第77章 HAPPY BIRTHDAY(3)
「ピコーン☆ピコーン☆はいはーーーい!」
例によってスフレさんが元気に手をあげます。
「では、姉さん」
カヌレ君が指名します。
「怪盗は高速道路を使って逃走した、か・・ブツブツ」
「インターチェンジで引っかからないということは・・ニャニャニャニャ」
タルト所長とエ・クレア助手は気にせず各々推理を続けています。
スフレさんが絶対に正解しないということがわかっているのです。
「はい!この軽自動車にはジェットエンジンが付いていて、空を飛んで逃げたのです!」
「姉さん、惜しいです。残念ながらこの問題には、そういった非現実要素は含まれていません。もう少し現実的に考えてみましょう」
「なんか、カヌレ君、姉に甘いよね」
「さすが姉弟だニャ」
「では、次はオレっちが答えるニャ」
エ・クレア助手が立ち上がります。
「怪盗は途中で無理矢理Uターンをして引き返し、警察が張っていない、手前のインターチェンジで降りたのニャ」
「ああ、エ・クレア探偵、不正解です。怪盗は紳士なので、そういった危険運転はしていません。それと、この高速道路は対面通行ではなく、上下線が別々になっているのでそういった技は使えないのです」
そもそも紳士が盗みをするのだろうか、という疑問が浮かびますが、これはクイズなので大目に見てもらいましょう。
「はいはーーい☆」
「はい、姉さん」
「ちょっと!何回も答えるのアリなの?」
「大丈夫、スフレの鉄砲は数撃てど当たらぬだからニャ」
「答えはズバリ!高速道路上に怪盗のアジトがあるから!だから怪盗は高速道路を降りる必要がないのです!!」
「ああーーー!!姉さん、非っ常ーーーーっっに惜しい!!」
「惜しいのか?」
「惜しいのニャ?」
「姉さん、高速道路上にアジトは流石に無理があります。惜しいのですが」
「そっかーー」
「なんか、カヌレ君、姉にすごく甘いよね」
「さすが姉弟だニャ」
ここで、タルト所長がネクタイを締め直し、コホンと1つ咳払いをしてみんなの注目を集めました。
「やあ。お2人さん、僕にトリを譲ってくれてありがとう。では、真の解答を披露しよう。まず、怪盗には共犯者が存在する。そうだね?カヌレ君」
「ええ。赤岩探偵、やはりお解りなのですね」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて視線を向けるカヌレ君に、タルト所長は無言でうなずき返し、推理を続けます。
「高速道路に入った怪盗は、途中のサービスエリアに立ち寄った。そこにはすでに共犯者がいて、怪盗の到着を待っていたんだ。共犯者は大型のバンボディトラックに乗って来ていた。よくある、貨物を運ぶ、後ろに箱が付いてるタイプのトラックだね。その箱に軽自動車をすっぽり入れて運んだ。こうして警察の目をかいくぐって高速道路を降り、逃走したんだよ」
カヌレ君は「赤岩探偵。お見事、正解です」と言って、拍手をしました。
「さて、では僕の出題の番だね」
カヌレ君に手振りで『どうぞ』と着席を勧め、タルト所長は代わりに立ち上がります。
「これは黄島先輩から聞いた事件の話なんだけど」
エ・クレア助手がカヌレ君に、黄島キンツバ刑事の事を簡単に説明します。
タルト所長が出題をはじめます。
「とあるアパートの大家さんから通報があったそうだ。ある日、家賃の遅れている住人の部屋を訪ねところ、返事がない。ドアの鍵が開いていたので不審に思いながらも中に入ったのだが、部屋の中に住人はおらず、テーブルの上には『多額の借金があり、夜逃げします。1か月前から計画していました。もう帰りません』という悪筆の書き置きがあったという。通報を受けて、黄島先輩が現場のアパートに向かった。アパートの外には例の住人、仮にAさんとしよう、そのAさんのクラシックバイクが停めてあった。Aさんは車を持っていないため、普段からバイクで移動しているそうだ。Aさんは独り暮らしで、同じ階に住んでいる住人によると、特に訪ねてくる友人や親族もいないようだ。そして、大家さんがAさん宅を訪問する前日の昼間に、隣の部屋の住人がAさんの姿を目撃している」
「ということは、Aさんが失踪したのは前日の昼間以降、次の日大家さんがAさん宅を訪れるまでの間というわけですね、赤岩探偵」
「ふむふむ」
「ニャ」
タルト所長は出題を続けます。
「アパートの出入口に設置してある部屋別の郵便ポストの中には、ピザ屋のチラシ、『また来ますね』と書かれたメモ、水道料の請求書が入っていた。Aさんの部屋のドアノブには少し傷がついていて、ドアを開けて中に入った右側に小さな下駄箱があり、その上には花瓶に活けられた赤い薔薇が1輪とバイク用の黒いフルフェイスヘルメット、バイクの鍵が置いてあった。綺麗好きなのか、玄関の床には何も置いていないためすっきりとしていた。玄関に靴などを置きっぱなしにしたくないのだとAさんが言っていたのを、以前大家さんが聞いている。下駄箱を開けると、そこにはライディングシューズやスニーカー、フォーマルな靴などが指1本の隙間もなくぴっちりと綺麗に並んでいて、ここからもAさんの几帳面な性格が見て取れる。部屋はワンルームで、中央に置かれたテーブルの上にはグラスが2つ、両方に麦茶が入っていた。片方は半分ほど飲まれていたがもう片方は手を付けられた形跡がない。ベッドの縁には古いギターがもたせかけられていて、傍らには何曲かの楽譜が置いてあった。テレビがつけっぱなしになっていて、ブルーレイレコーダーには5日後のバラエティの録画予約がされていた。そして、レコーダーの横には『ヘンリー・ポポッターと兄者の意志』のレンタルDVDが立てかけられていた。パソコンの置かれたデスクには、クリーニングの預かり証が置いてあり、パソコンに貼られた付箋には綺麗な字で、明日の19:00に星園キラリの生配信が始まる旨の覚書が書き留められていた」
「ZZZZZZ」
「赤岩探偵!姉さんが寝落ちしてます!」
「いつもの事だから放っておきニャさい」
「同じくデスクの上にはキーケース。中には郵便ポスト用の鍵だけがぶらさがっていた。浴室には排水溝に長い髪の毛が1本ひっかかっていて、洗面所には洗顔フォーム、くし、電動髭剃り、歯磨き粉、コップ、そして歯ブラシ立てには赤と青、2本の歯ブラシが並んでいた。そして、洗面所の鏡の横には開けられたまま放置されている口紅。鏡の端にその口紅と同じ色の汚れが付いていた」
「ほぅほぅ、なるほろ」
「あ、起きました」
「ちゃんと聞いてたのかニャ?」
「さて、この夜逃げ騒動。夜逃げを宣言する書き置きがあったことから、警察は当初、失踪はAさんの意思に基づいてのことであり、事件性は無いものと判断した。しかし、黄島先輩は現場のアパートの様子について12個の違和感に気が付いた。1つ1つの違和感にはそれぞれ納得のいく説明ができるかもしれないが、それが12個も集まったとすると、事件性を疑うのに十分な要素になるだろう。そう考えて捜査を進めると、先輩の予想通り、これは立派な事件であることがわかったんだ。
・・・ここで問題。黄島先輩が、夜逃げにしては不自然だと感じた12個の点とは一体何か。今回、詳しい考察は必要ない。不自然な点を挙げるだけで構わないよ。さあ、どうぞ」
【黄島キンツバは赤岩タルトの大学時代の先輩で現役刑事です。初登場は『ノックスの十戒8』の章です】




