第85章 HAPPY BIRTHDAY《MERINGUE'S EYE 3》
『HAPPY BIRTHDAY』完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。
次章からは新しいお話が始まります。
またよろしくお願いします。
さあ、それではみなさん。お待ちかねの解答を発表いたしましょう。
私が導き出した、食堂に最も早く到着するルート、それは・・・・
教室から14メートル東に走り、窓からぶら下げたロープで1階まで降りる!!
そう、この日のためにロープを用意したよ!
私は教室を出ると、全速力で14メートル走り、近くにある柱にロープを固く結びつける。
ロープの反対側の端は、授業中に自分の腰にきっちりと巻きつけておいた。準備万端だ。
そして、外に面した窓の枠に足をかけて、ダーーーーイブ!!
結び目はしっかりチェックした。ほどけないよう、ちゃんと頑丈に結んである。
1階から4階の窓までの高さは13メートル。
ん?スフレの事だから、長さ30メートルくらいのロープを買って来たんじゃないか、とか思ってます?
まさかまさか、そんな事したら、いくら健康優良美人女子大生のスフレさんでもかすり傷じゃすまないっすよ?
大丈夫。
買ってきてすぐ、体と柱、それぞれの結び目部分に使う長さを除いて12.5メートルの長さにちゃんとカットしましたよっ!
んん?ロープの強度は大丈夫なのかって?
もちろん。
新品の丈夫な登山用ロープ。
これを念のために二本取りにしたので強度は充分っすよ!
二本取り。
はい。長さを調節した後、折って二重にしたんっすよ?
・・・・・・・あれ?
ぷらーーーーーん
13:05、305号教室。
「スフレ、学食来てなかったよね?どうしたの」
「・・・・なんでもないっす」
ドゴーーーーン ゴボボボボボ
LIMEの受信音。
誰だろう、と私はスマホを確認する。
それはLIME登録している、行きつけのケーキ屋さん“モノノフ”からのメッセージだった。
どうやら私は1年前に、このケーキ屋さんにカヌレの誕生日ケーキを予約していたようだ。
グッジョブ、1年前の私。
すっかり忘れt・・・こほんこほん。
16:35
大学の授業が終わった私は、RR探偵事務所へと急いだ。
お昼ご飯を食べ損なっていたので、途中で“かに放蕩”に寄ってかにしゃぶは食べたのだが、とにかく急いだのだ。
そして、探偵事務所のドアを開けた。
ガランゴロン ガランゴロン ガランゴロン
私が通販サイトで買ったドアベルが華やかな音を奏でる。
“ドアを開けるたび、ヨーロッパの自然豊かな牧場を思わせる優雅な音色に心うっとり、何故だかとても懐かしい年末の商店街の雰囲気も感じられるこのドアベル!なんと初回限定1万4千イィエン!これを逃すと通常価格57万イィエンとなります。いますぐクリック!”
いや~。いい買い物をしたなぁ(本日2回目)。
サプライズで喜ばせようと、昨日の夜こっそりと既存のベルと取り替えておいたのだ。
いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない!
私は、気のせいか冷ややかな目をしているように見える所長とエ・クレアさんに、できるだけ端的に事情を説明した。
「今日、誕生日なんです!」
2人は私の誕生日だと勘違いしたようだったが、そうではない、我が弟カヌレの誕生日なのだ。
両親は柿にあたってダウン。
もう1人の弟サブレは、ワールドワイドならぬユニバーサルワイドに活動していて忙しい。
私の友人たちはカヌレと面識がない。
頼みの綱は彼ら2人だけなのだ。
・・・いや、今日はもう綱の話はしたくない。
ともあれ、所長たちが快く引き受けてくれて助かった。
私は装飾担当を任されたので、早速商店街に調達に行くことにした。
そういえば、連絡が来ていたケーキの引き取りにも行かなくては。
ドゴーーーーン ゴボボボボボ
あ。グミちゃんからLIMEだ。
『今日の地球地理の宿題わかった?問5、教えて』
だって。
地球史、地球地理はうちの大学では比較的不人気の科目だ。
なんといっても、火星史、火星地理と比べて桁違いに学習内容量が多い。
教科書も、火星史、火星地理の15倍くらい厚いのだ。
問5か・・・どんな問題だっけ?
『問5 地球のユネスコ世界遺産、“白川郷・五箇山の合掌造り集落”は何県と何県のものか』
うーーん。確かこれは・・・
岐阜と富山・・・
ぎふととやま
ぎふと、とやま
!!!!!
ギフト!!!!!
そうだ!誕生日の贈り物も用意しなくては!
17:07
私は事務所近くの94均で、HAPPY BIRTHDAY看板とお得用風船とマジパンを手に入れた。
ケーキ店“モノノフ”もそこからあまり遠くない場所にあったので、時間もかけずにここまでは揃った。
さて、問題は誕プレだ。
カヌレは何が喜ぶだろう。
あ。そういえば、前に欲しいものがあるって言ってたな。
何だったっけ。
確か・・・
そう!カッパだ!!
カッパって言ってた!
『姉さん、前のが古くなっちゃって新しく買い換えたいんだ』
『穴があいちゃったんだよ』
『水が漏れちゃって』
そうだ。
河童の皿に穴があいたのなら致命傷だ。
皿の水も漏れるに決まっている。
カヌレは河童が好きだったのか。
今まで聞いたことがなかったな。
私は、近くの骨董店に行くことにした。
途中、通りがかったツブレヤ紳士服店で子供用レインコートの安売りをしていた。
ちょうど店先に出てきていた紳士服店のおばちゃんが、このレインコートは小学生男児の間で今すごく人気のモデルなのだと私に勧めてきたけど、残念ながらレインコートは要り用でない。
私が欲しいのはカッパなのだから。
私は骨董店でシガラミ焼きだかシラタキ焼きだかの河童の置物を買った。
弟へのプレゼントだと言うと、店主のおじいさんは「ずいぶん渋い趣味の弟さんだね」なんて言ってたけど、置物を入れた紙の手提げ袋に青いリボンを付けてくれた。
帰り道、私は公園に寄り、豆をついばんでいる中で最も白っぽい鳩さんに協力をお願いして、一緒に事務所に来てもらった。・・・もちろん言葉は通じなかったが、しきりに首を縦に振っていたので、快く承諾してくれたと解釈して間違いないだろう。
17:20
1番早く事務所に戻ってきた私は、ケーキの飾りつけに取りかかった。
誕生日の事もケーキの事もすっかり忘れていた罪滅ぼし、というわけでもないが、料理も手作りできなかった分、せめて市販のケーキにひと手間加えて、お祝いの気持ちを込めようと思った。
こう見えて手先の器用さには自信がある。
私は、マジパンで巧妙に犬、キリン、ウサギなどの動物を作っていった。
5段重ねのこのケーキには誕生日プレートが付いていない。
余ったマジパンを平たく伸ばして、食紅を付けた爪楊枝で文字を描いていく。
「はっぴー ばーすでー かぬれ しゅく!じゅういっさい・・・・っと」
うん。完璧だ。
ああ、エ・クレアさんと所長も帰ってきたみたい。
さてと、次はテーブルセッティングと部屋の飾りつけだ。
カヌレが来るまでになんとか準備は終わりそうだ。
余興のミラクルイリュージョンの用意はできてるし、所長にも何か出し物やってもらおう。
どんなパーティーになるんだろう。楽しみだな。




