第6章 所長!事件です!!4
「あのー。ちょっとすみません・・・・」
おずおずと声をかける所長。
のろのろと蛇行運転をする改造スクーターに乗っていたのは高校生くらいの男女カップルです。
運転手の男はピンクのモヒカンで、口には真ん中に赤いマジックで『×』が描かれたマスクをしています。
「・・・お手つきで1回休み‥的な?」
「スフレ君、昔のイントロクイズじゃないんだから」
「何の話だ、ワレ、ヲイ!!」
白のつなぎの後ろに、虎の絵と『夜露死苦』の文字の刺繍が施されているようです。
「虎?・・・あれ、豹じゃないっすか?」
「いや、ジャガーじゃないか?」
「うーん。チーターかも」
「ピューマという説も・・・」
「あ、『液靄タヒ苫』って書いてありますよ」
「『露』より『靄』の方が難しくないか?」
「さっきから何ごちゃごちゃゆっとんじゃ、ワレ!」
「え~オジサンら、マヂうざいんですけど~」
スクーターの後ろに乗っていた女は、これまた一昔前のスケバン風スタイルです。
「ネェネェ、達夫~こんなんほっといて、早くしま〇ら行ってアゲ~~~」
「ああ、そろそろ新しい短ランも欲しいしなー」
「それ、し〇むらで買ってんのかい」
「そもそもしまむ〇で売ってるのか?」
スフレさんとタルト所長のツッコミもスルーし、2人の会話は続きます。
「え~じゃ、あ~しは何買おっかな~ね、どんな服がいい~?」
「おめーなら、どんな服着たってかわいーぜ」
「やだ~達夫ったら~~DS~~」
「・・・ゲーム機か?」
「いや、『大好き』の略らしいっすよ」
困惑気味のタルトとスフレを尻目に、バカップルのいちゃいちゃは止まりません。
「それに、最近おめーますます綺麗になったんじゃね?」
「いや~~んもぅ、照れるんですけど~~でもとりま、メイクもティーンズロード見て覚えたし~~」
「ピカソの『泣く女』見て覚えたんじゃ?」
「それより、ティーンズロードって今、発行してるのか?」
「あと、女の方、ヤンキーというよりギャル口調っすね。無理矢理感強めですけど」
「僕たちは何を見せられているんだろうか・・・」
「さっさと聞き込みして、さっさと終わらせましょう」
おや、スフレさんが珍しくまともな事を言っています。
がんばれ、タルト所長!
「そこのイケてるお兄さんとお姉さん、ちょっと協力してくれないかな?」
「ああん?んだよ、おっさん。喧嘩なら他を当たってくれよ」
「達夫は『ケンカしない系』総長なんですけど~~~」
「弱くて『ケンカできない系』総長だったりして」
「こらっ、スフレ君!(小声)」
「ああん?」
「その族って、何人くらいのグループなんですか?」
「スフレ君、君、怖いものなしだね(小声)」
「ああん?」
「達夫が総長で~~あ~しが副総長」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・で、その他は?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ~しら、名付けて『后妃龍幻影【九重桜】』、ヨ・ロ・シ・ク!!」
「・・・・いないんだね、他に」
「・・・・いないんだな、他に」
「あんたら、馬鹿にしてんでしょ~マヂムカツクんですけど~~チョベリバ!ありえんてぃ!げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリ~ム(神)!!」
「なめてんじゃねぇぞ、おっさん、コラ」
「達夫、めっちゃ頭いいんだかんね~~この前の期末テストだって英語93点だったんだかんね~~」
「え、めっちゃいい点じゃん」
「そもそもちゃんと高校行ってるのがすごい」
「・・・・10000点満点とかじゃないよね?」
「ねーわ!!ざけんなよ、ゴラァ!普通に100点満点じゃー!!」
「『アルファベットを大文字と小文字で書きなさい』っていう問題、A~Hまでが大文字、小文字各4点で、残りが各1点で~~達夫はLMNのところでマイナス4点、Sを逆向きに書いて大文字小文字でマイナス2点、で、最後ZとzをGとgって書いてマイナス2点~~すごくない?93点とか神じゃね?ヤバ~~~」
「Gが2回出てくるアルファベット・・・」
「なんや、ゴラ。エックス、ワイ、ジーやろがい!」
「LMNの間違いとは?」
「ああん?順番わかんねぇから、MMM、mmmって書いたんだぜ!どれか1つは必ず当たるだろ!」
「いや~~ん、達夫、まぢカシコ~~~、鬼ヤバ~~~!!え?え?東大王?マヂマンジー」
「・・・ていうか、ちょっと待って。今の採点だと、92点にならない?」
「はぁー?93点だろーがよ!」
「いや、確かに92点だ」
「え~採点ミス~??達夫、ちょ~ラッキ~じゃ~ん♪運も強いなんて、さすがあ~しの彼ピ~」
この高校は先生もアレなようです。大丈夫なんでしょうか。
それにしても、なかなか本題に進めません。
「え・・・と、賢い彼ピとその綺麗な彼女さんに聞きたいんだけど、ここら辺で長毛の猫を見なかったかな」
「おい、おっさん!何、人の女口説こうとしてんだよ!しばくぞ、ワレ!」
「・・・もう、勘弁してください・・」
「オジサン、ちょ~も~って何?超もぅ可愛いんですけど~~の略的な?・・・あれ?てか、オジサン、よく見るとイケメンじゃね?」
「ゴラ、お前もこんなおっさんに色目使ってんじゃねーぞ!」
「はぁ~~?色目使ってねーし。・・・あ、そうだ、オジサン、あ~しン家もネコ飼ってるんだけど、動画見るぅ~~~?『落雁』って名前なんだけどぉ~」
「ヲイ、スマホ見せるとか、それ、もう完全に浮気だかんな!!」
「え~ヤバ~、スマホ見せただけで浮気とか、ちょ~無理なんですけどぉ~~。そんなん言ったら、この前、隣のクラスのハヤトに体育祭の男女混合リレーでバトン手渡ししたんだけど、それも浮気に入るんですかぁ~?」
「入るに決まってるだろ!、グォラァァァーー」
「入らねーよ」
「スフレ君、もう彼らからの聞き込みは諦めよう」
「そうですね。精神衛生上、これ以上はドクターストップがかかるレベルですね」
こうして、無駄な時間を過ごした2人は、そっとバカップルの元から遠ざかるのでした。
「だったら、先週、元カレのロドリゲスと1泊2日温泉旅行に行ったんだけど、それも浮気に入るんですかぁ~?」
「それはセーフだ」
まだやってますね。
「それは普通にアウトだろ」
「もう相手にしないで、スフレ君」