第9章 所長!事件です!!7
頭の上に『?』マークを付けた人間が一人(兼物夫人)増えたところで、通りの向こうから制服を着た男子中学生が歩いてきました。
「ただいま。母さん、どうしたの?」
「ああ、惇那。大変なの。フランソワーズちゃんがいなくなったの」
「は?」
「今朝、あなたが開けた門から出て行っちゃったでしょ?それ以来、戻って来てないのよ」
「・・・え?そんな大騒ぎする事ないんじゃね?」
「なんてこというの!今頃、危ない目に合ってるかもしれないでしょ!」
「あ、あの・・・お話の途中すみません。次男の惇那さんですか?」
「・・あ、はい、そうですけど」
「僕はお母さまからフランソワーズちゃんの捜索を依頼された、探偵の赤岩タルトといいます」
「はぁ?探偵??・・ちょ、大ぜさじゃね?!」
「唐突にすみませんが、ちょっとそこの柵の中をご覧になっていただけますかね?」
「え?柵の中?・・柵の中はうちの庭ですけど」
「はい。お願いします」
「????・・・・まあ、いいですけど」
兼物惇那は、怪訝そうに柵の間から自分の家の庭を覗きます。
「・・・・はい。見ました・・・けど」
「中に何が見えますか?」
「???・・・普通にうちのペット達が遊んでいますが・・・」
「ペット『達』ニャッッッッッ?!?!?」
「・・はい。うちのチャーリーと落雁がじゃれあってますけど・・・仲がいいんで、いつものことですよ」
「!?!?!?!?!?」
「あ、あ、あ、あの・・・チャーリーと・・・何ですって?」
「落雁です。あの猫の名前ですよ」
「そんな事より探偵さん!!!早くフランソワーズちゃんを探して下さいまし!!」
兼物夫人は必死の形相です。
「母さん。フランソワーズ姉さんも、もう高校生なんだから、一人で出歩きたいのも当然だよ」
「・・・・え?」
「ほにょ?」
「ニャニャンと!」
「フランソワーズ・・・」
「姉さん・・・?」
「ニャニャンと!」
「ああーーーーーーーーーっっ!!!」
「どうした、スフレ君!!」
「思い出しました!!」
「ああ、スフレ君。やっと、僕が貸した500円の事を思い出したんだね!」
「いえ。それは記憶にございません」スン
「ニャいんかい。てか、その話、今はどうでもいいニャ」
「あの、『泣く女』ですよ!『泣く女』コスプレしてるせいで気が付かなかった!!」
「本人は絶対『泣く女』意識してないだろうけどね。てか、ピカソ自体知らない可能性あるな」
タルトとスフレは、聞き込み中の出来事をエ・クレアに説明しました。
「どこかで見たような気がしたのは、あの写真ですよ。あのコスプレ剥いだら、あの写真の中の女子高生と同じ顔です!」
「ずいぶん印象が違うな」
「女性はメイクで変わるのニャ。やっぱり今回はホラー回ニャ」
「あれ?でも長男の天世さんは、フランソワーズちゃんが夜な夜な猫の集会に出てるって言ってなかったでしたっけ?」
「いや、『猫の』集会とは言ってなかったような・・・」
「パラリラパラリラ~~~♪、の方の集会ニャンじゃ・・・・」
「チャーリーを押しのけて犬小屋で寝てた、とも言ってましたよね」
「ずいぶんとアグレッシブな女子高生だね」
「家では清楚を装ってたんじゃニャかったんかい」
「しかも、犬の餌を横取りして逃げるJKってどうなんでしょうか」
「いや、僕のすぐ隣にも似たような人間がいるような気が・・・・ピチピチ女子高生ならともかく、とうの立った成人女s・・・・ごふっっっ」
~~~~タルト所長負傷のため、しばらくお待ち下さい~~~~
ノックダウン状態のタルト所長をエ・クレアが介抱していると・・・・
ブオン ブオン ブオン
パラリラパラリラ~~♪
「あ、姉さん」
パ~ラ パ~ラ パ~ラ~ラ~ パ~ラ~パ~ラ~パ~♪
「『荒城の月』」
「滝廉太郎ニャ」
「だから、曲のチョイス」←タルトはなんとか復活しました
「どんだけ、ホーン付けてんのかな」
「いニャ。これ、スマホから流してるっぽいニャ」
「そこはイマドキなんだな」
ブオン ブオン ブオン
パラリラパラリラ~~♪
例のヤンキーカップルの改造スクーターは、そのまま通り過ぎていきました。
「え?あれ?」
「マダム?」
「引き止めないのかニャ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・母さ・・・ん?」
「・・・・・・・もう!何なのあの高校生は!暴走族っていうんですの?お下品ですわね。まったく。親の顔が見てみたいもんですわ!」
今すぐ鏡を見て下さい。
「・・・え?気づいてない??」
「俺がさっき『姉さん』と口走ったのも聞こえてないみたいですね」
エ・クレアさんは、タルトたちから聞いた聞き込み中の出来事の話と、兼物惇那の『姉さん』発言から、瞬時に状況を把握したようなのですが、照代の方は自分の娘を目の当たりにしても全く気付く様子はありません。
まあ、エ・クレアさんはとてもとても優秀な探偵助手なので、比べるのも気の毒な話なんですが。
「ホント、最近の若い子は。何なの、あの、ジャクソン・ポロックの『収斂』のようなお化粧は!」
「『収斂』って人物画でしたっけ?」
「いや、抽象画だったと思う」
「・・・で、結局これ、どうやって収拾つけるのかニャ、所長」
「うーーん。真実を照代さんに話すべきか・・・」
「天世さんの言う通り、放っておいても夕飯までには帰ってくるんじゃ・・・・食いしん坊のようですし」
「そういえば、もうそろそろ夕飯の時間だニャ」
「ああ、そういえばこんな時間だ」
通りの向こうから、この界隈では1番有名なお嬢様学校、『檳椰子黒百合女学園』の制服を着た、可憐な女子高生が歩いてきました。
「フランソワーズちゃん!!!」
「・・・あ、お母さま」
「一人でどこに行っていたの?!心配したのよ?!」
「ごめんなさい、お母さま。他校のお友達と会ってましたの」
「なんですって?あなた、檳椰子黒百合女学園以外の学校の生徒と交流がおありですの?!」
「あ、でも、とてもかわいらしくて頭の良いお友達なんですのよ。この前の期末テスト、英語は93点、数学も92点をお取りになったそうよ」
「・・・XYG・・・・」
「正しくは英語も92点だけどね」
「数学の出題レベルも推して知るべし・・・って感じっすね」
「きっと、正の数の四則計算とかだろうね」
「いえ、正の整数の加減乗まででしょう」
「自然数レベルかニャ。”0”は含まないのかニャ」
「彼らに”0”の概念はないよ」
「ええ。”0”を含むと途端に難しくなりますからね。彼らには」
「x×1=x、x×0もxになるからな。彼らには」
「酷い言われようだニャン」
「・・・ていうか、あの『ヒャッハー』に”かわいい”要素ありますかね?」
「ああ、あのトサカ部分だろ。ピンクだし」
「夫人は絶対、女の子の友達と思ってるニャ」
探偵事務所の面々の罵詈雑言(?)も、兼物母娘には聞こえていないようです。
娘のフランソワーズは、ちらっと3人の方を見ましたが、『こちらの方々はどなた?初めまして』的な素振りをしています。
いや、一瞬だけ『てめーら、余計な事言うんじゃねーぞ』な顔をしましたが、それもほんの一瞬のこと。
意識的に3人をガン無視して母親と何食わぬ顔で会話を続けています。
「そうですの?聡明なお友達ですのね」
「ええ。どこに行くにもご立派なお乗り物で、優雅な音楽を聴きながら、のんびりと旅を楽しめますのよ。わたくしも何度も乗せていただいてますわ」
「ご立派な改造スクーターで、スマホから流れる優雅なヤンキーホーンを聴きながら、蛇行運転でのろのろとトリップを楽しめますのよ。おほほほほ~♪」
「スフレ君、しっ!」
「言い得て妙だけどニャ」
「しっかし、ホント、さっきの平成ギャル語使いのヤンキーとは思えませんね」
「いつの間に『泣く女』コスプレ解いたんだろうか・・・」
「『猫かぶり』も甚だしいのニャ!」
「ホント、えげつない猫かぶり・・・・あ、じゃあ、今回の依頼は『猫探し』で間違いなかったわけですね、所長!」
「うまいこと言うね、スフレ君」
「おあとがよろしいようで・・・・ニャンニャン♪」