第37章 そして誰もいなくならない Day1(7)
宴もたけなわ、豪華な料理に舌鼓をうちながら、集まった客は互いに自己紹介を始めました。
「僕は赤岩タルトです。探偵事務所の所長をしています。こちらは助手のエ・クレア君です」
「よろしくニャン☆」
「あ、おしゃべりにゃんこなんですね。かわいい」
「いニャあ~それほどでもなきにしもあらずニャ~☆」
「エ・クレアさん、デレデレしちゃってまあ・・・ていうか、私の紹介もしてくださいよ、所長!・・・みなさーん!私はRR探偵事務所の看板娘、容姿端麗、才色兼備、眉目秀麗、紅口白牙、曲眉豊頰のブレステイキング有能秘書兼助手の青山スフレです!!」
「この淵戸内の貝汁、なかなか美味なり」
「こっちの海の幸釜飯もマヂうまスギ薬局~」
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
「牛飲馬食、我田引水、無知蒙昧、四面楚歌、二束三文の(自称)探偵助手、青山スフレですニャ☆」
「私の声色真似て何言ってるんすかエ・クレアさん!」
スフレさんの妄言を無視して自己紹介は進行します。
駅から船着き場への先発ハイヤーにタルト所長と同乗した老紳士が前に出ます。
「今日はいい天気ですなあ。儂は根住ポトフ。元裁判員ですじゃ」
「んん?!裁判員?!裁判官じゃなくて?」
スフレさんがツッコみます。
「いやー。いい経験をさせてもらったわい。異議ありーーーー!!ってな。それにしても今日はいい天気ですなあ」
「いや、それ裁判員のセリフじゃないし。ついでにいうと裁判官のセリフでもないし」
次に、スフレさんと一緒に駅に残って後発ハイヤーに乗った女性が手を挙げて自己紹介を始めます。
「私は後谷マリネです。プロの家庭教師をしています」
「ほう。やはり先生でしたか」
彼女の立ち居振る舞いから、タルト所長もそう推測していたようです。
「はい。体育の」
「体育の?!」
「ええ。最近、需要が多いんですよ。体力のない子供が増えてきているでしょう?」
「・・・・な・・なるほど・・・」
「俺様は渡来ムサカだ!元大尉だ!!」
次に名乗りを上げたのは、同じくスフレさんと駅に残ったゴーグル&迷彩服の男性です。
「大尉・・・・ニャ?しかも元、ニャ?」
「ああ!この傷は昔、CQBフィールドでの戦闘の際、相手の大佐から受けたバイオ弾の傷だ!」
と、腕にある直径2cmくらいの傷跡を見せますが、どう見ても油性マジックで描かれた完成度の低いものです。
「サバゲーの大尉ニャ・・・・」
「”元”という事は、今は違うんっすね」
「じゃあ、なんであの格好しているんだ?」
ちなみにジャペン国には軍隊はありません。
代わりに自衛モフ団と呼ばれる犬・猫・羊・アルパカで構成される、自国の防衛を管轄する国家組織が存在します。冬季限定でふくらすずめも入団します。
自国の防衛といっても、このアース星には戦争自体存在しないので、自衛モフ団の主な業務は、時々空港近くで”もふもふパレード”を行い、外国からの観光客をおもてなしすることなのです。
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
「あんた、それしか言えんのかいの。今日はいい天気ですなあ。」
思わず根住ポトフがツッコみますが、人のことは言えません。
「ご婦人、お名前は?」
タルト所長が問いかけます。
「宇鷺ミラネサ」
「あー。オレ、立見ケバブ。よろたの!Pon Ponー!!」
遅れてオープンカーで船着き場にやって来た金髪青年がポーズを決めています。
「チャラいっすね」
「チャライな」
「Pon Ponーニャ!」
そして、全員がこの場で初めて見る顔の男性。船長が、船着き場に直接来る客が2人いると言っていましたが、この男性がそのうちの1人だったのでしょう。
遅れて1人、チャーター船に乗ってこの島に来たようです。
夕食には間に合ったようです。
「旨川スブラキと申します。歯科医をしています」
お次は例の純ジャペン人顔の男性です。
「ロバー・トデニ・ーロです。よろしく」
とだけ言って、顔を(特にタルト所長から)背けます。
ゲストの最後に自己紹介をしたのは、スフレさんたちが駅で待った白髪の老人です。
「小生は去取ボルシチ。鍋将軍なり」
「鍋将軍とは?!」
スフレさんがツッコみます。
「鍋奉行を極めた者だけが名乗ることのできる、鍋界の最高位なり」
「鍋界の最高位」
そして、施設スタッフの男性の方は乾ビリヤニ、女性は乾パエリア。
2人は夫婦だそうです。
自己紹介の後は、少しだけみんな打ち解けたような雰囲気になり、料理やお酒を楽しんでいます。
タルト所長は淵戸内の海の幸をつまみながら、ワインを飲み進めています。
「おおー!車庫シャコ丼!暗石ダコのカルパッチョ!しすせそうどん!もぐもぐー!メチャうま!!」
「サワラにゅ~る!ママカリにゅ~る!アナゴにゅ~る!もぐもぐー!ここはにゃんこパラダイスニャ!!」
『にゅ~る』とは、B’z食品から発売されている、正式名称『NIAOにゅ~る』という、今、猫さんたちの間で大人気のおやつです。
ペット枠でエ・クレア助手がツアーに参加するという事で、スタッフの乾さんが用意してくれたのでしょう。
「感謝、感謝!うまいニャー!!」
エ・クレア助手は人間の食べ物もガッツリ食べるんですけどね。
「隣のあずき島名産のオリーブオイル掛けそうめん”島の明かり”も激うまニャ!!」
淵戸内海の魚や貝類が盛りだくさんの『村下水軍鍋』もあります。
「こりゃーーーー!!取り皿に入れるときは野菜は下!魚は上!盛り付けの美しさも考えるなり!!・・あ!そこ!!えのきをズルズルと食べるでない!!箸できちんと折りたたんで食べなさい!!」
鍋将軍が手腕を振るっています。
「景色もいいし料理も美味しいし、なかなかいいツアーだよね」
「そうっすねー」
「夕食の前にタルト所長とちょっと廊下を歩いてみたんだニャ。ここは宿泊施設だけど、ホテルというよりはおしゃれな洋風邸宅といった感じニャン。調度品もすごく凝ってるニャ」
施設の1階には、玄関から入ってすぐの大広間と、大きな食堂とキッチン、そして食堂とは1枚のドアでつながっている隣の客間、小さな図書室、男子トイレ、お風呂とランドリーがあります。
2階は中央に廊下が通り、両側にベッドのある12個の部屋が並んでいて、その他には女子トイレがあります。
元々、個人の別荘でしたので、図書室はオーナーが書庫として使っていた部屋にちょっとしたテーブルと椅子を置いて、ツアー客が自由に本を閲覧できるようにしたものだったり、トイレや浴室は各寝室には付いていなく、共同の物だったりします。
トイレは一般家庭用の個室トイレを1階は男性用、2階は女性用と分けています。
お風呂はツアー客の受け入れを始めた際に改装し、男湯と女湯の2部屋あります。
特に温泉ではないみたいなので、スフレさんは少しがっかりしています。
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RR探偵事務所の面々をはじめ、ツアー客全員が美味しい料理に満足しています。
そんな中、立見ケバブが突然、食堂の隅にあるテーブルを指さして言いました。
「あそこになんか変な物アリアナグランデ!」
全員がチャラ男の指さす方向を見ます。
テーブルには、長方形の透明プラスチックの台があり、数個の小さな木彫りの人形が置いてあります。
おどけた表情をしたおじさんの人形です。
「これ、コメディアンじゃね?じゃねー?じゃーねー?ジャネットジャクソン!」
「そうね。10個ありますわね。・・・・これって、あの現代長唄に出てくる10人のコメディアンの壮年じゃないかしら。私の部屋に、その現代長唄の額が飾ってありました」
後谷マリネが同調します。
「その額、俺様の部屋にもあった」
と、渡来ムサカ。
「当方の部屋にも」
と、旨川スブラキ。
「ああ、小生の部屋にも確かに飾ってあったなり」
と、去取ボルシチ。
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
と、・・・・言わなくてもお分かりですね。
どうやら、あの現代長唄の入った額は、すべての客室に飾ってあるようです。




