第35章 そして誰もいなくならない Day1(5)
列車は海沿いのフェーリング駅に到着しました。
3人は荷物を持って立ち上がります。
スフレさんのお弁当箱は全て紙でできた折りたためるタイプだったので、列車に乗りこんだ時よりもいささかリュックのふくらみが小さくなっています。
「夕ご飯は何でしょうねー。淵戸内海の海の幸盛りだくさんなんですよねー。楽しみですね、所長」
「・・・・・・」
「ここからどうするのニャ?タルト所長」
「ああ、駅前から船着き場までハイヤーが運んでくれるようだけど・・・」
3人が列車を降り、改札を抜けると、駅前には2台のハイヤーの横に『コメディアン島ツアーご一行様』と書かれた看板を持った運転手が立っていました。
「ツアー参加の方ですか?」
運転手が、駅構内から出てきて周りをきょろきょろと見まわしているタルト所長たちに話しかけてきました。
「はい。赤岩タルトと青山スフレ、そしてペット枠のエ・クレアです」
「赤岩さんと青山さん、そしてお連れの猫さんですね」
運転手が名簿を確認しています。
駅前にはタルト所長たちと同様に辺りを見回し、何かを探している人々がいました。
どうやら、同じ特急えんとうち3号でこの駅に到着した、コメディアン島ツアー参加者のようです。
運転手はその人々にも声をかけて、名簿と合っているかの確認をしています。
人々はお互いの様子をちらちらとうかがっています。
タルト所長も他のツアー参加者を眺めています。
駅前に集まった、RR探偵事務所一行以外のツアー参加者は4人です。
「ハイヤーは2台あるのですが、この後、普通列車でお越しになる男性が1人いらっしゃるので、1台は待っていないといけないんです。どなたか、少しの間ここでお待ちいただけませんか」
運転手がそう言うと、
「はいはーーい!私、待ちまーす」
スフレさんが元気に返事をします。
「あ、では、私も待ちます。皆さん、お先にどうぞ」
ツアー参加者の中の女性も名乗りを上げます。
20代後半か30代前半くらいでしょうか。4人の中では一番若そうです。
まるで修学旅行の生徒たちを仕切る先生のような雰囲気です。
その時、ハイヤーから少し離れた場所に立っていた老婦人がみんなの方に近づいて来て、
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
「?!?!?!?!」
「な、何だ?!」
「ニャニャニャ?!」
RR探偵事務所陣はじめ、他のツアー参加者も呆然としています。
ハイヤーの運転手が、自分に一番近い場所にいたタルト所長達に小声で説明します。
「あの方は『い草教』を厚く信仰していらっしゃる宗教家らしいです」
「い草教」
「”タタミ”のアクセントが”畳”とは違うような気がするが気のせいだろうか」
「八代村のタタミニャ・・・・ブルブル」
「八代村のタタミがあるので、あたくしは先に出発します」
そういって老婦人は、さっさと先頭のハイヤーに乗り込んでしまいました。
「なんのこっちゃ・・・」
「やはり”タタミ”のアクセントが・・・」
「タタミニャ・・・・ブルブル」
「今日はいい天気ですなあ。では、儂も先に行かせてもらおうかの」
ツアー参加者の老紳士も婦人の後に続きます。
「ここは元大尉の俺様にまかせてお前らは先に行け!」
迷彩服を着てゴーグルを装着した中年男性が周りを見渡しながら声をあげます。
「誰だよ」
「このツアー大丈夫だろうか」
「八代村のタタミニャ・・・ブルブル」
駅に残ると宣言した人数が3人になったので、タルト所長とエ・クレア助手は先発のハイヤーに乗ることにしました。
先発ハイヤーの運転手も車を降りてきて、老婦人、老紳士、タルト所長、エ・クレア助手の荷物を車のトランクに積み込みます。
『コメディアン島ツアーご一行様』のプラカードを持った後発ハイヤーの運転手は、スフレさんの荷物をチラッと見て不安そうな顔をしています。
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先発ハイヤーの中では老紳士が、
「今日はいい天気ですなあ」
老婦人が、
「タタミじゃ~~!!八代村のタタミじゃ~~!!!」
エ・クレア助手が、
「タタミニャ、タタミニャ・・・ブルブル」
タルト所長は心の中で、
(エ・クレア君は、スフレ君と一緒に駅に置いてくるべきだったな)
と、カオス状態になっています。
先発ハイヤーが走り去り、残ったスフレさん、教師風の女性、迷彩服男性は雑談を始めます。
後発ハイヤーの運転手が『駅の建物内で待ちますか?』と声をかけてくれましたが、淵戸海沿岸の心地よい風も吹いていて、みんな外にいる方が気持ちが良いという事で、そのまま外で待つことにしました。
「みなさん、この辺りには詳しいんですか?」
スフレさんが聞くと、
「いいえ。初めてですの」
「俺様もだ。ここは第14回の戦地になったんだが、あいにく休日出勤で都合がつかず・・」
戦地ってなんだよ、とスフレさんが考えながら、ふと女性の方を見ると、女性の袖口になにか粘性のある液体が付いているのに気が付きました。
「あれ?腕に何かついてますよ。・・・・拭きましょうか」
スフレさんはポケットティッシュを出して、女性に声をかけます。
「・・あ、ほんとですね、恥ずかしいわ・・・・いつの間についたんだろう」
「これ、何ですか?スライムですか?」
「いえいえ、まさか。食べ物ですよ。好きなんです、私。さっきも電車の中で食べてて・・・あ、大丈夫です。自分で舐めます」
女性とスフレさんがそんなやり取りをしていると、駅の出口から背が高く、白髪で白い口髭を生やした老人が出て来ました。
普通列車で到着した、お待ちかねのツアー参加者のようです。
「お待たせしてしまったようで」
運転手は他の面々にもそうしたように、彼の名前を名簿で確認し、
「では、みなさん、出発しましょう」
と、ハイヤーのドアを開け、4人に乗車を促しました。
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スフレさんたち4人を乗せたハイヤーは、坂道を上り、まっすぐな道を船着き場へと下っていきました。
海岸の岸壁に、小ぶりのチャーター船が係留されています。
海岸に建つ『マイルドセブン』という小さなカフェの前で、先発メンバーともう一人、駅では見かけなかった男性の計5人(猫含む)が、立っていたりしゃがんでいたりといった思い思いの体勢で後発メンバーを待っていました。
先発メンバーを運んできたハイヤーはすでに帰ってしまったようです。
スフレさん達もハイヤーからぞろぞろと降りてきます。
例の初見の男性は、タルト所長から一番離れた場所に立ってスマホをいじっています。
心なしか、タルト所長の方をわざと見ないようにしているような気がします。
そんな空気を感じ取ったスフレさん、ハイヤーを降りて自分のリュックを車のトランクから取り出してひょいっと担ぐと、その足でタルト所長に近づきます。
ちなみに、ハイヤーの運転手さんは乗車の際に客人の荷物をトランクに詰めてくれていましたが、スフレさんのリュックは重くて持ち上げられなかったので、スフレさんだけセルフサービスで積み下ろしをしています。
「所長、あの人もツアー参加者なんですか?・・・何かあったんですか?」
スフレさんが小声でタルト所長に聞きます。
「うん、ツアー参加者だよ。僕らよりも早い電車でここに来ていたらしい。さっきちょっと話しかけたんだが、僕が名乗った途端にぎこちない態度になって、それからずっとあんな感じなんだよ」
「明らかに所長を避けてますよね。・・・で、あの人の名前は?」
「『ロバー・トデニ・ーロ』だそうだ」
「どこで切れとるんっすか?!・・・ていうか、あの人どう見てもジャペン人ですよね?」
「どっからどう見てもジャペン男児だニャ」
”・ーロ”の部分はどう発音するのでしょう。
『私と猫と迷探偵と』が小説でよかったです。




