母が来た
失敗して落ち込んだ日、追い打ちをかけるように母がやってきた。避けられない母とのバトルに光は、立ち向かう
7、母が来た
「はああ~っつ。」
黒田からのしっ責を受けた日、光は、帰宅するなりソファーに倒れこんでクッションに吐き出した。
その時、
ピンポーン!
とチャイムが鳴った。
・・・誰だろう?宅配便を頼んだ覚えはない。ということは、出ないに限る。無視しよう。そう決めた途端に
ピンポーン。ピンポーン。
と、お決まりに再度チャイムが鳴り、
ピンポン。ピンポン。ピンポン。
と、連打されてしまった。
・・・随分と気合いが入ってるな。と思ったら
「光。お母さんよ。開けなさい。いるんでしょう?」
と叫びながら、ドアをドンドン叩かれた。
・・・うそ。お母さん?なんで?
びっくりして、ソファーから飛び上がり、玄関にダッシュした。覗き穴から見たら、間違いない、母だ。
これ以上、騒がれては、大変だ。
「ちょっと、開けるから、これ以上騒がないで」
光は、急いでドアを開けた。
「あんた。一体どういうことなの」
母は、そうわめきながら、光を押しのけて家に上がり込む。そして、光の1kの部屋をあら捜しをするようにザッと見回した。光は、そんな母の後ろ姿を見ながら、母の気合いのレベルを確認していた。髪をアップにして、シルバーの揺れるタイプのイヤリングをしている。白のレース袖のブラウスにラベンダーのロングスカート、左手に紺のスプリングコート、ん?コートの下に見えているのは、ボストンバッグだ。まさか、泊まる気なの?びっくりした光が注視する中、
「何この部屋。狭いわねえ」
と文句を言いながら、母は、ボストンバッグをソファーの脇に置いて、ベッド横壁のハンガーにコートをかけた。そのままドンとソファーに腰掛けて
「さあ、どういうことなのか聞かせてちょうだい。どうして仕事を辞めたの?お付き合いしていた人とは、どうなったの?なんで電話に出ないの?」
玄関に突っ立ったままの光に母は、上半身だけグッと向けて鬼のような顔と声で矢継ぎ早に責めてくる。
これでもまだ、母が抑え気味なのが分かる。都会に出てくるからと、オシャレしたことで怒りのトーンもよそ行きバージョンになっている。久しぶりに見る怒った母に、案外落ち着いている自分自身に少し驚きつつ光は、玄関ドアに鍵をかけて、コッソリ健太兄に「お母さんが来ちゃった。助けて」とLINEを送った。送信されたことを確認して、すうっと息を吸ってから振り返って母と向き合った。
・・・今日は、よく立ちっぱなしになる日だな。