第5章 所長!事件です!!3
『お近づきにどうぞ』と差し出されたサルミアッキとシュールストレミングを一刀両断に断って、依頼人は一旦帰っていきました。
「さて、今回は猫探しか」
「猫探しなら同じ猫のオレっちにまかせとけー」
「そうだな。とりあえずエ・クレアには猫の行動範囲内の調査と、近所の猫への聞き込みをお願いしよう」
「アイアイアサー」
エ・クレアは意気揚々と窓から飛び出していきました。
「さて、私は兼物照代の近所の人間に聞き込みに行こうか」
「了解でっす。早速行きましょう、所長!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・君、誰だね?」
「嘘ぉ~~~~ん」
もう1度言いますが、青山スフレは押しかけ助手(所長非公認)です。
~~~~~兼物邸前・路上~~~~~
「さて、とりあえず通りかかった人に話を聞くことにしましょうか、所長」
結局スフレさんも連れてきたようです。
兼物邸はタルトの実家ほどではないものの、そこら界隈では一番の豪邸のようです。
庭には、スフレさんが住んでいる一人暮らしのアパートの一室より広いのでは?と疑われるほどの犬小屋があり、その屋根には「チャーリー」と書かれたネームプレートが掲げられています。
スフレさんが、庭の柵から外に向けて鼻先を出しているチャーリーと戯れていると、
すぐ先の交差点から曲がってきた真っ赤なフェラーリが、兼物邸前で停車しました。
そして、窓から顔を出した好青年。
「うちに何か御用ですか?」
その顔は、写真で見た兼物照代の息子のようです。
「ああ、僕は探偵の赤岩タルトです。兼物照代さんの息子さんですね」
「はい、確かに私は長男の兼物天世ですが・・・え・・と、探偵さんですか?・・・母は、いったい何を依頼したんでしょうか」
「はい、実はフランソワーズちゃんがいなくなったそうでして、その捜索を」
「え?フランソワーズが?・・・いや、今朝早くにチャーリー・・・あ、うちの犬なんですけど、その犬小屋でフランソワーズが寝ているのを見かけたんですが・・・チャーリーが追い出されて、犬小屋の裏で丸くなって寝ていたんですよ。あいつら、どうもウマが合わないみたいで」
「ええ。チャーリー君のことは存じてます。今も、うちの(自称)助手が遊んでもらってます。ほら」
2人がスフレさんを見ると、そこにはチャーリーに髪の毛を引っ張られ、柵にぐにーーーーっと顔を押し付けられた成人女性の姿があります。
「た・・助けて・・・ク・・首・・首がもげる・・」
「こら!チャーリー!!そこら辺に落ちているものを拾い食いしちゃ駄目だといつも言ってるだろう!!」
天世が、チャーリーお気に入りのおもちゃ、「ノロ子ちゃん藁人形」を渡したところでやっとスフレさんを解放してくれました。人形に刺さっている五寸釘をくわえて、ぶんぶん振り回しながら楽しそうに遊んでいます。
話は依頼についてに戻ります。
「フランソワーズちゃんは今朝、朝ご飯の時にいなくなったようです。たぶん天世さんが見かけた後の事ですね」
「そうでしょうね。・・・しかし・・・・ううーーん。今朝までいたんですよね。で、今は午後3時。そんなに大騒ぎしなくてもいいんじゃないでしょうか」
「お母さまがおっしゃるには、フランソワーズちゃんは今までひとりで家の外に出ることはなかったとか」
「ははっ。いえいえ。実は、フランソワーズは母の目を盗んで、結構外に出ているんですよ。いつもは夜に抜け出すことが多いようですけど。近所で集会でもしてるようです。私はその現場を見たことはないですが」
「おおっ。集会ですか。私も1度見てみたかったんですよね!」
スフレさん、食いつきました。
「まあ、母は心配性ですからね。晩御飯までには帰ってきますよ、あいつはああ見えて食いしん坊なんです」
そりゃ、チャーリーの餌まで横取りするくらいですしね。
「ほんと、母にも困ったものです。フランソワーズも今、遊びたい盛りなのに。探偵さんも調査はほどほどでいいですよ。では、私はこれで」
「え?あの、天世さん?」
言うが早いか、天世はフェラーリを発車させ、兼物邸内の車庫へと消えていきました。
「お母さんとの温度差」
「うん、まあ、そうだね。でも、よく考えてみると、猫が7、8時間姿が見えないというだけで大騒ぎするのもどうかと思うけどね」
「普段、室内飼いだから心配になるのもわかる気はしますけど」
「とりあえず、近所の人から目撃証言を集めよう。そんなに遠くには行ってないはずだ」
「はい、所長」
【3軒隣の主婦(52歳)の話】
「すみません。この辺で兼物さんの家の猫を見ませんでしたか?長毛の、こんな猫なんですが」
タルトが写真を見せると、その主婦は
「あら、兼物さんところ、猫飼ってらしたの?ワンちゃんはお庭で飼われてるから柵越しに見えるんだけど。ネコちゃんは一度も見たことないわぁ」
【町内会長(67歳)の話】
「兼物さんの家の猫を探しているんですが、こういう猫、今日この辺りで見かけてませんでしょうか?」
タルトが写真を見せると、その町内会長は
「ええ、ええ。兼物さんの家の猫ねえ。ええ、ええ。飼っているのは知っとるぞい。ええ、ええ。何度か照代さんが車に載せてのぉ。ええ、ええ。出かけているのを見かけたことがあるぞなもし。ええ、ええ。しかしじゃ。ええ、ええ。今日は見ておらん!」
【通りすがりのサラリーマン(32歳)の話】
「そこの兼物さん、ご存じですか?そこのペットの猫が逃げてしまって探しているんです」
「ああ、自分は超高級浄水器の営業で初めてこの辺りを回らせてもらってるんですが・・・・あ、この浄水器、超お勧めなんですよ。これを通した水道水は、なんと!超高級水道水になるんですよ。え?仕組みですか?これが、超ハイテクなんですよ。な、なんと、蛇口に超LEDライトが7個もついていて、蛇口をひねって水を出すと、あらびっくり!水道水が超レインボーに光って、超高級水道水に早変わりするんですよ!!ああ、はい。ひねって出すタイプの蛇口です。しかも!LEDライトは1週間、交換不要!ライトの交換料も1万円ポッキリと超お得なんです!!本体ですか?今なら超割引期間中なのでジャスト100万円!・・・・・ああ、すみません。ついつい営業トークを。ところで、あの家、兼物さんというのですか。立派な家ですねぇ」
「LEDライトの寿命短っ!・・・ま、それはさておき、こんな猫なんですが、付近で見かけませんでしたか?」
タルトが写真を見せると、そのサラリーマンは
「いいえ。猫は1匹も見ていませんね。カモなら今見つけましたが」
そんなこんなで大した目撃情報も見つからず・・・・
「所長~~~。誰もフランソワーズちゃん見てないようですねぇ」
「うーん。ここまで難航するとは」
途方に暮れる2人。
ブオン ブオン ブオン
パラリラパラリラ~~♪
そこに現れたのは、改造スクーターに二人乗りしたヤンキーカップル。
「ハンドルを上げすぎて指先しかひっかかってないっすね」
「スクーターのハンドルをあそこまで改造する心意気は見事だな」
「電飾、すごいっすね」
「たぶん、あれ、100均で売ってるクリスマスツリー用のイルミネーションライトを50本くらい巻きつけてるよね。電池入れる箱の部分がかさばってガチャガチャいってるし」
パラリ パラリラ パラリラリ~~~~♪
「・・・・『ゴッドファーザー愛のテーマ』っすね」
「今、令和だよね?」
パラリ~ラ パラリラ リ~ラ~リ~♪
「『パプリカ』」
「曲のチョイス」
「アレにも一応聞き込み、いっときます?」
「・・・気が重いなぁ・・・」
だがしかし、そうしないとお話が進みませんので、所長には重い腰を上げてもらいましょう。
次回に続く!