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12、先輩と一つの過去の終わり

 12.先輩と一つの過去の終わり

 健太兄に促されて、光は広崎先輩から手紙が届いたこと、辛くなって途中までしか読めなかったことを話した。

「でね、今日は、先輩からの手紙を持ってきてるんだ。1人じゃ読めないから、続きを読む間、一緒にいてほしいと思って、甘えすぎかな」

 さすがに、光もしょんぼりと、ごめんという感じで健太兄を見た。

「今さら何を気にしてるんだよ。俺たちがついてるから、しっかり読め」

「そうよ、光ちゃん。大丈夫よ」

 健太兄だけでなく裕子さんも励ましてくれる。

「ありがとう。じゃ読んでくる」

 光は、ソファーに移動して手紙を開いた。


 でもね。それは、私の勝手な考えだったの。新村さんを信じていたのにって、被害者ぶってあなたを責め立てて、そんなの信じてるって言わないよね。心のどこかで、私は他の人と違って新村さんと親しいのよ。私は、知ってて当然よって傲慢な気持ちがあったのよ。本当にごめんなさい。出来れば会って謝りたいです。

 勝手なことを言っているのは、分かっています。これも自分の罪の意識を軽くしたいだけだと思われて、当然だと思います。ただ少なくとも、会社の人は、もう誰も新村さんのことを誤解していないことだけは、伝えたかったんです。読んでくれてありがとう。

                                          広崎 美和


 読み残していた部分は、わずかだった。先輩の言っていることは、そっくり自分に当てはまると思った。私だって、先輩と親しいと思っていた。他の人よりも自分を分かってくれている先輩が、簡単に杉村さんのことを信じたことがショックだった。同じだ。先輩のことは、責められない。私は、迷惑をかけちゃいけないと思っていたけど、今は、どうだろう。健太兄の家まで来て、2人に甘えている。信じているからだ。信じているから甘えられている。それをせず、肝心なことは何も言わないで信じてたのにって、被害者ぶるのは卑怯だと思った。

「健太兄」

「ん?」

「私、先輩に電話してみる。こうして手紙をくれて、会って謝りたいって言ってくれてるから」

「うん。」

「先輩の気持ちにちゃんと応えたいと思う。」

 光は、健太兄に言いながら、驚きもしていた。広崎先輩に電話をする?考えてもいなかったことだ。当時の、ここに至るまでの気持ちを思えば、電話をするなんてとても無理なことだった。

 lineのブロックを解除して、受話器のボタンを押す。コール音が一つ二つ、三つ四つ、五つ六つと続く

「新村さん!?」

 広崎先輩の声だ。変わらない。

「広崎先輩、手紙、ありがとうございます。」

「読んでくれたの?届いたのね。」

「はい、読ませてもらって、すいません。途中、辛くて、読めなくて。それで、時間がかかってしまって、さっき、やっと全部読んだんです。」

「そう、一度に読めずに、ごめんなさい。逆に辛い思いをさせてしまって」

「・・・辛かったですけど、私も先輩に何も言わなかったことをいけなかったと思いました。ご迷惑をおかけしました。」

「新村さんが謝らないで、悪かったのは私の方よ。」

 それからは、会って謝りたいという先輩と、もう手紙だけで充分だからという光の押し問答があって、これ以上は、辛いという光の言葉で電話は終わった。


「ありがとう。」

 電話をするために借りていた寝室から出てきながら、光は、言った。

 健太兄は、お風呂から出たばかりだった。

「どうだった?」

 健太兄にが、探るように聞いてくる。

「うん。会って謝りたいって、言われたけど、それはやっぱり、まだ無理だからって断った。もう手紙をもらえて直接、誤ってもらえて、私も自分の悪いところに気が付けて、先輩に謝れて充分だから、会うのが嫌だってことじゃなくて、これで一つの終わりになるっていうことを分かってもらえた。」

 光は、一生懸命、自分にも説明するように健太兄に言った。

「一つの終わり、か。」

「うん、こうなるなんて思ってもなかった。ホント2人のおかげです。ありがとうございました。」

 光は、健太兄と裕子さんに頭を下げた。

 裕子さんは、涙を拭きながら

「光ちゃん、よかったね。よく、頑張ったね。」

 そう言って、光を優しく抱きしめてくれた。

「ありがとう、裕子さん。こうしてもらうのは、2回目だね。お母さんの時もこうしてもらった。」

 そう言うと、裕子さんは、

「そうだったね。じゃあ、光ちゃん。お風呂に入ってらっしゃい。」

 と言ったので、2人で見つめあって笑った。2人にしか分からない温かい笑いだった。


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