第59章 そして誰もいなくならない Day4(5)
「うーん。ちょっと第一小臼歯が欠けてますね。とりあえず応急処置としてマジパン詰めときますんで、帰ったらちゃんと処置を受けて下さい」
「・・・あ、ありがとうございます・・?ドクター」
「ところで、歯よりも・・・その顔の傷の方が重篤な様子ですが・・・どうなさったんです?探偵助手のお嬢さんまで。シザーハンズと格闘でもされたんですか?」
「・・・ええ・・・まあ・・・ちょっと」
「キャットハンズと格闘・・というか『闘』はしていなくて、ただ一方的にというか・・・」
「フーーーーッ!!フーーーーーッ!!」
食堂で、2度と喉に刺したりしないよう、エアタービンを使ってニシンのスモークジャーキーを小さく削って慎重に食べていた歯科医・旨川スブラキに、猪口を噛んで痛めてしまった歯を診てもらったタルト所長は、専門外なので診てもらえなかった顔の切り傷をハンカチで押さえながら、同じくタオルのようなもので顔を押さえたスフレさんと、頭から湯気の出ているエ・クレア助手を連れて、9番目の被害(予定)者に会うべく、玄関を出ました。
「スフレ君、そのタオルなんだかひどく汚れてるようだけど、君の物かい?」
「いいえ。私ハンカチとか持ってないんで、そこのバケツに引っかかってたタオル借りたんです」
「フーーーーッ!!フーーーーーッ!!」
「・・・・それってタオルじゃなくて、立見君のトイレ詰まらせ事件の時に廊下を拭いた雑巾じゃない?」
「あ。そうかも。・・・後でパエリアさんに断りを入れておきますねー」
「フーーーーッ!!フーーーーーッ!!」
「そういう問題じゃないんだけど・・・まあ、いっか」
3人が外に出ると、波打ち際近くでビーチチェアに寝転がっている渡来ムサカと、その傍らに立っている後谷マリネが何か話している様子です。
「やっとわかったぞ、後谷マリネ」
渡来ムサカが後谷マリネに笑いかけます。
「島には誰もいないんですわ・・・私達2人以外には・・・」
後谷マリネが答えます。
「いやいやいやいやいや。きっちり13人揃ってるから!」
「そして誰もいなくなってないっす!」
「フーーーーッ!!」
ギャラリー(3人の探偵陣)がツッコみますが、2人には聞こえてないようです。
「そうだ。これで俺様達の立場もわかったということだ」
「あのNyogibo熊が何故あんなところにあったのかしら」
「よくできたトリックだな。あっぱれと言ったところか」
2人は再び視線を合わせます。
「いよいよ終わりだ。ようやく真相が明かされる。これで全ての幕切れだ」
後谷マリネは落ち着いた様子で言います。
「わかっています・・・」
彼女は波打ち際を見つめます。
「これで幕切れ・・」
渡来ムサカも水平線を眺め、この時を待っていたかのようにつぶやきます。
「・・・・なんすか?あの2人の会話」
「たぶん、オリジナルをほぼ忠実に再現させられているんだろう・・・」
「フーーッ!!」
ギャラリーが何か言っていますが、何か大きな力に動かされている2人には聞こえてないようです。
「あのお医者様はお気の毒でしたわね」
「なんだ?同情か?・・・猫のエサをつまみ食いなんかするから自業自得だろ」
「大尉はちっとも気の毒だと思わないのですね。慈悲の欠片もないわ」
「ああ。貴様に対しても思わないな」
「・・・・いつまでこの茶番を見てればいいんすかね?」
「もうそろそろ動きがあると思うが・・・」
「フー・・・ニャ」
ギャラリーも飽きてきて、エ・クレア助手の逆立っていた毛もペタンと落ち着いてきたようですが、もう少し辛抱して下さい。
「旨川先生、喉は大丈夫かしら。私の蜂蜜を塗ったらどうかしら」
「・・・刺し傷に蜂蜜が効くかどうかわからんが・・・お望みならばそうすればいいんじゃないか」
「では、手伝っていただけます?大尉」
「・・・まあ、いいが・・」
渡来ムサカはビーチチェアの上で体を起こし、立ち上がろうとします。
後谷マリネは素早く、手を貸そうという仕草で彼の傍に近寄ります。
「は?年寄りじゃないんだから介添えはいらん」
「そう言わずに。大尉様。体育の家庭教師の性なんですのよ」
渡来ムサカは後谷マリネに体を支えられながらビーチチェアから立ち上がりました。
「気が済んだか?」
後谷マリネは先程よりも素早い動作で渡来ムサカから離れて言います。
「済みましたわ!!」
後谷マリネの豹変ぶりに渡来ムサカが気付き、慌てて自身の腰元を確かめましたが遅かったようです。
後谷マリネは渡来ムサカから1.8288mほど後ずさりし、彼のペイントボールマーカーを彼に向けて立っています。
「体育の家庭教師の性だとかなんとか言って、これが目的だったのか!」
後谷マリネはこくんと同意し、ペイントボールマーカーを彼に突き立てます。
ペイントボールに於いてのアウトが渡来ムサカのすぐ近くまで迫ってきています。
しかし、まだ彼は降参しません。
「マーカーをこっちに渡すんだ、後谷マリネ」
しかし後谷マリネは無言で微笑みます。
「渡せ!」
渡来ムサカは瞬時に考えます。
何とか説得しようか、それとも強硬手段に出るか・・・
自分はこれまでのサバゲーでどういった道を歩んできたのか・・・
いや。初陣で失敗して、サバゲー道は一歩も歩いていなかった・・・・
彼は後谷マリネに向かい、ゆっくりと話しかけます。
「まて。落ちついて俺様の話を聞くんだ。俺様は・・・」
そして突如、渡来ムサカは後谷マリネに飛びかかりました。
後谷マリネはほとんど反射的にペイントボールマーカーのトリガーを引いて・・・
パシューーーーーーン
パチャーーーーーン
渡来ムサカの動きが一瞬止まり、それから、どさっと砂浜の上に膝から崩れ落ちました。
「あああああああ」
「やっちゃったっす・・・」
「クリティカルヒット・・・やった!・・ニャ」
渡来ムサカの胸はオレンジ色に染まっています。
後谷マリネは放心したかのように、ペイントボールマーカーを持ったままフラフラと宿泊施設内に戻っていきました。
「いたた・・・」
「大丈夫ですか?元大尉」
スフレさんが駆け寄り、渡来ムサカに声をかけます。
「ああ。まあ、なんとか、な」
「あんな至近距離でくらったらペイント弾でもさすがに痛いっすよね」
「・・・スフレ君の予想が当たったか?」
「・・・オレンジ色だけど、”陽に焼かれ”たように見えなくもニャい・・・か?」
「ああ、まったく。とんだ目にあった。そうだ。元”ケロケロ軍曹24”の仲間にこの事を報告しよう」
渡来ムサカはイリジウム衛星スマホを取り出して誰かに電話をし始めました。
「なんかすごい携帯持ってるんすね」
「”ケロケロ軍曹24”って何だっけ」
「確か、渡来さんが大尉を務めていたサバゲーチームだったと思うニャ。”声”の話では、一戦もできずに解散したらしいけどニャ」
プルプルプルプル
「・・・あ、もしもし。陽か?」
相手が電話に出たようです。
渡来ムサカがスマホに向かって話しかけます。
「え?今、『陽』って言いました?」
「言った。絶対言った」
「”陽(という名の人物)”ニャ」
「そうだ。それでその女にペイント弾を・・・え?リアルなバトル体験?・・・まあ、そうなるかな。ああ、サバゲーじゃなくてペイントボール体験だけどな。確かに緊張感ある臨戦体験はできたが・・・え?そんなに羨ましいか?・・・いやいや、妬くなって。帰ったら”ケロケロ軍曹24”を再興しようじゃないか」
「・・・・もしかして、”陽”さんにやきもち”焼かれて”ます?」
「うん。陽っていう人、バトル体験を楽しんだ大尉にやきもちを焼いてるっぽいね」
「ウニャ~」




