第53章 そして誰もいなくならない Day3(7)
この宿泊施設のトイレは一般家庭用のもので、いわゆる手洗いタンク付きのトイレですので、出てくる水は綺麗な水道水ではありますが、その水を飲むのはさすがに少し抵抗がある、という事で、後谷マリネとタルト所長は1階のキッチンに行くことにしました。
「それにしても一体誰があんなものをあなたの部屋に・・・」
後谷マリネと一緒に階段を降りながらタルト所長がつぶやきます。
「・・・・わかりません。今朝起きた時はワカメなんてありませんでしたわ」
後谷マリネも全く心当たりがないようです。
2人がキッチンに入ろうとしたその時、中からバケツを持って出てきた乾パエリアと遭遇しました。
「あらあら。お客様、どうなさったんですか?」
乾パエリアがにこやかに話しかけます。
「ああ、乾さん。もうお加減はよろしいのですか?」
タルト所長が聞くと、
「ええ、ええ。お陰様でもうだいぶ良くなりまして。ご心配をおかけしましたね」
そう言う乾パエリアの腰元には、ビニール紐がぐるぐる巻きになっています。
どうやら、Nyogiboリメイククッションを腰にビニール紐で固定しているようです。
「・・・まだ、大丈夫ではなさそうですね・・ご無理なさらず・・・あ、そうだ。すみませんが、お水を1杯いただけますか」
「あらあら。お飲み物でしたら、水じゃなくても他にもいろいろありますよ。淵戸内で有名なイ白方の塩を使った海水風味ソルトドリンクとか、生ちりめんじゃこ100%スムージー、淵戸内特産海の幸たっぷり濃厚こってり海鮮ポタージュとか・・」
「うぷっ!!」
「ああああ。そういうのは今はちょっと・・・実は・・」
3人はキッチンに入り、タルト所長は先程のワカメの一件を乾パエリアに説明しました。
「あらーーーーーーーっっ!!」
「!?!?!?!?!?」
「うぷぷ」
「それ、おばちゃんよぉ~」
「???」
「皆さんにお土産を、と思って各客室に配ってたんですよ~。淵戸内海の美味しいワカメ。まだ配ってる途中なんですけどね~」
乾パエリアは手に提げていたバケツの中身を取り出してタルト所長たちに見せます。
てろーーーん てろーーーーん
「うぷぷぷっ」
「・・・・乾さん、何故部屋の中に吊るしたんですか?」
「目立つように」
「・・・・・・」
「おぷっ」
タルト所長が言葉を失い、後谷マリネが顔色を完全に失ったその時、キッチンの外の廊下を根住ポトフが歩いていくのが見えました。
「あっ!根住さん?!ちょっとお待ち下さい!!事件の事でお話したい事が!」
タルト所長は慌てて追いかけようとします。
「乾さん、後谷さんを頼みます。水を飲ませてあげて下さい。いや、海水風味はダメです!真水でお願いします!それと、ワカメは部屋の中に吊るさない方がいいと思います」
乾パエリアにそう言い残して、タルト所長は急いで廊下に出ます。
「うわっ!!」
「ああっ!!」
「ニャノーーン!!」
どっしーーーーん
ばたん
どすっ
ゴロゴロゴロゴローーーー
てろてろーーーん
2階への階段から駆け降りてきたスフレさん&エ・クレア助手と出合い頭に衝突してしまいました。
「・・・いてて・・・だ、大丈夫ですか、所長?!」
尻餅をついているスフレさんが、壁に思い切りぶつけた肩を押さえているタルト所長に声をかけます。
「・・・ああ、すまないね。そっちこそ怪我はないかい?」
ぶつけた方と反対の腕をスフレさんの方に差し出して、彼女が立ち上がるのを助けながら、タルト所長が答えます。
「・・・・てか、スフレ君。さっき、変な擬音が混ざってなかったか?」
「変な擬音ですか?・・・・えーと、最初の『どっしーーーーん』は私達が正面衝突した時の音ですよね」
「ああ。で、次の『ばたん』は君が倒れた時の音で、『どすっ』は僕が壁にぶち当たった際の音・・・」
「それから『ゴロゴロゴロゴローーーー』はエ・クレアさんが廊下を転がっていった音です」
ふと見ると、廊下の先の玄関側の方に丸まっているエ・クレアさんの姿があります。
「エ・クレアくーーーん、平気かーーい?」
「・・・ウニャニャニャー・・・猫は体が柔らかいから平気なのニャー」
「よかった、よかった」
「・・・で、最後の『てろてろーーーん』は何なんだい?」
「ああ、それはこれですよ」
てろてろーーーん
「さっきのワカメです」
「え?持ってきたの?」
「はい。マリネさんが要らなさそうだったんで私が貰おうかなって。持ち帰りに便利なように、外で干して乾燥ワカメにしようと思って外に行こうとしてたんですよ」
「・・・ああ・・・そう・・・ま。それ、乾パエリアさんがお土産用に用意した物らしいから、貰っても問題ないとは思うけどね・・・・・じゃなくて!そんな事はどうでもいい!さっき根住さんがここを通ったんだよ!何か起こってからでは遅いから、一応、忠告だけしておこうかと思って声をかけようとしてたんだけど・・・」
タルト所長が廊下の奥の方を振り返ると、どこかの部屋に入ろうとしている根住ポトフの影が目に入りました。
「!!!所長?!根住お爺さん、手に刃物を持ってませんでしたかっ?!」
「ええっ?!嘘だろ?!・・・待って下さーーーい!!根住さーーーん!!」
タルト所長達は根住ポトフに呼びかけながら追いかけます。
「あっちは浴場の方っす!」
根住ポトフは呼びかけが聞こえなかったのか、こちらを振り向くこともなく浴場に消えていきました。
「ああ・・・行っちゃった。・・・浴場は男湯と女湯にわかれているから、男湯に私が入るのは無理っす。所長とエ・クレアさんとで行って下さい」
「よし来たニャン」
転がっていたエ・クレア助手も機敏な動作で2人に追いつきました。
「・・・あれ?」
根住ポトフが入っていった浴場に続けて入ろうとしたタルト所長が、ドアにかけていた手を止めて言います。
「どうしたんっすか?」
「・・・・・・・・ここ、女湯だよ」
「ニャンと!!」
「今、誰かお風呂に入っている女性はいるんでしょうか?」
「後谷さんと乾パエリアさんはキッチンにいるよ」
「タタミのお婆さんはたぶんまだ食堂で蜂蜜食べてるニャ」
「という事は、この中にいるのは根住お爺さんだけっすね。さあ、所長、エ・クレアさん、安心して突撃して下さい!!」
「・・・・そう言われてもなあ・・・」
「女湯に入るのは抵抗があるニャン」
「エ・クレアさんまで!猫なんだからそもそも誰も咎めないっすよ!!」
「ニャにをかいわんニャ!!オレっちは誇り高きジェントルニャンなのニャ!そんなに言うなら、ここは女湯ニャンだから、スフレが入ればいいじゃニャいか!!」
「嫌っすよ!もうたぶん根住お爺さん、服脱いじゃってるし!」
「オレっちも絶対女湯には入らないのニャ!!」
「・・・うーーん」
「あの人、刃物持ってるかもしれないんっすよ?!危険っす!!」
「でも中には彼以外誰もいないんだろ?今すぐの危険はないと思うんだが・・・」
~~~やいのやいので30minutes later~~~
「エ・クレアさんだってこの前私が大事にとっておいたドリアン大福勝手に食べちゃったじゃないっすか!!」
「そういうスフレもオレっちが寝ている間に勝手に肉球拇印とってネットで売りさばいていたニャン!!」
「・・・・君たち・・・30分もよく飽きずに喧嘩できるね・・」
こんな感じで3人(主に2人)が浴場のドアの前で騒いでいると、中から入浴を終えたであろう根住ポトフが出て来ました。
「何じゃ。騒々しいのぉ。天気は良くなったですかなあ」
「あ。根住さん。お変わりはありま・・・・」
「すっすね」
「ウニャッ?!?!」




