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第38章 そして誰もいなくならない Day1(8)

メインの料理を食べ終え、全員がコーヒーやデザートなどを喫し、まったりとした時間を過ごしていました。

時刻は9時20分。

会話も落ち着き、めいめいくつろいでいたその時、突然どこからか大きな”声”が聞こえてきました。

全員が驚き、”声”の主を探しますが、誰も声を出している様子はありません。

しかし、その”声”は続いています。

みんなザワザワし始めます。


「みなさん、静かに聞きましょう!」


タルト所長が叫び、全員が口をつぐみました。

”声”ははっきりと聞こえてきます。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あなたたちは各々、次に挙げる罪状で犯罪の疑惑を持たれている


旨川スブラキ 

あなたは、患者のウメ婆さんのインプラント手術に失敗し、歯を43本にしてしまった

そのせいでウメ婆さんは、草加せんべいを5枚重ねでバリバリ食べられるようになり、”サイボーグ婆さん”との異名がついてしまった


宇鷺ミラネサ

あなたは、い草教の信者でありながら、自宅を総フローリングにしている

”クリックルワイパー 超ウエットべちょべちょタイプ”を大量に買い込むあなたが、近所で目撃されている


櫃島チャプチェ

あなたは、刑事という立場を利用し、合コンではいつも『ニコラス刑事です』と自己紹介し、場を凍り付かせている

あまつさえ、刑事部の忘年会でも言ってしまい、『俺らもそうだ』とすげなく一刀両断される始末である


後谷マリネ

あなたは、”逆上がり”を教えてほしいという生徒に対して”大車輪”を教えてしまい、体育の逆上がりのテストで赤点をとらせてしまった

その後生徒は体操部からスカウトされ、大好きだったエスペラント語研究部をやめざるをえなくなってしまった


渡来ムサカ

あなたは、サバイバルゲームチーム”ケロケロ軍曹24”の大尉でありながら、チームの初陣においてペイント弾を用いて失格となった

初心者でも決して許されることのない、サバゲーとペイントボールを混同するこの行為に、『非サバゲ民だ!』と、チームのSNSは大炎上し、一戦も交えることなくチームは解散に追い込まれてしまった


去取ボルシチ

あなたは、老人会の鍋白洲において、”チョコレートフォンデュを鍋料理とみなす法度”を、反対多数であるにも関わらず、将軍権限を振りかざして強行裁決した

新たに”猫鍋を鍋料理とみなす法度”の法案も通そうとしているため、他の鍋奉行から多大なる反感を買っている


立見ケバブ

あなたは、連日パーリーナイツしたあげく、勤務する商社においても、周りの人間に仕事や私生活の楽しさを押し付ける嫌がらせを行っている

そして、近代廃れつつある職場忘年会を12月に5回開催するように上司に迫り、正月、節分、花見、入社式、端午の節句、梅雨入り、海開き、バナナの日、お月見、体育祭、紅葉狩りなど、事あるごとに社内イベントを企画し、参加を強制するという、常軌を逸した行動で周りからの顰蹙を買っている


乾ビリヤニ・乾パエリア

あなた方は、以前使用人として資産家の邸宅で雇われていた際、資産家のペットのチワワを柴犬カットにトリミングしてしまい、近所の子供たちから『豆柴だ!かわいい!!』『豆柴、豆柴!!』と大人気になった

このあまりの評判に資産家は、これはチワワなのだとどうしても言い出せなくなり、以来ずっと柴犬カットをし続けなければならないという心理的圧迫を受けている


根住ポトフ

あなたは、裁判員になりたいがために毎日裁判所に出向き、全ての裁判を傍聴し、傍聴席から裁判長及び裁判官に手を振ったり、ウインクしたり、”裁判員キボンヌ”というプラカードを掲げたりと猛アピールをし続けた

『裁判員は我々が選出するわけではないんです』と、裁判官の方々は非常に困惑している


RR探偵事務所の赤岩タルト、青山スフレ、エ・クレア

あなた方は、本格重厚推理小説であるはずの”私と猫と名探偵と”の”名”を”迷”に書き換え、薄っぺらいコント脚本にしてしまった

小説業界において、これほどの罪が存在するであろうか、いや存在しない(反語)


諸君たちに申し開きのかどがあるか


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここで演説が終了しました。

乾ビリヤニはお盆を落とし、乾パエリアはよろけてしまいました。

その他の面々も、自分の罪状に心当たりがあるのか、伏し目がちに困惑の表情を浮かべています。


「所長・・・・これって・・・」


スフレさんは眉をひそめてタルト所長に話しかけます。


「・・・ああ・・・わかってる・・・わかってるよ・・」

「・・・ウニャ・・・」


「あの超有名な推理小説・・・」

「・・・ああ・・・わかってる・・・わかってるから、その先は言わないでくれ」

「みんな最初から分かってたニャ。今回のタイトルで分かってたニャ」


「犯人はお前d」


スフレさんは、一同のうちの1人を指差してそう叫ぼうとしましたが、タルト所長とエ・クレア助手に全力で止められました。


「・・・え・・・でも・・犯人・・」

「黙りなさい!!」

「お口にチャックニャッ!!」


「いや、だって、絶対アレですよね。『そして誰もいなくな」

「らない!!」

「気のせいニャ!!」


「えー。だって、あのイギリスの作家アガサ」

「何を言っておるんじゃ、新一君!」

「そっちのアガサじゃないニャ、タルト所長」


「誰がキザな高校生探偵ですか・・・・ていうか、これめちゃくちゃ有名な小説じゃないですか。みんな犯人知ってますって」

「シャラーーーーーーップ!!」

「絶対だめニャ!!」


「だって、犯人あの人・・・」


もう一度スフレさんは一同のうちの1人を指差そうとしましたが、タルト所長に手刀ではたき落とされてしまいました。


「だめだっつってんでしょ?!絶対言うなよ?!君も僕もエ・クレア君もついでに筆者も消されるぞっ?!」

「誰に?!」

「何か大きなちからにニャ」


「それにまだ事件起こってないからね?!」

「いや、絶対起こるっしょ」

「そういうこと言わないのニャ!お約束なのニャ!」


「あ。あと、さっきの罪状読み上げ。私達、探偵事務所で一括りにされてましたね。なんか、雑じゃないっすか?」

「・・・ああ。オリジナルが10人なんだから、僕たちは”おまけ”って事だろう。コメディアン人形も10個しかなかったし」

「所長も『オリジナル』とか言っちゃダメニャ」



探偵事務所陣の内輪もめを尻目に、他の人々は先程の”声”の出どころについて議論しています。


「今のは誰が言ったんですか?!」


後谷マリネが叫びます。


「声は部屋の中から聞こえたようだが・・」


渡来ムサカが言います。

耳とヒゲをピクピク動かしていたエ・クレア助手が、機敏な動作で食堂の隣の部屋に入っていきます。


「これニャン!!」


エ・クレア助手の声に、全員がぞろぞろと隣の部屋に入りますが、宇鷺ミラネサだけは食堂の椅子に腰かけたまま、


「タタミじゃ~~!!八代村やつしろむらのタタミじゃ~~!!!」


と叫んでいます。


隣の部屋は客間で、その壁際の机の上には1台のMDコンポが置いてあります。


「え?今どきMDコンポ?」


旨川スブラキがつぶやきます。

タルト所長とスフレさんと立見ケバブは、初めて見るこの機械に首をかしげています。

渡来ムサカが手慣れた感じでMDコンポを操作すると、先程の”声”が聞こえてきました。


「誰がこれをかけたんですか?」


後谷マリネがそう口にすると、


「決まっているではないか。我々はここに初めて来た部外者の客なり」


と、去取ボルシチ。

その眼は乾夫妻を見据えています。

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