14.やっぱり見つかった
14.やっぱり見つかった
「あのっ、さっきは、代わってもらってありがとうございました。岩村さん。」
駐車場入口誘導を終えて事務所に戻りながら、先を歩く岩村さんの背中に向かって光は、お礼を言った。
さっき、誘導した車から、突然、元カレの岸田 翔が現れて動揺してしまった光は、
「しょっ、少々お待ちください。」
とだけ言って、岩村さんの所に駆けて行き
「すっ、すいません。あそこの車の患者様から、質問をされたんですけど、全然分からなくて、すいませんけど、代わってもらえませんか?」
と、一気にまくし立てた。
「えっ?お前、何を聞かれたんだ?」
急に光がやって来て、話し出した様子のおかしさを怪しみながら、岩村さんが聞いてくる。
「とっ、とにかく、お願いします。代わってください。」
光は、訳が分からない様子の岩村さんの背中を押して、強引に代わってもらい、翔とは顔を合わせずに済んだのだった。
「あいつ、知り合いか?」
振り返らずに岩村さんが聞いてくる。
「はい、前の会社の同期なんです。」
光は、うつむきながら答えた。途端にドンッと岩村さんの背中にぶつかった。岩村さんが立ち止まったからだ。
「キャッ。」
驚いてふらついた光の腕を振り返った岩村さんが掴んで支える。
「しっかりしろ。」
「は、はい。」
光は、どうにか体制を整える。
「あいつ、入院するおばあさんを送って来たって言ってたぞ。これからも見舞いなんかに来たら、また顔を合わせることもあるかもしれない。」
そう言って、岩村さんは、続きを何か言いたそうで言わずに事務所に戻っていった。光が、どうして前の会社の同期を避けるのか?何も聞かず、仕事中に私情で勝手な行動を取った光を責めもしない。岩村さんの優しさに感謝の気持ちでいっぱいで光は、岩村さんの背中に向かって頭を下げた。
それからは、光は、マスクも大きいものを付け、帽子を目深に被って勤務をした。幸い翔に会うことはなく、数日が過ぎて、今日は、子供柔道の予選大会だ。試合前に美咲ちゃんの練習相手になるために、光も柔道着を着て健太兄と一緒に来ていた。
最近、続いた前の会社の先輩のこと、翔のこともこうして子供達といると忘れられる。
「光ちゃん、お願いします。」
美咲ちゃんが呼びに来る。
「はい。」
と応じて、美咲ちゃんと動きの確認程度の手合わせをした。美咲ちゃんの動きはいい。思った通り、美咲ちゃんは、順調に勝ち上がり次回の大会への進出を決めた。
「おめでとう美咲ちゃん。」
「ありがとう、光ちゃん。次も勝って全国大会に行きたいの。これからも練習よろしくお願いします。」
と、美咲ちゃんも言ってくれる。光にとっても有難いことだった。
そうして、柔道教室と仕事との日々を過ごすうちに光は、翔のことなどすっかり忘れていたのだが、休日出勤で出入口の勤務についている時、
「あの、すいません。」
と男性から声をかけられた。
「はい。」
と普通に返事をして、見ると、男性は元カレの岸田 翔だった。
「あっ」
と光は、声を漏らしてしまい。
・・・しまった。と思ったが、もう遅い。
「やっぱり、光?光だよな。」
翔に光と呼ばれて、光は、思わず耳を塞いで俯いた。




