第70章 エ・クレア助手の事件簿(2)
そんなこんなで、町で評判の美猫の話題に花を咲かせていた4匹の猫たちでしたが、
「ああっ!あそこを歩いているのはユカリんだ~!!!」
ズンダくんが、通りの向こうを歩くメス猫を見かけて声をあげます。
「あれが深窓の麗猫、ユカリ嬢なのかニャッ!」
そこには、細身で端正な顔立ちのシャム猫がしゃなりしゃなりと歩いています。
あれが噂のユカリちゃんなのでしょう。
耳がピンとして、くりっとした濃いブルーの瞳。
気品にあふれるそのメス猫の姿に、4匹は目を奪われます。
「かわいいな~♪」
「なんか話しかけ辛い雰囲気を醸し出してんな」
「ウニャ~。高嶺の花という感じだニャ」
「いや!俺はいく!!」
ユカリちゃんは4匹のいる方向に歩いてきます。
しかし、その瞳には4匹は映っていないようです。
ミーちゃんは意を決して彼女に話しかけます。
「こ、こ、こ、こ、こんにちゃわ」
思いっきり噛んでます。
「・・・・?」
「ユ・・ユカリしゃん・・・お・・俺はさすらいの地域猫、混沌の二律背反ダークネスマスター様だ」
「・・・・ダサ」
「!!!!!」
ミーちゃんに100HPのダメージ
「で、何か用なの?」
ユカリちゃんは、ツンと鼻を突き出して、面倒くさそうにミーちゃんに問いかけます。
「よ、よ、よかったら今度、一緒にネズミーランドに行かない?」
ミーちゃんは勇気を振り絞ってユカリちゃんをデートに誘います。
「ネズミーランドなら来週、彼ピと行く予定だから行かない」
「!!!!!」
ミーちゃんに500HPのダメージ
「あ~。やっぱりユカりん彼氏いるんだね~。そうだよね~」
「まあ、当然だよな」
「仕方ないニャ。ミーちゃん、諦めるのニャ」
「だから!ミーちゃんて呼ぶな!」
「ミーちゃん・・・プフ」
ユカリちゃんは鼻で笑います。
ミーちゃんに1000HPのダメージ
「・・・い、いや!まだだ!・・ユ、ユカリさん!彼氏ってどんな奴なんだ?!俺はその彼氏に決闘を申し込む!!」
ミーちゃんは食い下がります。
「ニャニャッ?!決闘?!」
「やめといた方がいいよ~」
「ミーのHP、あとどのくらい残ってるんだ?」
ユカリちゃんは全く表情を崩さず、相変わらず冷静な口調で、
「そうね。彼ピは福丘さんの家のペットで、血統書付きのベンガルよ。スマートでかっこよくて、雑種のあなたとは・・・プフ」
ミーちゃんに5000HPのダメージ。
「もう帰ろうニャ!これ以上ダメージを受けるとゲームオーバーなのニャ!」
「そうだよ~。話題の美猫ユカりんを見られただけでラッキーだったと思おうよ~」
「HPゲージ、明らかに真っ赤になってるぞ」
「いや!ここで引き下がるわけにはいかない!・・・ふふっ。みんな、聞いたか?ユカリさんの彼氏はベンガルだそうだ。ベンガルって、頭が小さくて細長い、豹柄の猫だろ?体格では断然俺の方が勝ってる!・・・ふふふふっ。そんなヒョロヒョロ野郎は、混沌の二律背反ダークネスマスター様のワンパンで終わりだ!!どっからでもかかってこいってもんだ!!」
ミーちゃんは自信満々に拳を振り上げます。
招き猫のようです。
・・・と、次の瞬間、
ドシーン ドシーン ドシーン
どこからともなく地響きのような音が聞こえてきました。
「ニャ?ニャンだ?地震かニャッ?!」
4匹は慌てて周りを見回します。
しかし、ユカリちゃんだけは落ち着きはらって、音のする方に歩いていきます。
ドシーン ドシーン ドシーン
「あ、ダーリン♪この雑種の猫が、何かあなたに用があるみたいよ」
ユカリちゃんは近づいてくる音の発生源に声をかけます。
ドシンドシンと足音を鳴らして歩いてきたのは、ユカリちゃんの彼氏のベンガル・・・
「ベンガルトラニャ!!!!」
「なんで~~~?!」
「嘘だろ、おいーーー!」
「!!!!!!」
「ユカリ。俺に用があるっていうのは誰だ?ガルルルルル」
「ここにいる雑種の・・・って、あら?いないわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ゼイゼイ~・・・」
「ハアハア・・・危ないところだったニャ」
「ゴホゴホ・・・この町のペット事情はどうなってるんだ?てか、ワンパンでおしまいじゃなかったのかよ」
「・・・ベンガルトラ・・・ベンガルトラ・・・ユカリさんの彼氏はベンガルトラ・・・」
「じゃあ、オレっちは帰るニャ。ミーちゃん・・その・・色々お大事に、なのニャ」
エ・クレア助手はみんなに別れを告げて帰途につこうとしましたが・・・
「あ、待ってエ・クレアたん。エ・クレアたんは、おしゃべりにゃんこの探偵だよね?」
「そうニャ」
「実は~ここに来る途中、3丁目の辺りで人間の女の子が困ってる様子だったんだ~。ボクは人間語があまりわからないし~、喋れもしないから助けてあげられなかったんだけど~、エ・クレアたんなら何とかしてくれるかな~、と思って~・・」
正式な依頼ではないですが、困った人(猫でも)を助けるのは探偵の役目です。
エ・クレア助手は、ズンダくんの案内で早速3丁目に出向きます。
キリタくんもミーちゃんも『どうせ暇だから』という理由でついていくことになりました。
~~~~
3丁目につきました。
例の女の子は、ズンダくんが見た時と同じ場所で、まだ困った様子でうろうろしています。
どうやら、何か探し物をしているようです。
うずくまって自動販売機の下を手探ったり、公民館の掲示板の隅を覗き込んだり、電柱の裏を見てみたり。
「こんにちはなのニャ。お嬢ちゃん、どうしたのかニャ?」
エ・クレア助手は女の子に近寄って声をかけます。
他の3匹は、少し遠くでその様子を見守っています。
「・・・ネコちゃん?・・・おしゃべりにゃんこなの?」
「そうニャ。オレっちはRR探偵事務所のエ・クレア探偵助手ニャ。お嬢ちゃんのお名前は?」
「戸山ホタル、5歳」
「何か探しているのかニャ?」
「ダイヤモンド」
「ニャ?!」
「ホタル、ダイヤモンドを探しているの」
「・・・うニャ~・・・残念ニャけど、この地域からダイヤモンドが発掘された事例は無いのニャ」
「・・はっくつ?・・じれい?」
「ダイヤモンドはここを掘っても出てこないのニャ」
「・・・うぅーーー」
ホタルちゃんは泣きそうになっています。
「でも、ママの大事な物・・・探さないといけないの」
「ウニャ?!」
「ホタルが持ってきたの。見つけないといけないの」
「・・・!ニャるほど、そういうことだったかニャ。ホタルちゃんは、ママのダイヤモンドを内緒で家から持ち出して、この辺りで失くしちゃったのニャ」
「そう。机の上に置いてあったの。だからホタル、ちょっとだけ借りて、お友達に見せようと思ったの。ポケットに入れてたけど、穴があいてて、いつのまにか・・・」
「ふむふむ。事情は分かったのニャ。大丈夫ニャよ、ホタルちゃん。オレっち達が一緒に探すのニャ」
「オレっち・・達?」
「あそこにいるにゃんこ達にも手伝ってもらうのニャ。人間の言葉は話せないけど、猫は人間より小さいから、探し物は得意なのニャ」
エ・クレア助手の言葉に、ホタルちゃんの表情も和らぎます。
エ・クレア助手は連れの猫達に(ネコ語で)事情を説明し、みんなで辺りを捜索し始めました。
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「・・・・・ニャい」
「無いな」
「こっちも見当たらないよ~」
「いろんな隙間も入ってみたが、収穫無しだ」
「うえーーーん」
手分けしてみんなでそこらを探しましたが、ダイヤモンドは見当たりません。
ホタルちゃんはとうとう泣き出してしまいました。
「ウニャ~・・・そうだ、ちょっとタルト所長に相談してみるニャ」




