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第79章 HAPPY BIRTHDAY《TARUTO’S EYE 1》

この章は『HAPPY BIRTHDAY』の赤岩タルト視点でのお話です。

時系列にも注目してみて下さい。


08:16、RR探偵事務所。

出社した僕はいつものように、通りに面した事務所の窓を開け、朝の清々しい空気を室内に取り込んだ。

今日は平日。

スフレ君は大学の授業に出ているため、ここに顔を出すのは夕方になるだろう。

毎日が平日だったらいいのに・・・

そんなことを考えながら、これまた日課である朝のコーヒーを淹れる。

商店街のCCOOFFEE珈琲店で購入した、お気に入りの南極大陸産高級コーヒー豆をミルで挽いて淹れる、本格的な物だ。

スフレ君が淹れてくれるのは、いつも近所のスーパーの特売で買った瓶入りインスタントコーヒーなのだが、やはりそれとは香りも味もレベルが違う。

少し甘みのある芳醇な香り。そして、香ばしさが際立つ、南極の雄大な自然を思わせるこの味。

僕は違いの分かるジャペン紳士だからね。


08:26

そうこうしているうちにエ・クレア君が出社してきた。

彼は優秀だ。

少々の事件なら彼に丸投げ・・・もとい、全幅の信頼を持って彼に任せて大丈夫だ。

事務所入り口のドアベルが優雅な音を奏でる。


ガランゴロン ガランゴロン ガランゴロン


?!なんだこの“おめでとうございまーす!特等でーーーす!!”みたいな音は?

ドアを開けたエ・クレア君も目を丸くしている。

・・・・しかし、こんなくだらないことをした犯人は分かっているさ。


それは・・・・


「またスフレ君だな!」

「スフレの仕業だニャ!」


さすがエ・クレア君も分かっているらしい。

2人で同時に声を上げた。


それから僕は、事務所に入る時にポストから取り出して自分のデスクに放っておいた郵便物の仕分けをした。

マンションや保険のダイレクトメール、チラシなどは特に目を通す必要もない。

たまに封書で依頼が来たりするのだ。注意して仕分けていく。

水道料の請求書、電話料の請求書、ガス代の請求書、自分のスマホ代の請求書、家賃の請求書・・・・

・・・・・・

なぜだろう。目から汗が出てきたなぁ・・・

・・・あ!このハガキは?


『総合消費料金についての訴訟最終告知のお知らせ 

 この度、あなたの利用されておりました運営会社より、

 契約不履行による民事訴訟の訴状が提出されました。

 なもんで、すぐに最寄りのコンビニから下記の口座に

 5万イィエンを振り込んで下さいね☆

 待ってまーす♪』


ヤバい!

全く覚えはないけど、なんかしらの料金を滞納してたということか!!

5万イィエンか。

事務所のテレビとオーディオをリサイクルショップに売って・・・たぶんなんとか用意できるだろう。

早速コンビニに行って来よう。


 ※この後、タルト所長はエ・クレア助手に必殺ネコパンチをくらって、被害は未然に防げました。皆様も架空請求にはご注意くださいませ。


09:47

ガランゴロン ガランゴロン ガランゴロン


僕は、スタイリッシュな事務所の雰囲気にまったくそぐわないドアベルの音に一瞬顔をしかめたが、入ってきた見知らぬ女性の姿に、それが依頼人であることを即座に判断し、いつもの営業スマイルを浮かべて女性の方に近づいて行った。


「こんにちは。ご依頼の方ですか」


僕が話しかけると、女性はそれを肯定した。

僕は、こちらへどうぞ、と彼女を応接スペースへと案内した。


09:53

僕は、エ・クレア君が依頼人と僕に淹れてくれた味わい深いコーヒーを飲みながら、依頼内容を聞いていた。

・・・ん?このコーヒー、いつもの来客用のドリップバッグコーヒーではないような・・・

メーカーを変えたのかな?

僕は違いの分かる男だからこのわずかな香りとコクの違いもすぐにピンときたが、とりあえずコーヒーの話は置いておこう。


「今回はどういったご依頼で?」


女性はコーヒーに口を付けたが、表情を曇らせ、すぐにコーヒーカップを元のソーサーの上に戻した。

首をかしげて、コーヒーを一瞥した後、おしぼりで口元をぬぐう。

緊張しているのだろうか。

無理もない。きっと初めて探偵に調査を依頼するのだ。

それとも、依頼内容がよほど深刻なものだからだろうか。

しかし、彼女の口からはこんな言葉が発せられた。


「あの・・・こちらはペット探しとかは頼めるのでしょうか」


予想に反して簡単な依頼のようだ。

もちろんですよ、と僕は返した。

うちにはなんといっても優秀な猫助手がいる。

探すペットが猫ならば造作もない。

猫でなくとも、近所の猫ネットワーク・・確かNwitterニャイッターだったか、エ・クレア君が以前教えてくれたのだが、そのネットワークを通じて普段見慣れない動物がウロウロしているなどの情報がすぐに入ってくるらしいのだ。

ここだけの話、RR探偵事務所に来る依頼で一番多いのは迷子のペットの捜索だ。


「それで、お探しのペットは猫ちゃんですか?ワンちゃんですか?」


まあ、鳥や爬虫類の可能性もあるが、もしや魚類では・・・いやいや、まさかまさか。

こんな冗談を心の中で呟いていた僕なのだが、さすがに依頼人のこの回答は予想していなかった。


「・・ええと・・どれにしようかと思って」


・・・・はい?


「猫も犬も好きなんですけど、文鳥とかも手乗りさせたらかわいいし、庭に池を作って錦鯉なんかも癒しになるかなって・・・」


どういうこと?


「どれがいいと思います?」


どういうこと?!


唖然とする僕の横から、エ・クレア君が依頼人に話しかける。


「猫は普段鳴き声があまり大きくないから、ご近所さんの事を気にするなら猫がおすすめニャ。犬はご主人に忠実な所が魅力だけど、毎日のお散歩が大変かもしれないニャ。インコやオウムは言語ワクチンを接種してなくても人間の言葉をおぼえるのニャ。でも、オレっちの1番のお勧めはジンミンゲンミットニャンよ。あのライムグリーン色の毛並みとずんぐりむっくりの体型がニャンとも愛くるしいのニャ」


エ・クレア君は一体何を言っているんだろう。

ちょっと、エ・クレア君?、と僕が声をかけようとした時、依頼人は突然、


「ジンミンゲンミット!いいですね!!ジンミンゲンミットと一緒にゴロゴロしたり穴掘りしたり!楽しそうですね!!ジンミンゲンミットにします!ペット探しを手伝っていただいてありがとうございました!!」


と言い残し、事務所既定の相談料を支払い、そそくさと事務所を後にした。

どういうこと?!?!


・・・・・でもまあ、10分でこの収入なら悪くはないか。

僕はほぼ何もしていないが。


16:35

「今日、誕生日なんです!」


例の騒がしいドアベルを鳴らして入ってきたスフレ君が叫んだこの一言。

え?誕生日?君の?

そうだっけ?確か君の誕生日は・・・・

うん、そういえば聞いたことがなかったし聞きもしなかったし興味もない。

エ・クレア君も何気に失礼なことを口走ってるぞ。


話を聞くと、どうやら彼女ではなく、彼女の弟君の誕生日らしい。

ああ、あの、小学生にしてはやけに大人びた所作の、姉であるスフレ君とは似ても似つかないおぼっちゃんか。

初対面でいきなり推理対決を挑まれたのには面くらったが、彼のおかげで『探偵自身が犯人であってはならない』というノックスの十戒を、RR探偵事務所の代表である僕自身が破ってしまうという惨劇を回避できたのだ。


しかし、自分の弟の誕生日を忘れるかな、普通。

・・・いや、スフレ君の辞書に“普通”は存在しない。

・・・いやいや、そもそも辞書という文明すら開化していないのだ。


「へえ、そうなんだ。確か小5だったよね。ということは、12歳になるのかな?」

「11歳ニャよ、タルト所長」


まあ、誤差の範囲だ。


スフレ君が何やらお願い事があると拝み倒してきたが、聞いてみるとなんのことはない、カヌレ君のための誕生日会を開きたいとのこと。

そんなことなら喜んで協力するさ。

今日の仕事は午前中のあの1件だけだったのだ。

そして明日も予定は入っていないだ。

溜まっている依頼もゼロなのだ。

・・・あ、また目から汗が・・・

どうも今日は目の調子が良くないな。

明日眼科へ行ってこようとするか。


さて、と。パーティーをするって言っても、そういえば何時に始めるつもりなんだろう。

聞いてみるか。


「で、パーティーは何時からの予定だい?」

「あ、18:00です」


はあっっ?!


僕は思わず部屋の壁掛け時計の方を振り返った。

現在、16:40。

おいおい、大丈夫なのか?間に合うか?!


ともかく、早速とりかからなくては。

パーティーに必要な物は何だ。

まずは料理か。

今から作るのは無理だ・・・そういえば、近所の肉屋でハンバーグとかフライドチキンとかコロッケとか、子供が好きそうな料理の大皿盛り合わせを売ってたな。

それでいこう。

エ・クレア君は主食のサンドイッチ調達、スフレ君は部屋の装飾担当に決まった。

よし、それぞれ手分けして、心のこもったパーティーを作り上げようではないか。


次章に続きます。


【Nwitterにつきましては第69章『エ・クレア助手の事件簿(1)』に名前が出てきますが、細かい説明等はありませんのでスルーで大丈夫です。ジンミンゲンミットは、アース星にだけ生息する、地球のウォンバットにそっくりの動物です。アース星の紹介として第3章『所長!事件です!!1』に登場しています】

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