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24.翔の言いたかったこと

ガンさん同席の元、翔との話し合いが始まった。翔は何を話すつもりだろう。今までの2人で過ごした時間への答えは出るのだろうか?

 24.翔の言いたかったこと

「くそっつ。何でこんなことに」

 光が思っていた通り、ガンさんは、心の中でつぶやいて、その気持ちをぶつけるようにアイスコーヒーの氷をストローつつく。チラッと観葉植物の隙間から、右斜め前を見ると、先日の男が座っていた。光と同い年くらいということだが、ガンさんから見れば、まだ若造だ。見た感じも特徴的なところはなく、いたって普通の青年という感じだが、まあ身長もあるし、イケメンといえばイケメンの類になるんだろうなと見ていた。

「会ってくれてありがとう。」

 それまで黙っていた男が口を開き、ガンさんは、ハッとしてアイスコーヒーの氷をつつく手を止めて、聞き耳を立てた。

「あの男の人は、新村さんが半年前まで交際されていた人なんです。新村さんは、結婚まで考えていたということで、そういう人との話し合いの場にガンさんに同席してほしいと、まあ、ガンさんに男性の人物評価をしてほしいと、いうことなんですね。」という黒田の言葉が甦る。

「はああ~。オレなんかが人物評価って、柄でもないし、関係ないだろう。」驚いて、反論したが、

「そうそう、関係ないからこそ、公平な評価をしてもらえると、新村さんは、ガンさんを信じているんですよ。」

「何言ってんだよ。関係ないなら、クロさんも同じだろう。」

 俺は、もう聞かんぞと意思表示をしたつもりだったが、

「でも、さっきは、行きがかり上、どうなったか聞いておきたいと言ってませんでしたっけ?」

 そう、黒田に言われて、ガンさんはグッと言葉を詰まらせた。しまった。と、クロさんをチラッと見ると、いつもの柔和な表情ではなくて、逃がさないというような目で、こちらを見ている。こういう時のクロさんからは、逃げられない。どう言っても、言い返されるに決まっている。ガンさんは、ハアァとため息をついて、「分かったよ。」とボソッと返事をしたのだった。


「あの、ごめんな。」光に礼を言った後に翔が続ける。

「俺、あれから光に連絡したかったんだけど、電話もLINEも繋がらないし、家に行ったけど引っ越してるし、どうしようもないと思っていたら、ここで光に会えたんだ。今を逃すと、もう二度と会えないと思って焦ってしまった。」

 会いたいと言っていたのに、翔は、光と視線を合わせようとせずにテーブルの上で組んだ自分の手を見つめている。やっと顔を上げたら、

「それにしても驚いたな、光が病院の警備員をしているだなんで」

「意外だった?」

 大したことを言わないんだなと、光は、自分でも不思議なくらい落ち着いていた。ガンさんが傍にいる為だと思う。安心しているのとガンさんの前なんだから、しっかりしないと、という気持ちがあって、ちょっと強気になっている。

「ああ、俺が知っている光は、もっと大人しいっていうか、運動系のイメージがなかったからさ。」

「そうかな。そういえば、運動系の事ってあんまり一緒にしなかったね。」

 光は、そう言って、口をつぐんだ。デートでプールに行ったり、スポーツ観戦も行ったけど、そんなにアクティブなことは、してこなかったのかもしれない。翔も同じように思い出しているのだろうか?

「5年も一緒にいたのにな。俺、まだまだ光のこと、何も知らないんだな。」

 愛おしそうな目で光を見る翔の顔を見て、

 ・・・ああ、この表情だ。翔にこうして見つめてもらえることで、大事にされてるって感じる。嬉しいって思う。だから、

「私も翔が、平気で二股かけて浮気する人間だなんて知らなかった。」

 あの時の気持ちが甦る。このまま一気に、あの時言えなかったことを言ってしまいたい。でも、ガマンした。まだだ、先に翔が話すべきだ。この時間を作りたかった翔の真意をガンさんにも聞いてもらわなきゃと、光は、翔の言葉を待った。

「俺も自分でもあの頃は、どうかしていたんだと思う。」

 光にズバリと指摘をされて、一瞬ひるんだ様子の翔だったのだが、苦しそうな表情で話し始めた。

「あの頃、光にはちゃんと言ってなかったけど、俺はこのまま光と結婚するのかな?って思ってた。その一方で、それでいいのかなっていう気持ちがあったんだ。光に不満があった訳じゃない。ただ、自分の人生が決ってしまうことが、どこか、まだ早いような抵抗したい気持ちだったんだ。そんな時に杉本さんと親しくなっていって、俺は、入社した時から光と付き合ってたから、こんなこと言って、ごめん。杉本さんと社会人として女性と付き合うことが、新鮮な気持ちがして楽しかった。それで、俺は、勘違いして、俺はモテるんだ。俺の人生は、まだまだこれから新しいことが起こっていくんだから、人生を決めるのは早いって思ってしまった。それが、どんなに光を傷つけていたのかわかってなかった。本当にごめんなさい。」

 翔は、テーブルに額をつけて謝った。

「・・・それで、私と何の話をしようというの?」

 まるで他人事のように冷たく言う光に驚いて、翔はオロオロと話しを続ける。他人事のように聞かないと、とても平静を保ってはいられない光の気持ちなど、分からないだろう。

「うん、えっと。さっきも言ったけど、そんなの全部、俺の勘違いだったんだ。新鮮に見えた杉本さんとのことも慣れてくると違和感っていうか、どうしても光と比べてしまって、違うなっていう気持ちが強くなっていったんだ。よく考えたら、杉本さんが好きで付き合ったんじゃなくて、モテてる自分に調子に乗ってただけだったんだ。これは、光にだけじゃなくて、杉本さんにも失礼なんだけど、実は彼女も俺のことが好きじゃなかったんだ。」

 ここで、翔は一つ区切って、

「春に転勤して来たヤツがいてさ、今はそっと付き合おうとしてるよ。出世しそうなカッコイイ男なら誰でもよくて、別に俺のことが好きだった訳じゃない。自分が被害者だっていう訳じゃないけど、俺とのことは何だったんだよって思った。それでやっと目が覚めたんだ。自分が調子にのってたこと、光をどれだけ傷つけたのか、自分が同じ目に合ってようやく分かったよ。だから、ちゃんと謝りたかった。」

 ここまで言ってから、翔は光の目を真っ直ぐに見て続けた。

「もう一つ分かったんだ。新村 光っていう人が、どれだけ素敵な女性だったか、俺にとってどれだけ大切な人だったか、俺がバカだったんだ。でも、もう間違えない。もう一度、俺とやり直してください。」

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