第40章 そして誰もいなくならない Day1(10)
一同が、掃除を手伝うべきか、放心状態の立見ケバブをフォローすべきか混迷する中、廊下にあふれた水を眺めていたスフレさんが何かに気づきました。
「あれ?水に何か浮いてますよ?」
スフレさんは素手でひょいっとつまみあげます。
「あ!こらスフレ君!何やってんの?!」
「大丈夫ですよ。水、綺麗ですし・・・・あ、これ紙片ですね」
「トイレットペーパーではないようだニャ」
それは5mm角くらいの、ちぎれたコピー用紙のような白い、かための紙でした。
「うん。明らかにトイレットペーパーとは違うね」
「何かが印字されてます。・・・・『ク』・・・?」
「『ク』?」
「『ク』ニャ?」
「はい・・・判別できるのはカタカナの『ク』だけですね」
タルト所長とエ・クレア助手は、手分けしてあふれ出た水を注意深く観察します。
良く見ると同じような紙片が結構浮かんでいるようです。
どの欠片も周りはデコボコだったり斜めだったりしていているので、おそらくハサミで切ったようなものではなく、手で乱暴に破ったものなのでしょう。
水で濡れているので余計にぐしゃぐしゃになって、元が何であるかはわかりません。
「ほとんど細かい欠片だから何て書いてあるかはよくわからないけど、全体に何か印字されているな」
「あ、これ、少し大き目の紙片ニャ!」
エ・クレア助手が指差したのは、先程スフレさんが拾い上げた紙片より少し大きいサイズのものです。
「ひょいっと。えー・・・あ!これには『クリ』って書いてありますよ!」
「君、また素手で・・・躊躇ないよね、スフレ君」
「探偵たるもの、いつでも準備は怠らないものニャンよ、スフレ。ほら、手袋ニャ」
エ・クレア助手はポケットから使い捨てビニール手袋を出して、タルト所長とスフレさんに渡します。
・・・え?服のポケットから出したのかって?いいえ、これはお腹に直接くっついていて取り外し可能なポケットで、名前は四次g・・・・え?ダメなんですか?・・・・そうですか・・・・では仕方ありません。エクレア助手が着ているシャーロックホームズのインバネスコート風ペット用ポンチョのポケットという事にしておきましょう。
3人で集めてみると、文字の判別できる紙片がいくつか見つかりました。
「どれにも『クリ』の文字が入っているな」
「こんなに『クリ』の付く言葉ばかり集めた書類って何なんでしょう」
「『クリスマスパーティー』、『クリ羊羹パーティー』・・・」
「・・・・うーーん。シンキングタイムですね、所長。・・・私、さっきの”声”の罪状読み上げがひっかかるんですが」
「うん。もうあれ、全体的にひっかかりまくりだったよね。いちいちツッコんでたらキリがないからスルーしてたけど」
「とりあえず、立見ケバブの罪状部分だけ振り返ってみようニャ、タルト所長」
「・・・え?またあの、『我等の前に立ち塞がりし云々~』ってやつやるの?」
あ、わたくしの出番ですか?!
うふふ。やはりわたくし”天の声”またの名を”地の文さん”の存在なしではこの『私と猫と迷探偵と』は成り立たないのですわねー
では、早速・・・・・
「あ、『重要証言ピンポイント再生能力』は要らないっす」
・・・え?
「私、あのMD持ってきてます。ほら、ここに」
「え?持ってきちゃったの?」
「で、再生はこの機械で・・・」
でーーーーーん
「スパコン京?!まだ持っていたの?!てか、どうやって持ち歩いてたの?!」
「はい。では、このMDを再生・・・・・」
・・・・・・・・・
「どうやって再生するんでしょう」
「・・・いや、僕もMD世代じゃないし・・」
「そういう問題でもニャイ」
~~~京と輸攻墨守し10minutes later~~~
「・・むむぅ・・・MDごときも再生できないとはまったく、スーパーコンピュータの名折れですね。やっぱり富岳の方持ってくればよかった。・・・まあ、2019年に運用終了した型落ちだから近所のリサイクルショップで1500イィエンで買えたんですけどね」
「型落ち言うニャ」
「・・・やっぱり2位じゃダメだったんだなぁ・・・」
「普通に客間に戻ってMDコンポで再生した方が早かったニャ」
「客間まで歩くのめんどいっす」
「スパコンを出し入れする方が絶対エネルギー使うよね?!どこに収納してるか知らないけど」
諦めて客間に戻ることにした3人。
んもぅ。わたくしが能力使えばすぐなのに。
MDコンポの使い方は元大佐に教えてもらいました。
『立見ケバブ
あなたは、連日パーリーナイツしたあげく、勤務する商社においても、周りの人間に仕事や私生活の楽しさを押し付ける嫌がらせを行っている・・・・』
「ひっかかったのはここですね」
「この後の部分もかなりひっかかったけど、まずこのチャラ男が商社勤めだってことに驚愕したよね」
「確かにニャ」
「そして、自分が楽しいと思うことを他人に強要する嫌がらせ・・・」
「エンジョイハラスメント略してエンハラニャ!!」
「まさか、彼は・・・!!」
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再び男子トイレ前に。
乾パエリアはトイレ個室内でラバーカップを使ってスッポンスッポンと掃除をしています。
後谷マリネも雑巾で廊下の掃除の仕上げをしています。
立見ケバブは、まだ廊下の隅の壁に額を付けてうずくまっていました。
その他の面々は彼を遠巻きに見つめ、どう声をかけていいものか話し合っていました。
スフレさんは立見ケバブの元へと走り寄り、脇にしゃがんで勢い込んで問いかけます。
「立見さん!あなた、どちらにお勤めですかっ?」
「・・・・・・え?・・あの・・・商社的なテキーラ・・・」
涙目の立見ケバブはぐずぐずと鼻をすすり、小さな声でぼそぼそと呟きます。
「クリーン商事ですね!!」
「な、な、なんでそれを知ってイルミネーション?!」
スフレさんの指摘に心底驚いた表情になる立見ケバブ。
「この紙に書かれているのはズバリ!クリーン商事社歌の歌詞!!あの♪クリーンクリーン♪ってやつです。なんせ32番までありますからね。そりゃクリクリ出てくるはずです!」
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騒動が一段落し、掃除も終了しました。
立見ケバブはまだ座り込んで壁に向かって何かブツブツ言っていましたが、そっとしておいてあげようということで、各自部屋に戻ることになりました。
2階への階段をのぼりながら3人は話します。
「いや~、まさか立見さんがクリーン商事の社員だったとはですねー。彼は営業部らしいんで、潜入捜査の時には見かけなかったんですよね」
「あの会社、ハラスメントにうるさいからね。ああ見えて日頃から鬱憤が溜まってたんだろう。で、あの”声”を聞いて心底会社が嫌になって、衝動的に社歌の歌詞カードを破ってトイレに流したら詰まってしまった・・・というオチだったとは」
「”社歌の歌詞カード”とは一体・・・・ニャ」
「・・・ところで、所長。結局これって、事件だったんすかね?」
「うーーん。自分で流して自分で詰まらせたんだから自業自得というか・・・」
「彼はすっかり意気消沈しちゃって、もうあの『バイブスいと上がりけりー』の面影は消え果て給ひぬなのニャ。やっぱり事件なのニャ」
「じゃあ、今日はたらふく食べたし、部屋でゆっくり休みましょうか。エ・クレアさんはタルト所長と同室なんだよね?」
「そうニャ。オレっちはペット枠で参加してるからニャ。所長の部屋に純国産高級猫ちぐらを入れてもらったニャ」
「それはいいねー・・・あ、タルト所長、ちぐらに入っているエ・クレアさんの写真、撮っておいて下さいね」
「ふっ。スフレもオレっちの魅力にメロメロというわけニャ。いニャー、モテるにゃんこはつらいニャー」
「ブロマイドに加工して売ってがっぽり儲けましょう、所長!!」
「よしきた!!」
「・・・・・・・モデル料取るニャンぞ!」
その頃1階では、乾ビリヤニが怪訝な顔で食堂の隅のテーブルを見つめています。
ここには例の木彫りのコメディアン壮年人形が10個置かれていたはずです。
「・・・・1個、減っている・・・・」




