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頑張った自分と職場の人たち

母と和解して、仕事への気持ちを新たにした光は、雨の中、救急車の誘導を頑張った。それによって、厳しい先輩にも認められて、充実感があった。職場の人たちのことも分かってきて、やっと自分の居場所ができてきた気持ちでいたのに、前の会社から封書が届いた。嫌な予感がするが、今は、見ないことにした。

 9.頑張った自分と職場の人たち

 事務所に戻ってレインコートを脱いだ光に

「お疲れさま」

「お疲れさん」

 とみんなが次々に声をかけてくれる。

 体は冷えていたが気持ちの芯のところは温かかった。

 最初は、言葉一つ一つも訳が分からないし、救急車が着く度に緊張してドキドキしてた。でも、先輩達、とりわけ口は乱暴で仕事に厳しい岩村さんにくっついて、何でも一緒にさせてもらうようにして、経験を積んでいくことをひたすらに続けていたのだった。岩村さんやみんなから、ねぎらってもらったのは初めてかもしれない。よかった。頑張ってよかった。そう思って思わず微笑んでしまって、視線に気が付いた。誰かが見てる!

 視線をたどると、あいつだ!銀縁メガネだ。アニメが終わったのかPC画面を見ずにこっちを見ている!キャー気持ち悪い!叫びだしそうになるのをぐっとこらえる。「いけないいけない。」光は、銀縁メガネこと野間 栄二の粘りつくような視線わ振り払うように頭をブンブンとふった。

「みんなーそろそろ真木くん来るよー。はい、片付けてー」

 原さんの声がしてみんな一斉に動き出した。机の上を片付けたり、帽子やゴミをまとめたり学校の掃除の時間が始まったみたいだ。

「あの、みんなどうしたんですか?誰か偉い人でも来るんですか?」

 急にバタバタし始めたみんなの動きを不思議に思って、光は原さんに聞いた。原さんは、黒田さんの次に偉い人なんだけど、優しくていい人だ。

「ああ、新村さんは、真木君に会うのは初めてだったね。真木君は、22時~8時までの深夜バイトの大学生なんだよ。几帳面な子でさ、そこら辺りに散らかってるようなものは、片っ端から全部片付けていくんだよね。」

「えっ。そんな人がいるんですか?」

 光が驚いていると

「そうそう。俺も最初はびっくりしたけど、これ誰のですか?どこに置くんですか?って、片付くまでしついこいし、まあ事務所も綺麗になるからいいかな?って、みんな受け入れているんですよね」

 と横から会話に参加してきたのは、銀縁メガネの兄で野間 茂一さんだ。ヒョロヒョロの弟と違ってスキンヘッドででっぷりとした体型をしている。言われなければ兄弟とは思えない。

「野間君もきれい好きだからね。」

 原さんは、野間 兄の言葉に頷いて、

「真木君が来たら紹介するから、新村さんはそろそろ上がる用意をしたらいいよ。雨の中、誘導してくれたから風邪をひかないように気を付けて、ガンさんも」

 と原さんは、岩村さんにも声をかける。岩村さんは、みんなからガンさんと呼ばれていた。見た目にピッタリだ。と光は常々思っている。

「おうよ」

 と岩村さんは、背中で返事をした。

 研修期間も終盤となり、光は、今日は、13時から22時の勤務初日だった。事務所のほとんどの人に会ったと思っていたが、深夜バイトの人がいるんだな。でも、バイトなのに整理整頓を強要するなんて、何て自分を押し付けるパワーの強い人なんだろう?そう思って研修レポートを仕上げていたら、

「新村さん」

 と原さんに呼ばれた。

「紹介します。深夜バイトの真木君です。真木君、新入社員の新村さんです。研修で2週間13時から22時の勤務をしてもらいます。」

 と原さんが紹介してくれた。

「初めまして新村です。よろしくお願いします。」

「初めまして真木です。よろしくお願いします。」

 お互いに形だげの挨拶をする。

 真木君は、茶髪でイケメンに該当する部類の男の子だった。そんな几帳面にも見えないし、その顔なら他にもバイトはあるんじゃないの?と思ったが、人それぞれ理由があるのだろう。向こうからしたら、光の方こそ、中途入社で何で警備員なんかやってんの?だ。レポートを終えた光は、

「お疲れさまでした。・」

 と事務所を後にした。入口警備に立っていたのは、真木君だった。帽子と制服で他の警備員達と見た目はわらない。

 片付け魔の大学生にアニメ好きの銀縁メガネ・40過ぎて兄弟で同じ職場にいる人。いろいろな人がいるなあ。前の会社では、そんなに人の強い個性を感じなかったなと、改めて前の会社との違いを思った。

 そんなことを考えていたせいだろうか?

「あ、手紙がきてる。・・この封筒は?」

 帰宅して郵便受けを見ると、前の会社の社名入りの封書が届いていた。引越したので転送されてきたようだ。

 ・・・今ごろ何だろう。

 気にはなかったが、取りあえずテーブルに置いてシャワーを浴びることにした。

 熱いお湯を浴びながら、今日あったことを思い出す。

 雨の中、無事に救急車を誘導出来た達成感と高揚感。ガンさんに初めてねぎらわれたこと、事務所のみんなから温かく接してもらえたこと、頑張って良かったと思えたこと。身体も心も温かくなって、光は、シャワーの栓を止めた。

 ・・・やっぱり、今日は、封筒は開けない。この嬉しい気持ちのままで寝よう。と決めて。



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