第45章 そして誰もいなくならない Day2(5)
昼食の時間になりました。
乾ビリヤニが食堂でゲストを招き入れます。
「お一人で昼食のご準備、大丈夫でしたか」
タルト所長が聞くと、乾ビリヤニはにこやかな表情で、
「ありがとうございます。おかげさまで家内も落ち着きを取り戻しまして、少しずつ料理などもできるようになってきています」
「いや、落ち着きすぎてダメになっちゃってたんすから、取り戻しちゃダメでしょ、取り戻しちゃ」
「・・ま、なんにせよ、ご無事で何より・・」
「まだリハビリ中ですが」
「リハビリ?」
「ええ。急にNyogiboを取り上げると強い禁断症状が出るとのことで、Nyogiboを四角く切ってクッションに作り直し、今はそれをキッチンの椅子に敷いて使っております。椅子には座りっぱなしですが、ジャガイモの皮むきなどは座ったままでもできますゆえ」
「・・・改めておそろしい家具生物兵器なのニャ・・・」
乾ビリヤニと探偵事務所陣が話していると、他の客たちが続々と食堂に集まってきました。
「腹が減っては戦はできぬ」
「湿地がなくてはい草はできぬ。い草がなくてはタタミはできぬ」
宇鷺ミラネサは編みあがった藁人形を3つ手に持って食堂に入っていきます。
あいかわらず”タタミ”のアクセントが変です。
「これは藁人形ではなく、い草人形じゃ」
・・・そ、そうでしたか、それは失礼いたしました。
「ちなみに藁とはイネ科の植物の茎を乾燥させたものであり、い草はイグサ科であるゆえ、これは藁人形とは言わんのじゃ」
・・・そ、そうでしたか、それは失礼いたしました。
「ちなみにちなみにい草の標準和名は『イ』で、最も短い標準和名としても知られているのじゃ」
・・・そ、そうでしたか、それは失礼いたしました。・・・それにしてもあなた、『タタミじゃ~(略)』以外にも結構おしゃべりになるんですね。
「ちなみにちなみにちなみに藁人形は中に髪の毛などを詰めて丑三つ時に五寸釘で御神木などに打ち付けるのが一般的だが、このい草人形は中に綿菓子を詰めて午二つ時にアメピンで髪の毛に留めるとハッピーが23時間続くという開運グッズじゃ」
あと1時間!
「ところで、去取翁の姿が見えないようだが」
渡来ムサカが食堂に集まった面々を見渡しながら誰にともなく口にします。
「去取さんなら、海岸の方へ行ったんじゃないかしら」
後谷マリネが答えます。
「呼んで参ります」
乾ビリヤニがそう言って玄関の方へ向かおうとしましたが、
「いや、当方が行ってきますよ」
旨川スブラキが片手を挙げて乾ビリヤニを制します。
「はいはーーーー!私、小野妹子の再来、ビューティーガール青山スフレさんもご一緒しますよー!」
「それを言うなら小野小町でしょう」
「君はもう隋に行ったまま帰ってこなくていいよ、スフレ君」
「とりあえず、あなたはついて来なくて結構ですよ、お嬢さん」
「いえ!行きます!」
「あなたが絡むと碌なことがない」
「いいえ!行かせてもらいます!ここは大事な場面なんです!」
「コラ!スフレ君!!」
「では、お嬢さんはこの手紙を隋の皇帝に届けて下さい」
旨川スブラキはそこら辺に落ちていた新聞チラシをスフレさんに手渡します。
スフレさん、ずいぶん適当にあしらわれています。
「返書を百済で本当に紛失するという、スフレにピッタリの未来確定ニャ」
「でも御咎め無しなんっすよねー」
「スフレ君を監獄島へ島流しの刑に処する」
「うちの推古天皇は容赦ないニャ」
「まだ何もやらかしてませんが?!」
「・・・・では、当方は去取さんを呼びに行ってきます」
「ああ、ドクター。僕とエ・クレア君が同行しますよ」
「え?私も行くっすよ!」
「すぐに去取さんと戻ってきますから、皆さんは先に昼食を始めていてください」
「はい!わかりました!先に昼食食べ始めてるっす!!」
「探偵気より食い気のスフレニャ」
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タルト所長とエ・クレア助手、そして旨川スブラキの3人は玄関を出て、海岸の方に回ります。
「・・・赤岩さん、あの助手のお嬢さんは一体何者なんですか?」
旨川スブラキが、遠くの砂浜の方に放置された油圧ショベルを横目で見ながらタルト所長に問いかけます。
「・・・・それが我々にもわからないんですよ・・・あ、”自称”助手です」
「タルト所長が駅前で乾パン餌付けしてきた野良人間ニャ」
「?????」
「処分に困って一度、『5次元の嫁』としてネットオークションに出したんですが・・」
「ネットオークション?!・・・それで、どうなったんですか?・・・やっぱり入札者なし・・?」
「いいえ。ひやかしで90イィエンと100イィエンで入札した2人が、あやうく自分が落札してしまいそうになってお互い80イィエン、50イィエンと下げていって、とうとうマイナス200万イィエンになってしまい・・」
「そんなことあるの?!」
「その2人から『1万イィエン払いますから、どうか商品は送りつけないでください。ごめんなさい』と連絡がきまして・・・」
「商品は手元に残ったまま2万イィエンの儲けだニャン・・・残ってほしくはニャかったけど」
「・・・・はは・・その2万イィエンを『5次元の嫁』に縫い付けてもう一度出品すれば売れるかもしれませんね、なんて」
「ええ、もちろんしましたよ。即決価格1イィエン・送料出品者負担で」
「入札者0人だったニャン・・・」
「・・・・・・」
和気あいあいと会話が進んでいく中、3人は海岸の端の方で天を仰ぎ、何かをしている去取ボルシチの姿を認めます。
「去取さん、何をなさっているのですか?」
タルト所長が声をかけます。
去取ボルシチは顔を上に向け、左手で直径約7cm、長さが23cmくらいの赤い円筒形の容器を逆さまにして自身の顔の上にかざし、右手で容器の底をボンボンボンボンしつこく叩いています。
「・・・・・・出ないなり」
「去取さん?どうしたんですか?」
「その赤い容器は・・・ティップスターですか?」
「”ティップスター”はYBCから販売されている、ポテトフレークを成形して揚げた、ジャペンで大人気のポテトスナックニャ」
「否。これはティップスターの容器ではあるが、中身はルヴァンプライム西洋乾パンなり」
「カナッペを並べたパーティーで有名な、あのルヴァンプライム西洋乾パンニャ?!」
「・・・・何故ティップスターの容器にルヴァンプライム西洋乾パンを?」
「持ち運びがしやすいなり」
「・・・な、なるほど・・?・・・持ち運びがしやす・・・いのか?」
「それで、今は何をされていたのですか?」
「ルヴァンプライム西洋乾パンの欠片が容器の底に残ってしもうて、叩いて落としとるなり」
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・状況がよくわかりませんが・・」
「要するに、ティップスターの容器に直でルヴァンプライム西洋乾パンを入れる”ピュリンギュリュズ”スタイルで持ち運びをしていたが、食べ終わってみると容器の底の方にルヴァンプライム西洋乾パンの欠片が残ってしまい、あの円筒形状の容器では底に指を突っ込むこともできず、たいへん難儀をしていると・・・そういうわけですね」
「ちなみに”ピュリンギュリュズ”も大人気の成形ポテトチップスニャ。ティップスターと同じ円筒状の容器ニャけど、上のシールをはがすと中には袋は無くてそのままチップスが入っているのニャ。筒にはちょび髭を生やしてループタイを付けたおじさんのキャラクターが描かれているのニャ」
誰に対して言っているのかわかりませんが、詳しい説明をありがとうございます。エ・クレア助手。
この小説の読者様は地球の方々が多いようですので、こうしてたまにアース星の文化などもご紹介していきたいと思います。
さて、去取ボルシチ氏は相当な危機的状況に陥っているようです。
地球の皆様もきっと同じような状況を経験したことがございますでしょう。
あれですよ。缶入りコーンポタージュを飲み終わった時に2、3粒トウモロコシが残ってしまった状態。
ああ!あの絶望感と言ったら!!
無理矢理舌で取ろうとして開け口で舌を切りそうになったり、口を付けたまま缶を叩いて歯を折りそうになったり・・・・・
・・・・おお神よ・・・
・・・あ、ちなみにコーンポタージュの場合は飲む前に缶の飲み口の少し下の部分をペコっとへこませると、うまくトウモロコシが出てきてくれるらしいですよ。わたくしは試したことがありませんが。




