行で忘れがちだ。身につけた民族衣装で、改めて思い出す位である。

 本人も血筋については、高貴さよりスキル研究に融通が利かせられるおまけ扱いである。魔術団長まで登りつめたのは、純粋なビーの実力だ。





 話を聞き終えたレナータ達は皆、口をぽかんと開けている。

 辻褄が合っていても、現実として受け入れるには時間がかかる内容だ。仕方ない。フィアンナも同じ反応だった。

 ディルムが可愛かったと褒めてくれたのが思い起こせる。

 意を決して言葉を発したのは、レナータだった。


「ワタクシの記憶が正しければ、かの人は夕方に、護衛と共に来られる筈ではありませんでしたか?」

「多分、というか確実に、ビーさんの暴走ですね」


 スキルが認知された周辺国では、魔力暴走は即座に処置されて治る症状だ。ビーが直接、見られる機会は殆どない。


 研究家、収集家、オタクなど、スキルの変人とまで認識されているビーにとって、この機会は涎物だろう。


 待ちきれず、『抽出』しておいた『転移』で侵入した様子がありありと浮かぶ。

 魔力量を多く消費して来た可能性もあるが、それなら屋敷内に転移するはずだ。

 馬車を使ったのなら、別の方法だと思う。確か『共有』というスキル。一定時間、指定した相手と同じ感覚を得るという使いどころが不明なスキルだが、それをフィアンナに使えば『転移』の対象にこの国が選べる。

 あとは、適当に馬車を捕まえのだろう。


「ビーさんがいないなんて、賢いディル様はすぐ気づきます。頭のいいディル様ですから、この状況も察すると思います。すると……どうなると思います?」

「……向こうの方々が御冠になりそうですわ」

「その通り! もう少ししたら、怒った騎士団長が来ると思います」

「……フィアンナ。自分を平民だと断言する割には、交友関係が可笑しいですわよ?」

「この国では平民ですから! 誘拐されて何年も経ちますんで、令嬢の肩書きなんて今更ですよ! あと、交友関係はディル様のおかげです!」

「ディル様?」

「はい! ディル様は男爵子息なのですが王子の乳母兄弟ででも後ろ盾だと驕るどころか謙虚で素敵で格好よくて初めてお会いしたのは半年前の」



 愛する運命の人。

 ありきたりでも、想いを込めた称賛の言葉で語り続ける。



 離れていても燃え続け、会えばより強く燃え上がる恋の炎。

 フィアンナには簡潔にまとめる語彙力がないので、言葉の数で表すしかない。


「素敵な恋心ね」

「はい! そうなんですよレナータお姉、さ……はぅわ!?」


 声をかけられて、フィアンナはハッと我に返った。



 やってしまった。レナータの前でディルムの話は避けていたのに、やってしまった。



 失恋した事実は、鋭い棘になって暫くは抜けない。

 相手がレナータの足元にも及ばない最低最悪男でも、上手く切りかえられないものだ。

 ディルムとの惚気話なぞ、傷口に塩を塗り込む所業になる。だから気をつけていたのに、到着した気の緩みが出てしまった。

 真正面からレナータが見られなくなり、顔を背けた。


「あわあわあわわわわわわ……」

「もしかして、ワタクシに遠慮しておりますの? 別に構いませんわよ? 消えてしまった可愛い従姉妹の恋話、聞けるとは思っていませんでしたもの。それに、他国の事情は何でも知っておきたいわ。さぁ、もっとお話しなさい?」

「ひぇぇ……」


 圧がすごい。話す内容を考えさせられ、逆に話しにくい。チラッと視線を戻すと、淑女と呼ぶに相応しい美しい微笑みを浮かべていた。より話しづらい。

 上手く躱すにはと考え始めた時、ゆっくりとした扉の開閉音が聞こえた。その場の全員が一斉にそちらを見る。


 僅かに開いた扉の隙間から、外を伺っている感じだ。やがて、更に扉が動いて中から人が出てきた。


 使用人が五、六人。その後ろから護られるように、品のいい婦人と幼い男の子が出てきた。

 幼い子以外、憔悴しきった顔つきだ。婦人も纏めたカメリア色の髪が解れているが、手直しするという選択肢が誰の頭にもないようだ。

 唯一、元気がありそうな少年も、ライトブルーの髪が乱れていた。泣き腫らした後らしく、頬に涙跡がはっきりとある。

 髪よりも若干明るい色の大きな瞳は片方を無骨な眼帯で覆っていて、夫人と手を繋いでやっと歩けている状態だ。

 外にいた人々は驚き固まった。だが、次第に状況を理解して涙を流し始める。歓喜の涙だと、表情が語っている。



 そして、歓声と共に駆け寄った。



Q.何故、東の国が出てきたか

A.ビーにチャイナ服着せたかった

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