22.ガンさんにお願いします。
翔と話し合うことを決めたものの、1人では不安な光は、ガンさんに相談してみた。つれなくされたが、黒田さんに話すうちに、どうしてガンさんを頼るのか?自分の気持ちに気付いた光だった。黒田には、何か考えがあるらしく、ガンさんの説得を引き受けてくれたのだった。
22.ガンさんにお願いします。
「何で俺なんだよ。」
勤務の空き時間に光が、岩村さんに相談したいことがあると言ったら、返ってきたのが、その言葉だった。
「えっと、岩村さんには、一番始めにご迷惑をおかけしているので、それで・・・」
「んなもん、どうだっていいよ。前にも言ったろ。俺は、迷惑だとか思わないし、お前がどうだとか詮索する気もないから、気にすんな。」
そう言い捨てて、さっさと行ってしまった。取り残された光は、ため息をつく。光は、気付いていないが、この様子を野間弟が見ており、黒田は、どちらの様子も見ている。
「ふーっつ。」
っと、息を吐いて、あの日、広崎先輩と別れた時のことを思い出す。翔のLINEのブロックを解除し、「あなたの話を聞きます。日時と場所は、後日改めて連絡します。」と、LINEを送った。結果を伝えることを広崎先輩に約束したものの、まだ、日時どころか何も進んでいなかった。
翔に会うと決めたものの光は、1人で会う自信がなかった。「どうしよう。」と悩んだときに、何故か一番に浮かんだのは、ガンさんだった。
具体的にガンさんにどうしてほしいとか、何もないのだけれど、とにかく、一度、ガンさんに相談してみようとした結果が、取り付くシマもなく立ち去られてしまった。仕方ない、諦めずにお願いし続けるしかないか、と思って、振り返ったら黒田さんと目が合った。黒田さんにもこの間、話した直後に真木君に助けてもらったことを話しておかなければならない。そう思って、
「すいません、黒田さん。少しお話できる時間をお願いしたいんですが?」
と、黒田さんに言うと、夕方の勤務終わりにということになった.
「岩村さんに話しかけていましたけど、それも関係ありますか?」
向かい合わせに座った途端、黒田さんが聞いてきた。
「見ていらっしゃったんですか?」
驚いて、尋ねると
「いや、新村さんが心配で様子を見ていたので」
と、黒田さんは言った。僕よりも心配している人達がいるんですけど・・・という黒田の心の声は、もちろん光には、分からない。
「すいません。ご心配をおかけして、そうなんです。さっきの岩村さんのことも含めて順番にお話します。」
と、光は、真木君に助けられたこと、翔と話し合いをしようと思っていることを話した。
「それで、その場に岩村さんに同席してほしいと、頼んだら断られた。ということになったんですか?」
ふんふんと聞いていた黒田さんが、ああ分かったというふうに言った。
「いえ、断られたどころか、何も言えていなくて、ただ相談したいって言ったら、すぐに岩村さんに逃げられてしまいました。」
光が、ため息混じりに言うと、黒田さんは目を細めて、
「岩村さんは、照れ屋ですからね。」と言う。「ですよね。」光も同意した。
「ところで、どうして岩村さんなんでしょうか?」
「どうしてって、ハッキリと表現しずらいんですが、岩村さんは、きちんと正しい目で見てくれると思うんです。私側の目線でなく、かと言ってお説教臭いこともなくて、何というか、公平で正しくて、それでいて優しいんです。岩村さんの言うことなら信じられます。」
一気に喋ってから、光はハッとして、思いもよらず出てきた言葉に自分でも驚いた。
「黒田さん、私、あの男性と結婚まで考えていたんです。そんな自分が正しかったのか、岩村さんに見てほしい。そういうワガママな気持ちです。・・・随分と勝手なことを言ってますよね」
しょんぼりと光が言うと、考えながら聞いていた黒田さんは、
「・・・それだけ、新村さんが岩村さんを信頼しているということですよね?」
光は、素直に頷いた。
うーんと黒田は、考えながら、
「分かりました。岩村さんは、僕が説得しましょう。任せてください。」
と微笑んで言った。
「え?本当ですか?」
光は、驚いて、思わず立ち上がってしまった。黒田さんは、微笑みながら、
「大丈夫ですよ。」
と請け負ってくれた。
「あ、そういえば新村さんは、何歳になられるんでしたっけ?」「?28歳ですが?」「そうでしたか。では、岩村さんを説得出来たら、お伝えしますから安心して勤務してください。」と言われ、光は、その場を辞去した。
部屋を出て行く光の背中を見送りながら、黒田は、
・・・さて、どうしようか?
と思案する。
・・・ガンさんを説得するのは、難しそうだ。新村さんのためにと張り切っている人達は別にいるのになあ。と野間兄弟をチラッと思い浮かべた。




