18.美咲ちゃんと私の違い
この時間を意味のある時間にしたい。という美咲ちゃんの言葉は、翔の言葉と一緒に光にずっしりと響いた。
18.美咲ちゃんと私の違い
緊張が解けて自信を取り戻した美咲ちゃんは、順調に勝ち進んでいった。いよいよ次は、決勝戦だ。
「相手の子は、知ってる子なの?」
観客席で見守りながら、光は、隣の健太兄に聞いた。二人共、道着からジャージに着替えている。
「うん、去年の準優勝者だからね。知っているけど、実際に戦うのは初めての相手だ。」
「えっ、去年準優勝って、5年生ででしょう?そんなスゴイ子と決勝なんて、美咲ちゃん、大丈夫なの?」
「小学生の大会だからな。特に女子は男子よりも毎年、入れ替わりがあるよ。今年から、柔道を始めて勝ち残ってくる子もいれば、やめてしまう子もいる。美咲ちゃんみたいに、続けていても本気になってやりだして、実力を上げてくる子もいるんだよ。相手だって成長しているし、戦ってみないと分からないな。」
そう言って、健太兄は、美咲ちゃんのサポートをしに下の会場に降りて行った。
試合が始まる。
美咲ちゃんは、積極的に攻めに動いている。相手も胸元を押さえて用心しながら、動く。攻めあぐねている様子だ。ここで、審判から2人に指導が入った。一旦、仕切り直す。2人共、声を出してピョンピョン小さなステップを踏んでリズムを取りながら、お互いの間合いを詰める。
「えいっ」「はあっ」
お互い、一挙一動に全神経を集中させて、動いている。今のところは、五分五分で、技の仕掛け合いが続いている。
その時、美咲ちゃんが内股に行った。
美咲ちゃんの得意技は、一本背負いであることは周知の事実だ。なので、この内股は、予想外だったのだろう。虚を突かれた相手の動きが、リズムを失いスキが生まれた。そのスキを見逃さず、美咲ちゃんが一本背負いを決めた。
美咲ちゃんの勝ちだ。
「ありがとう。光ちゃんのおかげだよ。」
優勝を決めた美咲ちゃんが、光のところに来てくれて言う。
「美咲ちゃんの実力だよ。最後のフェイントすごかったよ!」
光が、手放しでほめると、
「ううん、あれは、偶然なんだ。いけるかも?と思って内股を仕掛けたんだけど、まだ慣れてないから技に持っていくだけのことができなくって、相手に一瞬、隙ができたから、体が勝手に一本背負いに動いてただけ。」
そこまで言って、美咲ちゃんはさらに続けた。
「私、お父さんの影響で古賀選手を好きになって柔道を始めたから、結果的に一本背負いで勝ててよかった。今までの時間や自分がやってきたことに、ちゃんと意味がないと次にいけないから。」
「次に行くって?」
美咲ちゃんの次ってなんだろう?そう思って、光は聞いてみた。
「中学生になったら、柔道をやめて新しいことをしたいんだ。まだ、何をするか決めてないけど、でも振り返った時に、柔道をやっていた小学生の時間は、好きだからってだけで、何となくやってきただけじゃなくて、ちゃんと結果を出して意味のある時間にしたいの。そのために優勝したかった。全国大会は、勝っても負けても後で、ここまでやった。って、ちゃんと自分で納得して終われるように、しっかり頑張る。」
そう笑顔で言うと、表彰式に出るからと、行ってしまった。
・・・柔道をやっていた時間を意味のある時間にしたい。自分で納得して終われるように、結果を出したい。
小学生の美咲ちゃんが、こんなにしっかりとしたことを考えているなんて、それだけ美咲ちゃんにとって、柔道をしていた時間は大きなものなんだろう。美咲ちゃんだけじゃない、翔も広崎先輩も同じようになことを言っていた。
・・・私は?私は、どうして、そうは思わないんだろう。
私にとって、翔と一緒に過ごした時間は大事じゃなかったの?入社してからの時間は?
大事。。。?
ううん。大事だった。そう、大事だったんだ。でも、もう大事じゃなくなってしまった。




