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第7章 所長!事件です!!5

「・・・はぁ・・・散々な目にあった」

「確かに・・・でも、所長」


「何だい、スフレ君」

「私、あの子、どこかで見たような気がするんですよね」


「え?あの『ヒャッハー』かい?」

「いえ、そのモヒカン野郎ではなく、『泣く女』の方です」


「有名人なのかい?」

「いえ、そういうんじゃないと思うんですが・・・もしかしたら私の生き別れたお母さん?!」


「明らかにあの子の方が年下だよね。それに、君のお母さん、この前実家から『娘がいつもお世話になってますー』って事務所に挨拶に来てたよね。行列のできる『パンデミックパン店』の生食パン買いに来たついでだったみたいだけどね」

「ああ、そういえば、手土産も持ってきてましたね、お母さん」

「うん。生食パンかと思ったら、生乾パンだったけどね」


生乾パンとは何でしょうか。


「乾パンと言えば、私が田舎から出てきて一人暮らしを始めた頃の事を思い出しますね」

「ああ、僕たちが出会ってしまった時のことだね」





スフレさんは、地元の高校を卒業後、『”こちら側のどこからでも切れます”が、どこからも切れたことがない人の身体的・心理的特徴』について研究するため、探偵事務所近くの大学・・・名前は言えませんが、あの「これでいいのだ!」でおなじみのあのパパと同じ大学に進学しました。


そして、一人暮らしをしていたのですが、ある日、1本の電話がかかってきました。


「はい。青山です」

「あー青山さん、オレオレ。オレだよ」


「ああ、オレ・セルナエスさんですか」

「・・・え・・・・ああ、そう、そう、オレ、セルライト。昨日さー。事故起こしちゃってさー」


「えっ?!大丈夫なんですか??」

「あー、うん。こっちは大丈夫なんだけどさー、相手のスベスベケブカガニが事故の影響で持病の水虫を悪化させちまったらしくてねー」


「水虫?」

「あ、ああ・・・ほら、あいつら、足15本あるだろ?それ全部水虫になっちゃってもう大変よ」


足の本数、奇数かよ。


「それは大変ですね!」

「ああ。で、治療費とかいろいろ入り用で、10万イィェン、都合してくんない?後で返すからさ」


「わかりました!足15本、全水虫は痒すぎますもんね!」

「じゃあ、今からいう口座にすぐ振り込んでね。あ、そうそう、それから、青山さんに紹介したい男性がいるんだけど、ちょっと電話代わるね」



「モシモシ コンニチハー アオヤマサン デスカー?」

「こんにちは、外国の方ですか?」


「ハイ ワタシノナマエハ ロマンス・サギーダ デス フランスジンデース ボンジョールノー」


イタリア語かよ。


「アナタニ ヒトメボレシマシータ ツキアッテクダサーイ」


一目も見てねえだろ。


「あの、はい、私でよければよろしくお願いします!」


お願いするな。


「それにしてもロマンスさん、さっきのオレさんと声が似てますね」

「・・・ア、アア。ヨク イワレルンデースヨー ワタシタチ オナジ チョウナイニ スンデイマスノデー」


「ああ、そうなんですねー。納得です」


納得するな。


「トコローデ ハニー キミニアイニ ジャペンヘ イキタイノデスガー イマ フランスノギンコウ  タナオロシノ キカンデシテー オカネオロセナイノネー」

「ああ、それはお困りでしょう」


「トリアエズ ヒコウキダイノ 200マンドル フリコンデクレマスカー」

「わかりました!」


ドルかよ。


「アト コウウンノツボ ト オカネモチニナレルインカン ト カザルトケンコウウンアップノカイガ ヲ キミノタメニ エランダンダ」

「え、本当?うれしいです!」


「ソノ ダイキンモ チョットノアイダ タテカエテオイテ モラエルカナ」

「はい~~~」



てな具合で、田舎から出てきてわずか1週間で一文無しになってしまったスフレさん。

這う這うの体で駅前の商店街に繰り出し、


「おじさーーん、何か食べ物くださーーーい。電気も水道も止められ、まつ毛エクステも週1回しか行けない状態なんですぅ~~~。ああ、おじさん、ここの店の人ですよね?ゴミ箱に捨てられてる鶏の骨だけでもいいんですぅ~。なんならスパイスのついた紙ナプキンだけでも・・・お願いします・・・・白髪が素敵なおじさん、名前なんて言うんですか?」


通りがかりの小学生男子が「その人はカーネル・サ〇ダースだよ」と教えてくれました。

すぐにお母さんと思しき女性が「見ちゃいけません!!」と言いながら、男の子の腕を引っ張って足早に去っていきました。




一方、助手オーディション会場を下見に来ていた赤岩タルト。

「・・・さて、会場も確保できたし、あとは受験者をふるいにかける問題作りだな」


「うう~~~。エサくれ~~~~。エサ~~~~」


「・・・・・・・」


50メートル先くらいに、不審な人物を認めたタルト所長。

君子、危うきに近寄らず。タルト、どんなに頼んでも食料を与えてくれなかった白いおじさんを白昼堂々担ぎ上げて川に投げ入れようとする成人女性に近寄らず。

目をそらし、小走りで通り抜けようとしました。


「おにーーーーーーいさん♪」

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!」


タルト所長がスフレさんを50メートル先に目視してから1秒も経っていません。

このゼロ距離。しかもカー〇ルさんを抱えたままです。

無駄にエネルギーを消化しています。おなかがすいているというのに。


「おにいさん♪ポケットの中、見ーーーせて(はぁと)」

「ははははは、はい?」


「はい、両手挙ーーーげて♪」

「ははははは、はい」


「はい、ぴょんぴょーん、ジャーーーンプ♪」


ピョンピョンピョンピョンーーーーーコトン


タルト所長は裕福なので、ポケットに小銭を入れたりはしていません。

しかし、ポケットの中で何かが動いた小さな物音をスフレさんは聞き逃しません。


「キラーーーーーン☆おにいさん、ちょーーーっとポケット失礼しますねー」


ズボッ


タルト所長のポケットに、矢庭に手を突っ込むスフレさん。

取り出したのは所長の長財布です。

普段タルト所長はカード支払いなので、現金はあまり財布に入れていないのですが、今日はたまたま『チョウチンアンコウ放火未遂事件』の解決金を出先で受け取ったので、大金が入っていたのでした。

資産家の息子のタルト所長は顔も広く、事務所を開く前からちょくちょくいろんな事件の相談を受け、解決してきたのです。そして今回、本格的に探偵業を営むことを決めていろいろと準備を進めていた時の事でした。



「ああ・・・お嬢さん、そ、それは・・・・」

「財布は要らん」


あっさりと財布をタルト所長に返すスフレさん。


「・・・え?」

「財布は食えんだろ・・・いや、革ならワンチャンいけるか?」


「無理無理無理無理m・・」


財布の中身は食べ物に変わりますよ、とは絶対に口にするものか、と瞬時に決意する所長。


スフレさんは、もう1度タルト所長のポケット手を突っ込むと、取り出したのは・・・・


「いええーーーーーい!!!食べ物ゲットーーーーーー!!!!」


角の欠けた乾パンでした。


「あ・・・それは・・」


その乾パンは、この日の朝、飛び込みで入ってきた『トリニダード・トバゴ伝書バト迷子事件』で探していた伝書バトのジョゼフ君を『1・2・3・4・5・6・質屋』の前で見つけたタルト所長が、彼をおびき寄せるために持っていたものでした。

いざジョセフ君を目の前にしたタルト所長は、乾パンを手で砕こうとしたものの、あまりの硬さに(所長はこれまで乾パンを見たことも食べたこともありませんでした)角を噛み砕いたのですが、もたもたしている隙に、ジョゼフ君には逃げられてしまいました。

噛み砕いた乾パンはそのまま飲み込みました。


「うん、意外とうまいな」


というわけで、食べかけの乾パンはポケットに突っ込んで、とりあえず予定していた助手オーディション会場の下見をした帰りに、スフレさんに出会ってしまったのです。


ちなみにジョゼフ君は、後日、再びおなかをすかせたスフレさんに鷲掴みにされ、あやうくハマム・マッハシにされそうなところをタルト所長により救助され、無事にトリニダード・トバゴの富豪の飼い主の元へと帰っていきました。

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