第78章 HAPPY BIRTHDAY(4)
「それなら簡単っすよ。私から言ってもいいですか?」
「さすがのスフレでも瞬殺できる点が幾つかあるニャ」
「姉さん頑張れ!!」
スフレさんは席を立ち、お得意のクラーク博士のポーズで、出した手の指を折りながら1つずつ回答をはじめます。
「1つ目、テーブルの上の2つのグラスっす。近所の人の話だと、Aさんは訪ねてくる友人などもいなかったという事ですよね。2つ目、つけっぱなしのテレビ。さすがに消して出るっしょ。3つ目、録画予約。1ヵ月前からの計画的な夜逃げなのに不自然です。4つ目、理由は同じくレンタルDVD、そして5つ目のクリーニングの預かり証や6つ目、生配信視聴スケジュールメモも然り。それから7つ目、歯ブラシ立ての2本の歯ブラシ!・・・・どうです?7つも見つけちゃいましたよ!」
「うん、偉い偉い。1つも間違ってないよ」
「スフレにしては上出来だニャ」
「姉さん!すごいです!!」
スフレさんは照れながら着席します。
どうやら彼女のひらめきはここまでのようです。
代わって立ち上がったエ・クレア助手が、推理の続きを進めます。
「続きはオレっちが引き受けるニャ。8つ目、ドアノブについていた傷ニャ。これはピッキングを想像させるのニャ。9つ目は下駄箱。Aさんは玄関の土間に靴を置く習慣がなかったのニャ。でも、下駄箱にはびっちりと靴が詰まっていたニャ。となると、Aさんは何を履いて家から出て行ったのニャ?不自然ニャ。10個目、筆跡ニャ。『夜逃げします』の書置きは悪筆だったのに、配信覚書メモには綺麗な字が書かれているのニャ。そしてそして11個目はキーケースなのニャ。中には郵便ポスト用の鍵だけが入っていたのニャ。家の鍵はどこ行ったのニャ?」
「素晴らしいね、エ・クレア君」
タルト所長は拍手でエ・クレア助手を称えます。
「12個目・・・最後の違和感は何っすかね」
「ポストの中の『また来ますね』が気になると言えばなるけどニャ」
「それは、Aさんが留守の時にたまたま初めて訪ねてきた人が残していったメモかもしれませんし」
「そうだね。確かに引っかかりはするけど、これは“違和感”には含まれていないよ」
「麦茶が白濁していたのかニャ?」
「いやいや。(小)麦(粉)茶じゃないからね」
「え?エ・クレア探偵。よしんば(小)麦(粉)茶だったとして、何か問題でも?」
「だよねー、カヌレ」
ここでスフレさんがいつものようにピコーン☆とひらめきます
「ああっ!簡単なの見逃してたっすよ!!」
「ニャンだ?」
「何ですか、姉さん」
「排水溝の長い髪の毛っすよ。男性の部屋に長い髪の毛、おかしいっすよね」
「スフレよ。ロン毛の男性もいるのニャ」
「姉さん、惜しい!」
「ああ、その髪の毛なら女性の物だと判明してるよ」
タルト所長が補足を述べます。
「ですよね!!やっぱり、ほらぁー。スフレさん大正~解~!」
スフレさんは鼻高々ですが・・・
「すみません、姉さん。残念ですが、それは12個目の違和感ではありませんよ」
カヌレ君がスフレさんの鼻をポキッとおってしまいました。
「カヌレ、なんで?男性の部屋に女性の髪の毛が落ちてたんだよ?Aさんの部屋に出入りする人物はいなかったんだから、おかしいでしょ」
「だったら、洗面所の口紅も不審点になるでしょう」
「あ!そうだ!・・・ということは・・あれ?13個目?」
スフレさんはその矛盾に混乱しています。
一方、カヌレ君は落ち着きはらって、最後の推理をはじめます。
「12個目の違和感は髪の毛でも口紅でもなく、電動髭剃りの方ですよ」
「なんですってーー?!」
「ニャニューーーーン!!!」
「・・・て、どういうこと?」
スフレさんはカヌレ君に解説を求めます。
「姉さん、Aさんはどのような人物だとお思いですか?」
スフレさんの問いにカヌレ君も問いで答えます。
「え?うーーん。私が想像していたのは・・・几帳面で短髪の男性で・・」
「違います」
驚いた顔のスフレさんに向けて、カヌレ君は真剣な顔でこう告げます。
「Aさんは女性です」
パチパチパチパチ
「そう。その通りだよ、カヌレ君。Aさんは女性。これはストーカーの男性がAさん宅に押し入り、彼女を拉致した誘拐事件だったんだよ。幸い、黄島先輩の活躍ですぐにストーカーを突き止め、犯人宅に軟禁されていたAさんを無事救出したそうだよ。Aさんに怪我もないようだ」
「ええー?!かんっっぜんに男性だと思ってました」
「クラシックバイクとかギターとか、先入観にとらわれてたのニャ」
~~~~
「ああ、面白かった~」
「さすが赤岩探偵ですね」
「いやいやカヌレ君もなかなかだったよ」
「タルト所長は実戦でもその実力を発揮してもらいたいところだニャ」
「さてと、ここでお待ちかねの誕生日プレゼント贈呈~~~!!」
「そうだね。プレゼント、僕もあるよ」
「オレっちもニャ。慌ただしい中、よくスフレが忘れずに用意できたのニャ」
先程の分担買い出し時に3人がそれぞれプレゼントも買ってきていたようです。
「はい、カヌレ。お誕生日おめでとう!」
スフレさんが青いリボンの付いた大きめの手提げ袋を差し出します。
「僕からはこれを」
タルト所長はおもちゃ柄の包装紙で包まれた箱をカヌレ君に手渡します。
「オレっちからも、はいニャ」
エ・クレア助手もパステルカラーのラッピングバッグに入ったプレゼントを抱えてきます。
「みなさんありがとうございます!姉さんもありがとう」
「さあさ、カヌレ。開けてみんしゃい」
カヌレ君はいそいそとラッピングをほどいていきます。
その様子に一同は、普段は大人びている彼の、子供らしい一面を垣間見たような気がして、なんともほっこりした穏やかな雰囲気に包まれるのです。
そして、プレゼントの気になる中身はというと、
「・・・・・・・」
手提げ袋の中には河童の陶器製置物、箱の中には河童のプラスチック製フィギュア、ラッピングバッグの中には河童の布製ぬいぐるみが入っていたのでした。
「「「「どうしてこうなった?!?!」」」」
どうしてこうなったかは・・・次章以降にて。
『HAPPY BIRTHDAY』本編はこれにて終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次章からは、本編の別視点でのお話です。
引き続きよろしくお願いいたします。




