第47章 そして誰もいなくならない Day3(1)
~~~~~次の日の朝~~~~~~
「Radioのこーーえにーすっこやーかなーむぅーーねをー♪」
今日も今日とてスフレさんは元気に自室から飛び出してきました。
廊下にはタルト所長とエ・クレアさんがいます。
「おはよう、スフレ君。”ラジオ”の部分、やけにネイティブな発音だが」
「壊れかけのやつかニャ?」
そう言ったタルト所長とエ・クレアさんは何故か浮かない顔をしています。
「どうしたんすか?」
スフレさんが尋ねます。
「今、何時か知ってる?」
タルト所長にこう聞かれたスフレさんは、どこからか京を取り出して立ち上げ、時間を確かめます。
「・・・・スパコンを時計代わりに・・・スマホ見なさいよ、スマホ」
「スマホ止められてるんで」
「時計は見られるニャ」
~~~~
「今、10時25分前です」
「うん。京の立ち上げにだいぶ時間かかったからね」
「で、どうしたんすか?・・・あ、朝ご飯は?!ビリヤニさん呼びに来なかったですね!どこ行ったんですか?」
「ああ。それこそ僕たちが聞きたいことなんだよ」
「いないんすか?!」
「キッチンにも姿が見えないのニャ」
3人が話していると、元大尉渡来ムサカと刑事の櫃島チャプチェも部屋から出てきて話に加わります。
「乾ビリヤニ殿はどうした。さすがに腹が減った。俺様はブランチとかいう生ぬるい食事は許せないんだ」
「おはようさん、探偵諸君。乾さんはどうしたんだ?さっき1階のトイレに行ったんだが、人の気配がしなかったぞ」
5人で1階へ降りてくると、レインコートを着た宇鷺ミラネサが玄関から大広間へ入ってきたところでした。
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
「お婆さん、外は嵐だろう。外に行っては危険だ」
櫃島チャプチェが声をかけます。
「誰がクソBBAじゃ!タタミが起こるぞ!」
「言ってない!!タタミは起こさないでくれ」
「まず、縁にマイナスドライバーを差して軽く持ち上げるっす。先端部分が太いタイプだと差しにくいっすよ。中途半端な深さで止めずにぐっと奥まで差し込まないと傷がついちゃう事があるのでご注意を。で、持ちあがったら直接指をかけて起こすっす。持ちあがったら裏の紐を持って移動させるんっすよ。簡単っす」
「タ・・・タタミが簡単に・・・ブルブル・・・タ・・タタミニャ・・ブルブル」
「あ、それより、去取さんは大丈夫でしょうか。まだ海岸にいるんですよね?」
タルト所長が話をまともな方向へ戻します。
「それなら大丈夫っす。昨日、天気が崩れそうだったんで雨具貸してあげたんで」
「雨具?雨合羽かい?」
「オーランっす」
「?・・・えーと・・・それは雨具のメーカーか何かかい?それとも大学のちょっとうさんくさいサークルの事かい?」
「それたぶんオーラン宇宙服の事ニャ、タルト所長」
「・・・・・・」
「雨風は防げるっす」
話はまともな方向に戻りませんでした。
そうこうしているうちに、身支度を整えた根住ポトフも2階からやって来て、食堂の方へ向かいます。
「朝食の食器は並んでいるようじゃな。今日はいい天気ですなあ」
「だから外、嵐だってば」
「いやああああああーーー!!!」
いつの間にか食堂に入って来ていた後谷マリネが叫び声をあげます。
「みなさん!!あれを見て!!!」
後谷マリネが指差した先のテーブルには、6個になってしまったコメディアンの壮年人形が最初と変わらぬおどけた表情を浮かべているのでした。
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最初に動いたのはやはりスフレさんでした。
京を食堂の傍らにヒョイと置くと、目にもとまらぬ速さでキッチンの勝手口から出ていってしまいました。
「ビリヤニさんを探しに行ったのでしょうか」
やはりいつの間にか食堂に来ていた旨川スブラキが勝手口の方を見ながらつぶやきます。
「大丈夫かしら。外は嵐でしょう?」
後谷マリネも心配そうに言います。
「ええ。ここに置いておけば安心ですよ。精密機械に水気は大敵ですからね」
「・・・いえ・・・京の事ではないんですけど・・」
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「乾さーーーん。インドのスパイシーご飯さーーーん」
スフレさんは嵐の中、必死で乾ビリヤニを探します。
「乾さ・・・・・ん?」
スフレさんが何かを見つけました。
「ん?君、どうしたの?」
嵐を避けて木の陰で震えているのは動物のようです。
「かわいいなぁ・・・・イタチ?」
「!!」
人間の登場に驚いて、雨の中を逃げそうになっています。
スフレさんはポケットをごそごそして何かを取り出しました。
「おやつ食べる?おいしいよー」
取り出したのは『さくらんぼ餅 くさや味』です。
イタチはスフレさんに近づいて来て、差し出された駄菓子をクンクンし・・・・た瞬間、ズザザザーーっと、飛びのきました。
スフレさんは再びポケットをごそごそして何かを取り出しました。
「逃げないでイタチちゃーん。私もイタチだよー」
ネコ耳カチューシャです。
それを頭に装着したスフレさん。
どうやらイタチの真似をしているようです。ネコ耳ですが。
「イタチ♪イタチ♪」
「・・・・」
何かしらの狂気を感じ取り、イタチは動けなくなっているようです。
スフレさんはまたポケットをごそごそして何かを取り出しました。
「かわいいねー。お写真撮りましょーねー☆はい、チー・・・あ、これカメラじゃなくてハッブル宇宙望遠鏡だった・・・・ま、写真は撮れるからいっか」
しかし撮影の仕方がわからなかったので、スマホ(”ホ”の方の機能は停止中)で撮りました。
「それにしてもイタチって初めて見たなぁ・・・ん?・・・イタチ?・・・イタチと言えば・・・・カマイタチ!!・・・も、もしや、乾ビリヤニさんはカマイタチの鎌で?!・・・」
通常、鎌は”刈る”道具であって、”割る”道具ではありませんよ、スフレさん。
「いや、わからないっす!『私と猫と迷探偵と』はハチャメチャ論理破綻小説でしょう!何があっても不思議じゃない!」
失敬な!!『私と猫と迷探偵と』は正統派推理の純文学です!!
「・・・・・・・・」
・・・・・・・
「今、私たち2人しかいないのに、2人ともボケたら誰が収拾つけるんすか」
・・・・・もっともです。すみません。
「うわあああああ!!!」
「?!?!?!」
近くで叫び声がしました。
「ビリヤニさんの声だ!!」
スフレさんが声のした方へ走ります。
「このーーーー!!!」
叫び声は続いています。
「くぉらーーーー!!」
「ビリヤニさん!!どうしたんですかっ?!」
乾ビリヤニはスフレさんに背を向けた状態で立っていました。
少し中腰になって、手元で何かをしているようです。
足元には細い棒状の角材のようなものが散乱しています。
「これは・・・・・・割り箸?」
スフレさんは大量に落ちているその木の棒を拾い上げて、顔の前で角度を変えながら観察します。
「もうっ!!何で綺麗に割れないんだっっ!!!」
割り箸は元の方が全部斜めになっています。
「・・あのぅ・・・ビリヤニさん?」
「くそっ!!くそっ!!どうしても綺麗に2つに割れない!!」
あの慇懃な紳士はどこへ行ったのやら、鬼の形相で割り箸を割り続けています。
「・・・・・・割り箸だったか・・・」




