16.私たちの過ごした時間
突然、あらわれた翔から逃げる光。職場の人達は、そんな光を助けてくれる。だが、翔はしつこく現れて、自分たちの過ごした時間にケジメをつけようと、光に迫るのだった。
16.私たちの過ごした時間
「本当にいいんですか?職場のことで困ったことは言ってください。」
真剣な顔で、心配してくれる黒田さんに申し訳なくて,
「いっいえ、大丈夫です。私も失礼だったかもだし・・・」
焦りながら、光が言っているところへ
「さっきの人は、帰りましたよ。」
と野間兄が、戻ってきた。
・・・よかった。助かった。
「あ、ありがとうございます。助かりました。黒田さん、私、勤務に戻りに行ってきます。」
黒田と野間兄に頭を下げて、光は、事務所を出た。出入口の勤務には、光の代わりに野間弟が立ってくれている。
「野間さん。助けて下さってありがとうございました。」
光がお礼を言うと、野間弟は、
「ああ、いや・・・。」
と口の中でもごもご言って、光と視線も合わせずに事務所に戻ってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、
・・・やっぱり、私に怒っているんだ。目も合わせないし、ガンダム嫌味事件を根に持って、私に何か仕返ししてやろうと考えているのかもしれない。翔のことがどれけ知られてしまったか分からないけど、これから嫌がらせとかされたら嫌だな。と考えていた。そのおかげで、翔のことに引きずられずに勤務を終えることができた。光と入れ替わりで、岩村さんが出勤してきたのだが、すぐに駐車場入口の勤務に行ってしまったので、翔のことは話せなかった。
「黒田さん、皆さん。今日は、本当にすいませんでした。助けて下さってありがとうございました。」
光は、帰る前にもう一度、お礼を言った。黒田さんが、わざわざ立ち上がって
「気を付けて帰ってきてくださいね。」
と優しく言ってくれた。
・・・初めてここに来た時も、ああして立ち上がって挨拶をしてくれたっけ、懐かしいな。あの時は、本社でオペレターだと思っていたのが、まさかの病院の警備員て聞かされて、何も分からず、不安でいっぱいの気持ちだったな。と思い出しながら病院を出て駅へ向かう横断歩道を渡ろうとした瞬間、
「光っつ。」
と呼び止められた。
「光。ゴメン。待ち伏せみたいなことして、でも、どうしても謝りたくて」
そう言いながら現れたのは、元カレの岸田 翔だった。
光は、びっくりして思わず、後ずさりしてしまう。こんな暗がりで、誰もいなくて、おまけに今までは、勤務中で制服を着ていたから、ちょっとガードがあったけれど、こんな無防備な状態で声をかけられたら、どうしていいか、分からなかった。
「光。」
翔が、もう一度、名前を呼びながら近づいてくる。
「・・・嫌だ、近づかないで。」
どうしていいか分からないけど、嫌だという気持ちは、言葉になって出てきた。言葉は出たけど、体は石のように固まったままだ。
「新村さん、どうかしたんですか?」
そう言って、横断歩道の向こうから来たのは、
「真木君」
深夜バイトの大学生、真木君だった。
「嫌だ。とか近づかないでって聞こえたんですけど、何か困ってますか?」
真木君は、そう言って、光を後ろに庇うように立ち、翔と向き合う格好になった。
「光、この人は?」
翔が、聞いてきたけど、光は、答えなかった。
「よく分からないんですけど、とりあえず、新村さんがあなたと一緒にいたくないっていうのは、分かりました。」
真木君は、何も言えない光に代わって、落ち着いて翔に話す。こういう所は警備員の仕事をしているからなんだろうか?
「っつ、どけよ、お前には、関係ないだろう」
翔が、イライラした様子で言ってきた。
「やめて、私の職場で騒がないでよ。私は、謝罪なんていらないし、辛かったことを思い出すだけだから、あなたと会いたくもないの。もう、声もかけないでほしい。」
暗闇の中から伸びてきた手を振り払うように一気に言った。真木君が前に立って直接に翔の顔を見ずに済んだおかげだ。
「おーい。どした?」
そこへ駐車場入口の方から岩村さんが、声をかけてくれる。その声を聞いて、翔が、
「くそっつ。分かったよ。今日は帰る。でもホント、俺はお前に謝りたい。ちゃんと謝りたいんだ。じゃなきゃ終われないっていうか、全く俺が悪いんだけど。」
まだ、言ってくる。
「だから、いらないって。」
もう、やめてほしい。と、言い放った私に翔が、かぶせて言ってきた。
「お前は、これでいいのかよ。俺たちの過ごした時間は何だったんだよ。俺が悪かったから、ちゃんと終わらせたいんだ。意味のないものにしたくないんだ。頼む、俺と話す時間をくれ、お願いします。」
そう言って、翔は、立ち去った。




