第44章 そして誰もいなくならない Day2(4)
その頃、邸内では終始落ち着かない様子の後谷マリネが、大広間の窓から外の様子を眺めていました。
大広間のテーブルには宇鷺ミラネサが陣取り、何やら作業をしています。
先程、後谷マリネが「ミラネサさん、編み物をなさっているんですか」と聞きながら宇鷺ミラネサに近づいて行きましたが、「ええ。編んでおりますよ」と答えた彼女が手にしていたのは、毛糸ではなく・・・・・
「・・・え?藁?」
人型の人形のようなものが編みあがっていくのを見た後谷マリネはそっと後ずさりして、宇鷺ミラネサから離れた窓のところへ行き、彼女の方を見ないように窓の外の様子を見つめています。
そこへやって来たのは去取ボルシチです。
うつろな目をした鍋将軍は、後谷マリネの姿を窓の傍らに認めると、彼女に近づき、話しかけます。
「海はいい。鍋になる食材が豊富なり」
「そうですわね。鱈鍋に秋刀魚鍋に帆立鍋。美味しいですよね」
「・・・それらは淵戸内海ではあまり縁のない魚介類なり・・・」
「あら。そうなんですの?あ、でも、昨日の夕食に出ていた淵戸内海産ピラルクのお造り、最高でしたね」
「・・・それはそもそも淡水魚なり・・・」
「あら。そうなんですの?」
「あんた、チョコレートフォンデュを鍋料理だと思うかね」
「突然ですね。・・・・・ああ、あの”罪”の話ですか。・・・・そうですね。チョコフォンデュは、鍋料理というか・・・スイーツですよね」
「鍋料理の中のスイーツ部門なりか」
「・・・そんな部門聞いたことはありませんけど・・・でもチーズフォンデュは鍋料理なんでしょうか・・・チーズフォンデュが鍋料理ならチョコフォンデュも鍋料理ってことになるんでしょうか・・・難しい所ですわね」
「ならば鍋猫も鍋料r」
「違いますね」
「猫鍋とも言うし、鍋料r」
「違いますね」
「鍋料理の定義は、”食器に移さず鍋のまま供される”ということなり。これでいうと、袋ラーメンを鍋から直接食べれば鍋料理となるなり」
「ズボラな人はラーメンが鍋料理になるわけですか」
「ならば鍋猫も鍋料r」
「違いますね」
「”食器に移さず鍋のまま供される”」
「主語は?」
「?」
「食器に移さず鍋のまま供される”何が”鍋料理なんですの?」
「・・・・惣菜なり」
「猫は総菜ですか?」
「いいえ。違いますですなり」
「そもそも猫を食器に移すことがありますか?」
「いいえ。ありませんですなり・・・・?」
「『?』じゃないでしょう」
「・・・いや、もしかしたら・」
「ちょっと待つんじゃ。今日はいい天気ですなあ」
後谷マリネと去取ボルシチの会話に根住ポトフが乱入してきました。
「何ですなりか。裁判長」
「この方は裁判長ではなく裁判員ですわよ、しかも”元”が付く」
「鍋料理は、”鍋で煮ながら食べる”のが絶対的な定義じゃろう」
「「!!!!!!」」
「で、ではチョコフォンデュはどうなるんですの?」
「あれは”付けて食べる”だけじゃろう。鍋料理ではない。しかし今日はいい天気ですなあ」
「ならチョコファウンテンはどうですの?」
「あれはチョコフォンデュの豪華版というだけじゃ・・・ていうか、鍋出て来んじゃろ」
「チーズフォンデュならどうなりか?」
「あれも”付けて食べる”だけじゃろう。鍋料理ではない。しかし今日はいい天気ですなあ」
「バーニャカウダは?!」
「ウェキピデュアでは『冬の鍋料理』と明記されておるなり!!」
「・・・・なら鍋料理じゃ・・・」
「でも、バーニャカウダもディップ方式ですよね?」
「ウェキピデュアでは『いわゆるフォンデュに類似した料理』と明記されておるなり!!」
「・・・・鍋料理じゃ・・・長い物には巻かれろじゃ」
「だったらチョコフォンデュもチーズフォンデュも鍋料理でしょう!」
「そうなり、そうなり!」
「・・・・・今日はいい天気ですなあ・・・ああ・・とてもいい天気じゃ・・」
根住ポトフは窓の外の天気を確かめるフリをしながら静かに遠ざかっていきました。
とりあえず、鍋猫が鍋料理ではないことだけははっきりしました。
めでたしめでたし、ですね。
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そして、ここで話を島の探索に出た4人の方に移します。
「やはり名無しの権兵衛はどこにもいないな」
樹木の間をくまなく探し終えた櫃島チャプチェが言います。
「ああ。桟橋の方も不審な点はなかった」
渡来ムサカも言います。
「施設周辺も誰かが潜んでいるといった気配はないですね」
旨川スブラキも探索を完了したようです。
「そうですねー。砂浜の方も全域掘り返してみたんですけど、地下アジトは見つからなかったっす。ついでに温泉も出なかったっす。残念!!」
スフレさんも油圧ショベルを操作しながら報告します。
「「「・・・・・・・」」」
「じゃ皆さん、次は宿泊施設内の捜索といきますか!とつげーーーーーき!!」
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「さて、2階は各人の寝室だけなので、1階を重点的に調べるっすよ!」
「何故貴様が仕切っている、青山スフレ。ここは大尉の俺様が・・」
「いや、君は”元”大尉だろう。当然、現役刑事の自分が・・」
「当方は歯医者です。当然、この場を取り仕切るのは私の役目です」
「なんで歯医者が当然取り仕切るんっすか?」
「歯医者は”しかい(歯科医)”。”しかい(司会)”はイベントの進行を司るのが仕事です」
「小山田くーーーん。座布団1まーーーーい!・・・って!なに大喜利やってんっすか?!」
そんなことを話しながら施設内に入ってきた4人。
大広間での鍋談義は終わっていて、後谷マリネは窓のそばで何をするわけでもなく窓の外の淵戸内海を眺め、宇鷺ミラネサは人型の編み人形の制作を続け、去取ボルシチと根住ポトフは大広間から出て行ったようです。
そこへ、奥の廊下の方からタルト所長とエ・クレア助手が大広間の方へとやってきました。
「ああ、スフレ君おかえり。食堂やキッチンやお風呂なんかは人通りが激しいから、人の出入りの少ない客間と図書室を中心に探してみたけど特に怪しい点はなかったよ」
「あ。タルト所長。建物内を捜索してくれてたんですか?」
「あたりまえでしょ。僕たち探偵だよ?事件が起これば主役は探偵。ここで動かなくてどうするの」
「外の方も誰かが潜めるような場所はなかったっす。温泉も出ませんでした」
「温泉が出なかったのは残念だニャー」
「ちょっと待て、赤岩探偵」
「何ですか、Wアイランドさん」
「だからその呼び方やめれ。・・・まあ、それはともかく、今の発言は聞き捨てならないな」
「どういうことです?」
「事件解決の主役は刑事だろう」
「まさか。探偵と刑事が出てくるストーリーでは9割9分9厘、探偵が主役ですよ。刑事は探偵に事件を丸投げするヘッポコ、もしくは探偵の使いっ走り、そして、探偵の華麗なる謎解きの後で用済みの容疑者をパトカーに連行するという名目でフェードアウトさせるだけの存在、と相場は決まっています」
「私立探偵にペラペラ捜査情報を垂れ流す、現実にいたら懲戒モノだけど作者にとっては超便利な登場人物枠なのニャ・・ププ」
「いいや!刑事が主役で謎の探偵がちょろちょろと捜査の邪魔をしてくる話も結構あるぞ!そしてそういう話では3割4分5厘、その探偵が犯人だ!!」
「そんな話ほとんど聞いたことがない!そして犯人である確率が微妙に低い!!」
「あー。それはどっちでもいいですけど、そろそろ昼食の時間っすね」
「「君は食べ物のことしか頭にないのかね?!」」




