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第65章 そして誰もいなくならない Day4(11)

タルト所長、エ・クレア助手、スフレさんの3人はとりあえず1階の大広間に降りてきました。


「あらあら。お3人さん。もうお帰りの支度はできましたか?」


乾パエリアがモップを片手に声をかけてきました。

あいかわらずNyogiboリメイククッションは腰に縛り付けたままです。


「ああ・・いえ。まだ少々やり残したことがありまして」

「あ、そうだ。パエリアさん、すみませんこれ、借りてました。雑巾」

「あららら。そういえば、さっきオレンジ色が付いた窓の掃除をした時に無いなと思ってたのよぉ~。お嬢ちゃんが持ってたのねぇ~」


「ああ、お客様方。まもなく帰りの船も到着する時刻でございますので、お忘れ物なきよう」


乾ビリヤニもやってきました。宿泊客にチェックアウトの声掛けをしているようです。

そこへ、2階からスポーツバッグを肩にかけた立見ケバブが伏し目がちに降りてきました。


「立見君、大丈夫かい?」


タルト所長が彼を心配して声をかけます。


「はい。お気遣い痛み入ります」

「?!何っすか?!まるで別人!」

「Pon!Pon!はどうしちゃったのニャ?!」


「あらあら、お兄ちゃ・・・」


乾パエリアも彼に声をかけようとしましたが、立見ケバブはびくっと肩を震わせ、ますます伏し目がちになり、柱の陰に隠れてしまいました。


「タタミじゃーー!!八代村やつしろむらのタタミじゃーー!!!」


タタミを叫びながら廊下の向こうからやって来たのは宇鷺ミラネサ・・・ではなく、根住ポトフです。

昨日、体に巻いていた即席の袈裟は浴場のカーテンでしたので、乾パエリアに没収されてしまったようです。

ならば代わりに、と乾パエリアが似たような色の余り布を進呈してくれて、今日の彼はワインレッド色のペイズリー柄の端切れを袈裟懸けにしています。


「みなさん、ちょっとお伺いします。この中に、食堂のコメディアン人形を持ち去った方はいらっしゃいませんか?人形はこの島のオーナーが用意した小道具で、特に金銭的価値などもないようですので、罪に問われることもないでしょう。正直に名乗り出て下さい」


タルト所長がこの場にいる人たちに声をかけますが、全員が否定の言葉やジェスチャーで答えます。

その表情に嘘はないようです。


探偵事務所の3人は、食堂に入りました。

そこでは、蜂蜜&ニシンパーティーをしていた宇鷺ミラネサと旨川スブラキが後片付けをしています。

宇鷺ミラネサの顔は何故かベタベタになっています。


「・・・宇鷺さん?そのお顔はどうされたんです?」


タルト所長が若干引き気味に尋ねます。


「蜂蜜パックじゃ」

「・・・・・・・」


「ああ、エさん」


旨川スブラキがエ・クレア助手に話しかけます。


「いニャいニャ、『エ』が苗字で『クレア』が名前とかじゃニャいんで。『エ・クレア』で1単語ニャんで」


旨川スブラキは、


「これをお返しします。中に入っていたジャーキーは全部食してしまいましたが、代わりに”にゅ~る”を詰めておきましたので」


と言って、エ・クレア助手にお弁当箱を返します。


「お2人さん。そこにあったコメディアン人形を持って行ったりはしていませんか?」


タルト所長が宇鷺ミラネサと旨川スブラキに問いかけます。


「あんな可愛くないジジイ人形に用はないわぃ」

「家庭教師のお嬢さんが窓辺に持って行って銃撃していたが、当方は人形には触れてもいませんよ」


3人は、食堂に続くキッチンへと入ります。

そこには、シンクの脇に立ち、左手で遺伝子組み換え(平たく言えばリメイク)家具生物兵器ぬいぐるみ熊を抱いて、右手でビール瓶を持ってラッパ飲みしている櫃島チャプチェと、菜箸を使って”底に残ったルヴァン”を残らず食べようと苦心している去取ボルシチがいました。


「もうすぐ帰りの時間っす。支度した方がいいですよ。・・・あ、はいはい。お役に立ちましたか?」


去取ボルシチがスフレさんに雨具(オーラン宇宙服)を返します。

タルト所長はこの2人にもコメディアン人形について聞きましたが、心当たりがないようです。


そこへ、裏口から渡来ムサカが入って来ました。

その全身はこんがりと小麦色に日焼けしています。


「焼けるの速すぎじゃないっすか?!」

「『よく焼けるサンオイル』って本当だったんだね。”陽(得体のしれない化学物質)”恐るべし」

「いニャいニャ」


「大尉、コメディアン人形を減らしていったのはあなたですか?」

「はあ?何の事だ?俺様は知らん」


~~~~


「みんな、嘘をついている様子はなかったっすね」

「残るは後谷さんだけだけど、彼女は心底今回の連続事件を恐れていたようだからねぇ・・・最後の3体はともかく、その他の人形についてはシロだろうね」

「そうなると・・・犯人は誰なのニャ・・」


3人は玄関を出て、砂浜を歩きながら推理を続けます。


「・・・・まさかと思うが・・・」

「・・・・ニャさかと思うが・・」


タルト所長とエ・クレア助手の視線が、横を歩く自称探偵助手の間抜け面に注がれます。


「!!!ま、ま、まさか私を疑ってるんっすか?!いえいえいえいえ!そんなわけないでしょう!ノックスの十戒『探偵自身が犯人であってはならない』!」

「・・・・問題ない」

「・・・・問題ニャイ」


「何で?!」

「逆に、どこに問題があるのかい?仮に僕かエ・クレア君が犯人だというのなら、確かにノックスの十戒に反するだろう。しかし・・・・」

「しかしニャ」


「『しかし』何ですかっ?!」

「・・・・・」

「・・・・・」


「無言やめて」


スフレさんが2人の前に躍り出て、体の向きを変えたその時、彼女の視界の端に何か動く黒い物体が入りこみました。


「あ!あれ!!」


スフレさんの声に反応して、タルト所長とエ・クレア助手も彼女の指し示す方向を思わず振り返ります。


「あれは?!」

「人だニャッ!!」


動く物体は明らかに人間です。

黒のキャップに黒のTシャツとズボン、全身黒ずくめのその人間は、3人から逃げるように雑木林の方に走って行きます。


「追いかけましょう!」

「誰だ?!」

「男の人ニャ!今はみんな建物内にいるはずだし、あんな服を着ていた人もいなかったのニャ!」


3人はすぐさま不審な人影を追いかけます。


タッタッタッーーー


エ・クレア助手は、軽快に砂の上を走ります。


トシュッポシュッニュロン


スフレさんは、少し砂に足を取られながらも、持ち前の運動能力でエ・クレア助手の後に続きます。


ジャリッジャリッジャリッ ドスン


タルト所長は、スフレさんが埋め直し忘れた砂浜の穴に落ちてしまいました。


「待てーーー!!ジン!!」

「たぶん、その人じゃニャいと思うぞ、スフレ!黒づくめニャけど!」


「だったらウォッカかーーー!!」

「たぶん、その人でもニャいと思うぞ、スフレ!黒づくめニャけど!」


~~~~


2人は黒づくめの人物を、雑木林の端に追い詰めました。

後から、自力で穴から這い上がったタルト所長も追いつきました。

黒づくめの人物は3人に背を向け、なすすべなく立ち止まっています。


「こっちを向きなさい!あなたがコメディアン人形消失事件の犯人ですねっ?!目に見えない大きな力により描かれた、凄惨極まりないシナリオに見事踊らされた10人の哀れなコメディアンの目はごまかせても、私、超ミラクルハイパーワンダホービューチホー敏腕探偵助手、青山スフレさんの目はごまかせませんよっっ!!」


スフレさんのあまりの勢いにとうとう観念したのか、キャップを目深にかぶった黒づくめの男は、ゆっくりと3人の方に向き直ります。


「・・・・え?」

「!!!!まさか!!!!」

「ニャニューーーーーーン!!」

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