第54章 そして誰もいなくならない Day3(8)
根住ポトフは明らかにお変わりがありました。
手に持っているのはスフレさんの言った通り、刃物です。
それは、ぴかぴか光る剃刀でした。
「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない・・・そう。推理小説たるもの、文章は難しくし過ぎず簡単に、不要な部分は削ぎ落とすべきである。うーん、深い言葉っすね」
いいえ。オッカムの剃刀じゃないです。
しかも『私と猫と迷探偵と』はオッカムの剃刀理論完全無視ですからね。
根住ポトフが持っているのは、ちゃんと実体のある剃刀です。
とはいっても、髭剃り用のT字剃刀などではなく、散髪屋さんが使うような剃髪用の剃刀で・・・・
「根住さん?!その頭はどうしたんですか?!」
タルト所長が驚きの声をあげます。
根住ポトフの頭髪は見事に全てすっきりさっぱりまるっと剃りあがっています。
「・・・根住さん、それ、ご自分で剃られたんですか?」
「もちろんじゃ。今日はいい転機ですなあ」
タルト所長の言葉に、根住ポトフはうなずきながらにこやかに答えます。
宿泊施設で用意されている浴衣の上に、なにやら煌びやかな緋色の大きな布を左肩から右脇にかけて斜めに巻きつけています。
「根住さんも転機ですか。髪型を変えるいい転機って事っすかね」
「あの緋色の布、浴場のカーテンだよね」
「お坊さんの袈裟のようニャ・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「えー。では6番目の惨劇?・・・も起きてしまったことですので、『第4回 そして誰もいなくならないように事件をk・・」
「ちょっと、待った!!」
「何っすか?」
「『何っすか?』じゃないでしょ!さっきの事件、おかしいでしょ!」
「そうニャ、そうニャ。現代長唄では『1人が大法院に入って』って唄ってるのニャ。頭をツルツルに剃る事とどうつながるのニャ?」
「・・・・・あ、そっか」
「裁判官と剃髪にどんな共通点があるんだろう」
「ウニャ~。何かやらかした人が頭を丸めるって話は聞いたことがあるけどニャ・・」
「じゃ、根住お爺さんにちょっくら聞いてくるっす!」
ぴゅ~~~~~~っ
「相変わらずフットワークが軽いね、スフレ君は」
「無鉄砲ともいうニャ」
~~~~
「根住お爺さ~~ん!!」
スフレさんが大広間にいた根住ポトフに呼びかけます。
「どうしたんかいの、スプレさん」
「ス・フ・レです!根住お爺さん、どうして頭をツルツルに剃っちゃったんですか?」
「ああ、出家をしようと思っての」
「出家?!仏門に入るという事ですか?!」
「いや。仏門ではなく、い草教じゃよ」
「い草教っっ?!」
「ミラネサ媼が棄教したじゃろ。現代では和室の数もめっきり減って、どこもかしこもフローリング。い草教徒も年々減少する一方なのじゃよ。そこで儂の出番じゃ。儂は妙心寺大法院に入って、このい草教を広めようと思うのじゃよ」
「はい?!?!?!え?え?どこで何を広めるですって?!」
「妙心寺大法院でい草教を」
・・・・・・・・
「え・・・と、・・妙心寺・・何でしたっけ?」
「大法院」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「あー・・・根住お爺さんは・・(中略)・・・という事だそうです」
「・・・・・・え?」
「妙心寺大法院・・・・ニャ?」
「1人が大法院に入・・・まだ正式には入っていませんが、とりあえず6番の歌詞クリアっす」
「クリアなのかニャ?・・・というか、我々はクリアしないように頑張っていたのではなかったのかニャ」
「妙法寺大法院・・・苦しい・・・苦しすぎる」
「次の唄いっていいっすか?」
「・・・・なんかもう疲れたんだけど」
「だめニャ。探偵がここで投げ出したらだめニャよ、タルト所長!」
「そうっすよ。あとまだ4つあるんすから」
「多い・・・多いよ。これまだ4つも続くの?」
「頑張るのニャ!もうあと4つなのニャ!!」
「ではいきまーす。『第4回 そして誰もいなくならないように事件を回避しちゃうぞ捜査会議』!」
「88888」
「ktkrニャー」
「今回こそ事件を未然に防いじゃいますよ!」
「88888888」
「wktkニャー」
「所長たちの棒読みコメントは気にしない方向で進めまーす。ではでは、現代長唄の7番の歌詞ですよ」
「8888888888」
「うぽつニャー」
「4人のコメディアンの壮年が淵戸内海に出かけた・・・・1人が燻製のにしんを飲みこみ、3人になった」
「淵戸内海部分はまあ、そのままだよね」
「燻製のにしんを飲みこみ・・・これもそのままニャンじゃ・・」
「普通に燻製のにしんを美味しく食しました・・・ってオチっすかね」
「オチって言わない」
「まさか。いくらニャンでもそのまんま過ぎるニャ。どげんかせんといかんのニャ」
どげんもせんでもよかですよー。
「?!?!?!」
「!!!!!!」
「ニャヌッ?!?!」
≪読者への挑戦状≫
「早っ!!」
「まだ事件起きてない!!」
「何を推理するのニャッ?!」
≪読者への挑戦状≫
さて、読者の皆さま。ごきげんはいかがでしょうか。
天の声、またの名を地の文さんです。
今回の謎は・・・まず、”次の被害者は誰か?”
「・・・・は?」
「いや、それは原作読めばわかるっすよ」
原作とは何のことですか?
「今更?!」
そして、”ニシン事件の犯人は誰か?”
「またフーダニットか」
「いニャ、実際にはまだ事件が起きてないから”Who has done it?”ではなく、”Who will do it?”じゃニャいかニャ?」
「フールドゥィットっすね」
そんな言葉聞いたことありませんが、まあ、そんなところ・・・ですかね。
「何か歯切れが悪いような?」
「犯人ったって、どんな事件が起こるかもわからないのに推理しろなんて無理っすよ」
「そうニャ、そうニャ」
事件については先程申し上げたではございませんか。
『どげんもせんでもよかですよー』、と。
「・・・ということは?」
「”そのまんま過ぎる”のを”どげんもせんでもよか”なのだという事っすかね」
「つまり、今回も燻製のにしんを食べるだけの事件ニャのか?!」
・・・・ええ・・・まあ・・・そんなところですかね。
「嘘でしょ?!」
「手抜きか?!」
「・・・で、まさかまた燻製のにしんを誰がコメディアン島に持ち込んだのかを推理しろとニャ?」
・・・・ええ・・・まあ・・・そんなところですかね。
「冗談でしょ?!」
「ネタ切れか?!」
「・・・で、まさかまた家探しをさせる気じゃニャいだろうね?」
いえいえ!それは大丈夫です!!ニシンは冷水域の魚ですから、この温暖な淵戸内海には生息していません。ですので、ここでの食事メニューにも含まれてませんので、家探しの必要もなく、ニシンはこのコメディアン島に元からあったものではありません。
「・・・犯人推理のための伏線は引いてあるんだろうね?」
タルト所長、それはもう・・・ええ・・・引いて・・・ありますと・・・も?
「今、最後、疑問符ついてったすよね!!」
「怪しい!!」
「シャーーーッ!!」
伏線・・・的な物?・・は引いてありますよ・・・一応?
このお話を熟読していらっしゃる読者様でしたら難なく推理できるかと存じますです。
「このお話を熟読・・・ニャ?」
「そんな読者、存在するのか?」
「『存在』・・・それは”あること、いること、そのある何か。事物、物体、事柄、物質として有るという概念及びそのもの”・・・そう、そのような読者が存在すると思えば存在し、存在しないと思えば存在しないのです・・・・・って、自分で言うのもなんですけど、意味わからんっす」
では、皆さま。
解決編でお会いしましょう。
「あ、逃げた!」
「ちょっと待ちなさい!」
「シャーーーッ!!」
・・・あ、ちなみに解決編は次の次の章です。
地の文さんでした☆
「次の次?!」
「どんだけ引っ張るんだ?!」
「シャーーーッ!!」
【登場人物おさらい】
赤岩タルト…RR探偵事務所所長
エ・クレア…同事務所助手兼看板にゃんこ
青山スフレ…その他
根住ポトフ…元裁判員【第6の被害者】
後谷マリネ…カテキョ
渡来ムサカ…元サバゲ―大尉
宇鷺ミラネサ…八代村のタタミ【第5の被害者】
立見ケバブ…パリピ【第1の被害者】
旨川スブラキ…歯科医
櫃島チャプチェ…Wアイランド
去取ボルシチ…鍋将軍【第3の被害者】
乾ビリヤニ…スタッフ(夫)【第4の被害者】
乾パエリア…スタッフ(妻)【第2の被害者】




