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第71章 エ・クレア助手の事件簿(3)

エ・クレア助手はスマホを取りだし、タルト所長に電話をかけます。

数回のコールの後、良く知った声が電話口から聞こえてきました。


「もしもし。エ・クレア君?どうしたんだい」


エ・クレア助手はタルト所長にも事情を説明します。

タルト所長は時折、ふんふんと相槌を打ちながらエクレア助手の話を聞きます。


「よく探したのかい?」

「はいニャ。郵便局前の放置自転車のカゴの中とか、水たまりの横にいたかたつむりの殻の中とか、不三家菓子店前のペコリちゃん人形の舌の下とかも見たのニャ」


少しの間があり、エ・クレア助手がタルト所長の言葉を催促しようとした時、タルト所長の、鼻にぬけるような小さな笑いが聞こえてきました。


「・・・・ふっ。エ・クレア君。君としたことがうかつだったね」

「ニャんと?!」


「ダイヤモンドの在り処は・・・そう、水たまりだよ!・・・君はこんな実験を知っているかな。大きなガラスコップの中に小さなガラスコップを入れて、中の小さなコップが完全に浸るまで静かにサラダ油を注ぐと・・・・なんと!小さなコップが見えなくなってしまうんだよ。光が物質中を進むとき、その伝わる早さは物質によって異なる。よって、進行していた光が別の物質に当たった時、その光の一部は通過するんだが、その時に斜めに当たると進路が曲がってしまうんだ。これを光の屈折という。で、この曲がり方、つまり屈折の度合いは物質によって決まっていて、これを屈折率と呼ぶ。この屈折率が同じ物質の境界を光が通過する場合、反射も屈折もせずに、光はそのまま直進してしまうんだよ。さっきの実験では、ガラスとサラダ油の屈折率がほとんど同じだったために光が直進し、我々の目には見えなくなってしまったというわけさ。サラダ油の中にサラダ油を入れたのと同じように、サラダ油とガラスのコップの見分けがつかなくなるんだ・・・つまりだよ。これと同じ現象が今回起こっていたんだ。水たまりに落ちたダイヤモンドは、君たちの目に映らなかった、と、こういうカラクリなのさ」

「・・・・・・」


「どうしたんだい?僕の華麗な推理に乾杯かつ完敗かな?」

「・・・・で、水とダイヤモンドのその屈折率とやらは同じなのかニャ?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


ピッ


エ・クレア助手は電話を切りました。

皆様も、タルト所長の妄言部分はすっ飛ばして読んでいただいても何ら問題ありません。


「ていうか、水たまりはちゃんと手探りで探したのニャ」


エ・クレア助手は、既に切れているスマホの送話口に向かって独りごちます。

他の猫達は水たまりを遠目でちらっと眺めただけでしたが、エ・クレア助手は水が平気なタイプの猫さんなので、水をゲショゲショかき混ぜて、隅から隅までさらいましたが、手に当たる物はなく、目視でも異物は確認できなかったのです。


「エ・クレア。範囲を広げて探してみたが、やっぱり無いぞ。どうする?」


キリタくんがお手上げ状態でエ・クレア助手に相談してきます。


「・・・・となるともう、可能性は1つしかないのニャ」

「ん?なになに~?」


「すでに誰かに拾われたのニャ」

「ああ、そうか」


「拾った人が交番に届けてくれているかもニャ。ちょっと行って聞いてくるのニャ。ホタルちゃんは猫達と一緒にここで待ってるのニャ」

「うん」


ぴゅぴゅーーーー(エ・クレア助手の疾走音)


~~~~~~~~~~~~~~~~


エ・クレア助手は、町内の交番へやって来ました。

交番内では、1人の警察官がカップラーメンをすすっていました。


「おまわりさん、こんにちはなのニャ」

「ああ、RR探偵事務所のエ・クレア探偵助手。どうした。本官ホンカンは今忙しいのだ」


「いニャ、カップ麺食べてるだけなのニャ」

「なんだと!本官ホンカンを侮辱する気か!?」


バキューン バキューン


「ダイヤモンドの落し物が届いてないかニャ?」

「なんだと!そんな物が届いてたら本官ホンカンはこんなところで悠長にカップラーメンなどすすってないで、すぐさま質屋に・・・ゴホンゴホン、お前が宝石店から盗んだんだろ!」


バキューン バキューン


「届いてないならいいですニャ。さよならニャ」

「待て!お前のせいで麺が伸びて本官ホンカンの心は傷つけられた!器物破損罪と傷害罪で逮捕する!!」


バキューン バキューン


「さっきからスマホ鳴ってますニャ。早く出た方がいいですニャ。じゃあニャー」


バキューン バ・・・ピッ


「もしもしーー。・・あ、テテテのおばさん?本官ホンカンは今忙し・・」


~~~~


「交番には届けられていなかったニャ」

「・・・ということは・・」


ミーちゃんが不安げな表情を浮かべます。


「誰かが拾って猫ババしたのニャ」

「猫が盗ったというのか?!」

「そんなことしないよ~」

「この町に犯罪猫はいないぞ!」


こういったくだりは、猫界では日常茶飯事なので誰もツッコみません。

ちょっとした紛失騒動から、着服事件へと発展した今回のお話。

次の手を考えようと、顔を上げたエ・クレア助手の視界の端に、公民館の軒先が映り込みます。


「・・・あ、あれは・・・防犯カメラニャ!!」


公民館の軒先に取りつけられた防犯カメラです。

公民館前の通りを映しているようです。


「これを見せてもらうのニャ!」


エ・クレア助手は公民館の窓口で事情を話し、映像を見せてもらうことにしました。

3匹の猫とホタルちゃんもエ・クレア助手に続き、ぞろぞろと公民館に入っていきます。

特に窓口で止められたりはしません。

ここは猫に優しい町なのです。


操作を任せられたエ・クレア助手は、器用に映像装置を操ります。

現在から巻き戻して見てみると、例の水たまりは防犯カメラの死角に入っているため映っていませんが、ホタルちゃんが公民館前を通るところが映っていました。


「ダイヤが落ちたかどうかは・・・・さすがにこの映像ではわからないニャ」


ホタルちゃんが通った後、若い男性が1人、そしてそれから3分くらいして作業着を着た中年の男性が1人、その後に野良犬1匹が通りました。

それからしばらく人通りは無く、落し物に気付いたホタルちゃんが再びやって来てダイヤモンドを探し始め、ズンダくんが通りかかって、それからしばらく後にエ・クレア助手、ズンダくん、キリタくん、ミーちゃんが揃ってやって来たところが映っていました。


「・・・ダイヤモンド猫ババ犯は、この2人と犬公のうちの誰かだな」


キリタくんが食い入るようにモニターを見つめます。


「若い男性は、公民館の近くのアパートに住んでいる島値しまねさんだよ~」

「このおっさんの方は、そこの工事現場で働いている人だと思うぞ」

「野良犬は最近ここらをうろちょろしているのをよく見かけるぜ」


さすが、町内の事なら何でも知っている皆さんです。


「みんなありがとう、助かるニャ。早速、この容疑者たちの聞き込みに行くとするニャ。危ないかもしれないから、ホタルちゃんはここで待っててニャ」


こうして4匹の即席猫探偵団は、颯爽と調査に向かうのでした。

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