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第67章 そして誰もいなくならない Day4(13)

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


「ちょっとぉー!!章の始めから沈黙ってどういうことっすか?!」


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・・


「地の文さんまで!!」



「・・・・何のために?」


沈黙を破ったのはタルト所長です。


「はい?」

「それこそ”何のために”嘘をついたと言うんだい、スフレ君」

「それに、何故『2階で寝泊まりしていたなんてありえない』ニャのか?」


「2階で寝泊まりしているはずがない理由についてはハッキリ答えられるっすよ」


スフレさんは自信満々に応戦します。


「地の文さん、島1日目の夕食時にこの館の設備についての描写があったはずです。回想、カモン!・・・あ、例の決め台詞は省略で」


はい。かしこまりー。では、回想です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


施設の1階には、玄関から入ってすぐの大広間と、大きな食堂とキッチン、そして食堂とは1枚のドアでつながっている隣の客間、小さな図書室、男子トイレ、お風呂とランドリーがあります。

2階は中央に廊下が通り、両側にベッドのある12個の部屋が並んでいて、その他には女子トイレがあります。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


以上でーす。


「ほら」


「・・・・何が?」

「だからどうしたのニャ」

「何なんだよ」


「え?聞いてなかったんですか?2階には12個しか部屋がないんです」

「知ってるよ」

「オレっちもニャ」

「部屋数は確かにそのくらいだったな」


「今回のコメディアン人形に対応した10人の人々、そして私達は3人。でも、エ・クレアさんはペット枠参加だったので、所長と同室に入りました。・・・・ほら!これで12部屋全部埋まったじゃないですか!空き室はありません!!黄島刑事!あなたは一体、どの部屋で寝泊まりしていたというんですか!答えられるものなら答えてみせて下さいよ!!」


スフレさんは挑戦的なまなざしを黄島警部に送りましたが・・・・


「・・・・はぁ・・・・」

「・・・・フニャ・・・」


タルト所長とエ・クレア助手は揃ってため息をつきます。


「な、何ですか?!その反応は」

「・・・いや・・・なんかもう・・真面目に答えるのもアホらしい・・」

「タルト所長、この島での事件はすべて解決したのニャ。そろそろ帰り支度をするのニャ」


「そうだね。そうしよう」

「いやいや。コメディアン人形消失事件の犯人解明がまだっすよ!!」

「それは黄島刑事だって本人が認めたのニャ」


「でも!黄島刑事は嘘をついています!!」

「ついてないよ。空き室はあった。・・・さ、行こう。エ・クレア君」

「はいニャン」


タルト所長はエ・クレア助手を連れてさっさと邸内へと戻っていきました。


「ちょっと待ってーーーー!WHYーーーー?!」


後に残されたスフレさんと黄島刑事。


「・・・黄島刑事、本当に2階の部屋に泊ってたんですか?・・・あ!!もしかして女子トイレに?!」

「んなわけねーだろ。2階廊下の1番奥の、鍵が開いていた部屋だ。まあ、誰にも気づかれないように無断で泊まってたからな。さすがにまずかったと思うが、後で宿泊代は払っておくさ・・・・ああ、そういえば向かいはスタッフ夫婦の部屋だったな」


「・・・・・・・・・・スタッフ・・・”夫婦”」


「それと、あのおっさん人形なら、まだ俺の泊った部屋に置いてあるが、証拠として見に来るか?」

「・・・・・・・・・・いえ、大丈夫っす」




~~~~~~~~~~~~~~~~


桟橋に迎えの船が到着しました。

全員が荷物を持って宿泊施設を後にします。


「まあ、なんだかんだ楽しめた休暇だったな。戦場とはまた違った経験ができた」


「そうですわね。私も楽しかったです。あ、ミラネサさん。蜂蜜もう1瓶いかが?」


「おお、これはこれは。遠慮なくいただこうかねぇ」


「あの高性能雨具は良かったなり。少々蒸れるが、帰ったら小生も買うなりか」


「あ、あの・・乾さん・・お世話になりました。でも詰まったのは歌詞カードです」


「食事も最高でしたね。まだ少し喉・・・いや、顎の調子がおかしいですが」


「タタミじゃーー!!八代村やつしろむらのタタミじゃーー!!!」


「みなさーーん。お忘れ物ないですかねーー?」


「ただでさえ少ないスタッフでしたのに、我々2人ともがとんだお騒がせをしてしまい、行き届かない点が多々ございましたが、ご満足いただけましたでしょうか」


「ああ、乾ビリヤニさん。あなたには後ほど例の件で警察が話をお伺いすることになりますよ。自分もあやうく中毒になるところでした」


「Nyogiboクマさんギュッと抱いたまま言っても説得力ないっすね」


「帰ったらこの蜂蜜を使ってハニーパイでも作ろうかの」


「あら、いいですわね。美味しそう」


「それならこの小麦粉を使うといい。なんか知らんが、署内で評判の高級小麦粉らしい」


「櫃島ーーー!!!やっぱりお前かーーー!!!現行犯逮捕だーーー!!!」


「げげっっ?!黄島?!?!な、な、な、何でお前がここに?!」


「最後までバタバタしてるねえ・・・」


「このお話はこれでいいのニャンよ」


「お疲れ様っす、所長」


「うーん。旅の終わりに交わす言葉じゃないねえ、スフレ君。確かに疲れたけど」


「でも、食事は美味しかったので満足っすね」


「そうだね特に君はね・・・・ん?君、来た時より荷物多くなってない?」


「はいー。せっかくなんで淵戸内のお土産を持って帰ろうと思って」


「お土産って何ニャ?」


「色々ですよー。夕食に出た生牡蠣の殻とか、砂浜掘ってたら出てきたマンモスの全身化石とか、図書室にあった『この本はご自由にお持ち帰りください』ってメモが貼ってあったDas dickste Buch des Universumsとか、部屋に置いてあったアメニティグッズとか」


「アメニティグッズなんてあったっけ?」


「ハンガーとかカーテンとかシーツとか・・・」


「すぐに返してきなさい」


返してきました。


「・・・・全く、何考えてるんだか」


「その他のお土産についてはツッコまなくていいのかニャ」


「エ・クレアさん、エ・クレアさん。パエリアさんが水筒に『淵戸内特産海の幸たっぷり濃厚こってり海鮮ポタージュ』入れてくれましたよ。飲みますか?」


「飲むニャ!」


「あ、スフレ君。なんか、のど乾いた。僕にもくれないか」


「いいですけど、これ相当こってりですからねー。喉が渇いたのなら、こっちのすっきりとした飲み物の方がいいと思いますよ。ちょっと待って下さいね。今出します」


ごそごそ


スフレさんはリュックから何かを取り出そうとしています。


「?何だい?」


「はい。どうぞ」


タルト所長が手渡されたのは、(小)麦(粉)茶入り哺乳瓶でした。


パシュッッ!! ピューーー ドボーーン プカプカ ザブーーーン


哺乳瓶は淵戸内海の波の彼方へと消えていきました。

※これはフィクションです。海を汚すのはやめましょう。


スタッフの乾夫妻と、迎えの船頭さんに手伝ってもらいながら、ツアー客11人と黄島キンツバは帰りの船に乗り込みます。

天気は良好で、波も穏やかです。

全員が乾夫妻に感謝と別れの言葉を告げた後、船は静かに桟橋を離れ、本土へと向けて走り出します。


「いい旅でしたね。所長」

「・・・・う、う・・ん?」

「食事は最高だったけど、ほとんど観光しなかったのニャ」


「島を歩き回りましたし、砂浜を掘り返したのは宝探しみたいで楽しかったでしたし、アナグマとも遊びましたし」

「それしたの、君だけだよね」

「探偵らしいことも何ひとつしなかったのニャ」


「そもそも休暇を楽しみに来たんですから、探偵のお仕事はしなくてもよかったんですよ、エ・クレアさん」

「・・・まあ、そうか」

「そう言われるとそうかもしれないニャ」


「それに、何と言ってもですよ、お2人とも」

「ん?何?」

「何かニャ?」


「誰もいなくならなくて本当に良かったっす!」


海面は太陽の光を浴びて、乗客全員の心を映し出したかのようにキラキラと輝き、船は島での騒乱があたかも遠い昔の事だったかのように、静かに、穏やかに、波の上を滑るように進んでいくのでした。

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