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転職先で思っていたのと違う部署に配属されたんだけど、この状況から逃げたら負けな気がして、働いています。

1.思っていたのと違う転職の始まり

 光のリクルートバックの中で携帯が鳴り出した。

 今日は、出社初日なのだが地下鉄の出口が見つからずに迷ってしまい、出社の時間に遅刻してしまいそうだった。

 光は、やっと見つけた地上への階段を駆け上がり大股で歩き出す。赤信号で止まったところで鳴り止まないスマホをリクルートバックから取り出した。スマホに表示されている相手は「母」・・・

 それを見て光は、ウンザリした気持ちになってスマホの電源を切った。あの人はどうしてこうなんだろう?

 光が黙って前職を辞めたのが気に入らないのだ。母が前の会社を惜しむのは母と母の周りの人たちが名前を知っていて自慢ができる。ただそれだけだった。光が電話に出るまで永遠にかけ続けてくるのだろう。辞めるに至った経緯も新しい仕事のことも母に話しても無駄だった。

 信号が青に変わった。何とか間に合いそうだ。

 光は顔を上げて歩き出す。目の前にあるのは新しい就職先であるS/R警備の入っているオフィスビルだ。今日から私はここで働くんだ。光は新しい職場で働く自分を思い描いて笑顔で歩き出した。


 その2時間後。今、光は、ぼんやりとした頭で信号を渡っていた。どうやら光は、あの綺麗でオシャレなオフィスビルで働くのではなく病院で働くのだと言う。光は、交差点を渡り切り、先ほど大慌てで駆け上がった階段を一段一段トボトボと降りた。駅の改札を通過して、実際に働く病院方面行きのホームに立った。今から、勤務先の小坂市立総合医療センターに行くためだ。

 ぼんやりと電車を待ちながら、光は、もう一度、この2時間に起ったことを思い出していた。

 光が憧れた綺麗でオシャレなオフィスビルの11階のフロアーは、S/R警備一社で占められていた。受付デスクにはタブレット端末があり、予約訪問・社員出勤・社員呼出しと書かれたウインドウが表示されている。 光が社員呼出しのウインドウをタッチしたのは出社時間の2分前だった。

「よかった間に合った。」

 出社初日から遅刻なんて恥ずかしい事態は回避できた。と、ほっとしながら髪やスーツの乱れを気にしていると

「お待たせしました。新井 光さんですね。おはようございます。総務部の中田といいます。」

 とダークグレーのスーツに中肉中背の身を包んだ30代前半の男性が現れた。前髪を横に流してフチなし眼鏡をかけてブルーのネクタイをしている。前の会社でも見慣れた一般的な会社員スタイルだ。

「おはようございます。新井と申します。本日からお世話になります。」

 光は、頭を下げて丁寧に挨拶をした。

 中田は、軽くうなづくと、奥の面談ブースに光を案内した。以前、面接に来たときは、会議室のような部屋だったので、

「・・・こんなスペースもあるんだ」

 と、改めて自分の新しい会社は綺麗でオシャレだなと感心して、中田の後についていった。

 ブース内のイスに座ると、早速、中田は、雇用契約書等の確認をして、ようやく光が、一番気になっていた配属部署の話となった。光は、主に警備を請け負うS/R社内の業務でも特にオペレーター業務を希望していた。以前の会社では、総務内で営業の担当をしており、部署内のチームや営業の人達と一緒に仕事をしていたのだが・・・もう、複数人と一緒に、チームで仕事をするのは、今の光には無理だった。

「新井さんには、まず警備の現場から知っていただきたいんですよ。」

 中田が言い出した言葉が、あまりにも想像を超えたものだったので、何の話か一瞬分からなかった。しかしびっくりして言葉も出ない光を置き去りにして、中田は話を続けた。

「僕ね、新井さんの志望動機が、すごく良いなと思ったんですよ。」

 突然、饒舌に話し始めた中田に、さらにびっくりしていると、

「新村さんは、応募理由に(今の仕事もお客様のためになっているが、実感としてわかりずらい。直接、お客様と接する仕事をして、お客様のために頑張りたいと思います。)と、この思いはわが社の理念と同じです。」

 光はそんなことを書いたなあと思い出した。別に嘘でもないが本当のことを書いたら落とすでしょ。いやでも、人間関係が原因で辞めたとか、もう人と一緒に仕事をするのが怖いとか、バカじゃないんだから言う訳ないでしょ。と心の中でグルグルしていると、中田は話を続けた。

「警備というのは直接、お客様ご自身のお身体や家やご家族様・その財産をお守りする仕事です。他に建設現場やイベント会場などで交通誘導や雑踏警備の仕事を行っています。」

「はあ、存じ上げています。」

 光は力なくうなづいて、で結局、この話はどこに行くのか?と思っていたら

「近年では病院の警備も請け負っておりましてね。」

「え?病院」

 光はあまりに驚いたのでちょっと高い声になってしまった。

「はい。病院です。病院の警備というのは、新井さんの思いにピッタリでしょう。変に内勤から始められる前に、体力もあるお若いうちから、現場を知って頂いたほうが、良いのではないかと思います。」

 ・・・アレ・今、何とおっしゃいました?病院の警備?現場?え?え?ってことは、オペレーターになれないってこと?このオシャレなオフィスビルで働けないってこと?

 ええええーっつ

 と驚いたのだが、光は、採用していただいた弱い立場である。転職活動にもそろそろ疲れていた光は、嫌だと言えなくて、中田から早速、配属先である病院に向かうように言われて、電車で向かっているのだった。


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