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19.大事だったものを大事にするために

美咲ちゃんの言葉に刺激を受けて考えた末、光は広崎先輩に会うことにした。

 19.大事だったものを大事にするために

 表彰台に向かう美咲ちゃんの背中を見送りながら、光は、自問自答を繰り返していた。

 ・・・私は、翔と一緒に過ごした時間・入社してからの時間をどうしたいという気持ちになっていない。何も考えられず、どうすることも出来なくて、急に終わってしまった時間だったからだ。

 不意に誰かにポンと肩を叩かれた。健太兄だった。

「どうした?疲れたか?」

「ううん、美咲ちゃん頑張ったねえ。健太兄もおめでとう。」

「おう。次は、いよいよ全国大会だからな。お前もしっかり頼むな。だけど、お前、何か悩んでいることがあるだろう?」

「健太兄には、お見通しだね。うん、悩んでいるんだ。だから、頑張ってみる。美咲ちゃんの優勝パワーをもらったから、きっと頑張れると思う。」

 そう言って、光は、微笑んだ.

「ん、分かった。俺も裕子も、いつでも話を聞くからな。」

 そう言って、健太兄は、もう一度、光の背中をポンポンと叩いて行った。


 試合会場を出た光は、昔、勤めていた会社近くのカフェにいた。ここは、ドリンクだけでなく、サンドイッチやパスタなどの軽食もあるので、急ぐときは、ここでランチをすますことがあった。

 ・・・懐かしいな。

 そう思って、アイスコーヒーを一口飲んだ時、

「お待たせ」

 と懐かしい声がした。

「広崎先輩、すいません。お休みの日に急に連絡して・・・」

 光は、試合後、広崎先輩に連絡をしていた。急だったが、先輩は、快く来てくれた。ここは、広崎先輩とよく来た場所だった。

「ううん。忘れたいって言ってた新村さんが、会って話したいって言ってくれてるんだもん。」

 そう言って、広崎先輩は、改めて光に向き合って

「本当にごめんなさい。」

 と、改めて丁寧に謝って、当時のことを話してくれた。それは、もう電話で聞いていたことだったが、改めて聞いて話をすると、先輩の気持ちが伝わってくる。

「先輩、電話でも言いましたけど、私は、先輩に対して謝ってもらう気持ちはないんです。私の方こそ、正直に何でも話せばよかったと反省しています。」

 光がそう言うと、

「そんなふうに言ってくれてありがとう。」

 先輩は、そう言うと、俯いて頭を下げた。そのまま沈黙が流れた。

 ・・・先輩に会うと強制的に当時の気持ちに引き戻される。それが光には、辛かった。そう、過去の終わった時間をどうするか?というどころではない。それを考える、向き合うことが辛くて避けていたんだと,

 美咲ちゃんと話す中で気づいた。気付いたから、広崎先輩と会うことにしたのだ。先輩は、謝りたいと言ってくれた。そのままで終わらせたくないと、先輩と仕事の思い出の多いこのカフェなら、嫌でも当時の自分を思い出す。逃げられない。それぐらいの気持ちで来たのだった。

「私は、今、先輩に甘えています。先輩と話すことで、しっかりとあの頃の時間を考えられるので、私もあの時間を今のままで終わらせたくないです。」

 そう言うと、広崎先輩は、笑顔になり

「ありがとう。甘えるなんて、まだ、私を先輩でいさせてくれるんだ。だけど、新村さん、変わったね。あの頃よりも少し強くなった感じがするね。」

 と、言ってくれた。

「そうですか?そうかも知れませんね。いろいろ鍛えられましたからね。」

 そう言って、2人で目を合わせて笑った。

 それからは、職探しの苦労や人と関わりたくないから、オペレーターにと転職したら病院の警備員だったこと、どうしたらいいのか分からない中で、子供柔道教室に支えられたこと、翔と再会してしまったけど、みんなに助けてもらって今に至ることを話した。広崎先輩は、最初、そこまで光が追い詰められた状態でいたことに悲しみ、警備の職場に驚いて、翔のことでは、何か言おうとしたけど、黙って丁寧に聞いてくれた。

「本当に大変だったね。よく頑張ったね。柔道の子供達にも従兄弟さんにも警備の皆さんにも本当に感謝だね。」

「はい。」

 光も素直に頷いて、暫く沈黙があった。

「で、岸田君のことなんだけど、彼がそうなるのもわかるっていうか。見てる限りでは、彼女にだまされてたってことに気づいて、相当落ち込んで二回りはしぼんだよね。新村さんと再会して、もしかして、私みたいにちゃんと謝ってやり直したいって思ったのかもしれないよね。」

 広崎先輩は、そこまで言ってから、一息ついて

「どう?やり直すつもりはあるの?」

 と、聞いてきた。

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