表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/100

第36章 そして誰もいなくならない Day1(6)

3人がそんなことを話していると、後発ハイヤーに乗ってきたスフレさん以外の3人も、各自荷物を運転手から受け取り、カフェの前へと集まってきました。


その時、係留されたチャーター船の方から、船長と思われる男性がカフェの方に歩いてきました。

そして、ハイヤーの運転手から引継ぎを受けると、一同に向かって呼びかけます。


「さあ、船の方へどうぞ。実はあと2名、この船着き場に直接自家用車でお越しになる男性がいるんですが、いつになるかわからないので、とりあえず先に皆さんを島の方へご案内します」


全員、荷物を持ち、船へと向かいます。


「むー。この船にダンスホールとか免税店とかあるんっすかねー、所長」

「あるわけないでしょ。言ったじゃないか。それにここも島もジャペン国内だからね」


「今日はいい天気ですなあ」

「タタミじゃ~~!!八代村やつしろむらのタタミじゃ~~!!!」

「朝のナパームの匂いは格別だ!」

「もう夕方ですよ、大尉」


チャーター船が出発しようとしたまさにその時、1台の派手なオープンカーが坂道を船着き場の方へと下ってきました。

金髪のロン毛を風に振り乱し、ハンドルを操作している青年は、マハラジャの伝説に出てくるギャル男のように見えます。

彼は、クラクションを鳴らし、その大きな音は淵戸内海のナメクジウオをも驚愕させ、現実とは思いたくない一瞬でした。

後になっても、この場にいた者の1人もこの瞬間の彼の姿を想い出すことはありませんでした。


「・・・ん?なんか、地の文さん、妙なナレーション入れてますけど」

「う、うん。無理矢理感強めで寄せてきているね」

「何にニャ?」


~~~~~~~~~~~~~


さて、エ・クレア助手と遅れて車でやってきた青年を含む10人のツアー客を乗せた船は島へと向かいます。

船着き場からもぼんやりと見えていたコメディアン島が、はっきりとその姿を一行の前に現します。

周りを樹々で囲まれた島の南側に回ると、そこは少し開けた砂浜になっていて、その奥の方に洋風の建物が見えます。これが島で唯一の建築物であり、一行が宿泊する施設なのでしょう。

船はスフレさんが期待していたものとは全く違いましたが、この宿泊施設の方はなかなかのものです。


船は桟橋に横付けされ、船長が杭にロープをつないで固定し、一行を1人ずつ船から降ろしてくれました。

桟橋では宿泊施設のスタッフがツアー客を出迎えてくれています。

スタッフは男性と女性の2名、2台のカートに客の荷物を載せ、客を案内しながら宿泊施設に向かいます。

ツアー客を降ろしたチャーター船は、夕暮れの海を帰っていきました。



施設の中に入ると、そこは広々とした大広間になっていて、テーブルやソファもあり、ウェルカムドリンクなども置かれていました。


「夕食の方は8時を予定しています。時間になりましたら1階の食堂へとお越しください」


スタッフの男性はよく通る声で、そう全員に知らせます。


2人のスタッフの案内で、ツアー客は割り当てられた部屋へと向かいます。

スフレさんは女性スタッフの後について2階へ上りました。

彼女の部屋は廊下の真ん中にありました。


部屋の、海に面した窓からのオーシャンビューは素晴らしく、室内も清潔で居心地が良さそうです。


「何か御用がありましたら遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとうございます」


「御用の際にはこのベルをお鳴らし下さい」


そう言って女性スタッフは部屋を出ていきました。


リンリンリン


「はい、何でしょうか」


すぐにスタッフさんが戻ってきました。

スフレさんはお弁当箱の中にまだ残っていた、激辛のポテトスナックを食べながら、


「淵戸内海にはスナメリがいるって聞いたんですが、スナメリって『カラムーニョ』食べるんっすかね」

「それは動物博士のでん 誤憲ごのりさんに聞いて下さい」


「はい。トビハゼさんならマブダチなんで後でスマホで聞いてみます!・・・・あ、スマホ止められてるんだった」

「・・・・・はは」


スタッフは愛想笑いを浮かべて部屋を出ていきました。

スフレさんは窓のところに行き、しばらく淵戸内海を眺めていましたが、今度は部屋の中を見て歩きました。

すると、壁の額縁に目が留まります。

額縁の中には大きな画用紙がおさめられています。画用紙に書かれているのは唄のようです。


【現代長唄】


10人のコメディアンの壮年が食事に出かけた

1人が食事を詰まらせて、9人になった


9人のコメディアンの壮年がおそくまで起きていた

1人が心地よく過ごして、8人になった


8人のコメディアンの壮年がルヴァンを食していた

1人がそこに残ると言い出して、7人になった


7人のコメディアンの壮年が薪を割っていた

1人が真っ二つに割って、6人になった


6人のコメディアンの壮年が蜂の巣を採っていた

蜂蜜が1人を刺して、5人になった


5人のコメディアンの壮年が法律に夢中になった

1人が大法院に入って、4人になった


4人のコメディアンの壮年が淵戸内海に出かけた

1人が燻製のにしんを飲みこみ、3人になった


3人のコメディアンの壮年が動物園を歩いていた

大熊を1人が抱きしめ、2人になった


2人のコメディアンの壮年が日向に坐った

1人が陽に焼かれて、1人になった


1人のコメディアンの壮年が後に残された

彼が首をくくり、後には誰もいなくなった



「・・・・なるほど。ここはコメディアン島だ。・・・って、だから何?これ、何だろうか。そして現代長唄とは」



~~~~~~~~~~~~~


8時になり、客人は食堂に集まりました。

どうやらこの施設のスタッフは先刻の2人しかいないようです。

客の誰かが、この数のスタッフで大丈夫なのかと聞いているようでしたが、スタッフの女性は料理が得意で、男性の方も施設内の事なら何でもできるようで、安心して下さいと言われているのが耳に入って来ました。

その言葉通り、並べられた料理は淵戸内の海の幸がふんだんにあしらわれた、とてもとても豪華なものです。

バイキング方式になっているので、スタッフが少なくてもやりくりできるのでしょう。


「わー!!どれから食べようかなーー!!エ・クレアさん、魚料理がたくさんあるよ!!」

「ウニャッ!ウニャッ!!」

「・・・・・・君たちのおなかのどこにそんな余裕があるんだい?」


「何言ってるんですか?電車内でのおやつなら、さっき運動したからすっかり消化しましたよ!」

「そうニャ、そうニャ」

「一体、いつ運動したと?」


「船の乗り降りにだいぶ体力使いましたよ。その後、ここで2階まで上がってまたおりて来たんっすから」

「そうニャ、そうニャ」

「・・・・・・・・・・」


「さあ!エ・クレアさん!!料理取りに行きましょう!さあさあ!」

「いざ出撃ニャー!」

「・・・・・・うぷ・・・見て聞いているだけで胸やけが・・・」


ちなみにタルト所長は、これまでに列車の車内販売のコーヒー1杯しか口に入れていません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ