第33章 そして誰もいなくならない Day1(3)
くぴ くぴ くぴ くぴ くぴ
元気にミルクを飲んだ赤ちゃんはおとなしくなり、それからすぐにまた寝てしまいました。
列車は次の駅に到着しました。
「『フェノールフタレイン駅』か。ここは古くから天狗の伝説で有名な場所だね」
「天狗ですか?所長」
「ああ、こんな伝説だよ。昔々、貧しい青年が日々努力して会社を興したそうな。その会社は成功し、青年は大金持ちになった。青年は昔の努力を忘れ、いい気になってうぬぼれて、すっかり天狗になってしまったそうな。でめたし。でめたし」
「そっちの天狗かーい・・・あと、でめたしって何ニャ」
「ちなみに、ここの天狗は近くの安母尼亜川を流れるアルカリイオン水を飲んで赤くなったらしい」
「『フェノールフタレイン駅』だけに」
「ほんまかいニャ」
列車はフェノールフタレイン駅を出発しました。
3人がまだ天狗の話に花を咲かせていると・・・・・
「あのぅ。すみません。遅くなりました」
やっと赤ちゃんの母親が戻ってきました。
「あ!!遅かったですね。心配してたんですよ!」
「・・あ、あの、ちょっと朝からおなかの調子が悪くて・・・」
「え?私、トイレ見に行ったんですよ?」
「・・あ、ああ・・・多分そのあとちょっとデッキで電話をかけていたので・・・」
「えー?先頭まで全部見て回ったんですよー?デッキにもいませんでしたけど」
「え?・・・そ・・そうですか。・・あ、じゃあ、やっぱりトイレに入っているときだったんじゃ・・・」
「いいえ。1つだけ使用中のトイレありましたけど、ノックしたら『入ってます』って言ったのは男性でした」
「そう!!!!それっっっっ!!!!」
「?!?!?!?!」
「それが私です!確かにノックされて『入ってます』って返事しました!」
「うそぉ~・・・どう聞いてもあれは男の人の声・・・」
「私です!ほら、トイレの中ってボイル=シャルルの法則で声が低くなるでしょ?あれです、あれ!」
「ボイル=シャルルの法則ってそんなんだったかニャ」
「いや、絶対違う」
「いえ・・そうじゃなくて・・ほら・・クリスペプラー効果?」
「ドップラー効果と言いたいのかニャ?」
「ま、まあ、とにかく私ですよ。『入ってます』って言ったもん!!・・・というわけで、赤ちゃんありがとうございましたっっ!!」
女性はスフレさんの腕から目にもとまらぬ速さで赤ちゃんを取り上げ、すたこらさっさと車両を出て行きました。
「・・・・何だったんだ」
「スフレの勘違いかニャ」
「むー。そんなはずないんだけどなぁー」
3人はあっけにとられてしまいました。
「それはともかく、所長。あの女性、口の周りちょっと紫になってませんでした?最初に見た時はそんなのなかったのに」
「ああ、僕も気づいたよ。まさか誰かに殴られたんじゃ・・・」
「でも腫れてはいなかったニャ」
~~~
「え?そうなの?それって、2個前の駅の近くじゃないの?」
「うん。そうみたいだ」
先程ミルクを分けてくれた親切夫婦がスマホを見ながら話をしています。
「どしたんですかー?」
何にでも首を突っ込みたがるスフレさんは夫婦の座席の方に言って話しかけます。
「さっき通った駅の近くの3つ星レストランで食い逃げがあったそうです。レストランのシェフが怒りのツイートしてるんですよ。すごくタイムリーだねって妻と話していて」
「もしかして『リストランテ・リストラ』ですか?!その店、すごく有名ですよね?!」
「ええ。以前妻と行ったんですが、名物料理の”紫キャベツのパープルロールキャベツ”が絶品なんですよ。ド紫でしたけど」
「ド紫」
「紫キャベツの鮮やかなド紫色を残したまま調理するのが難しいらしくて、開発に10年かかったそうですよ」
「ド紫色!」
何かを閃いたスフレさんはご主人にお礼を言って自分の席に戻ります。
「・・・・あなた?」
「うん?なんだい、ハニー」
「私、『リストランテ・リストラ』行ったことないんですけど?」
「!!!!!!!!」
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「所長!紫キャベツです!!」
自分の座席に戻るなり、開口一番こう告げるスフレさん。
「何が?」
「かくかくしかじか」
「・・・ああ、なるほど・・・・って、さっぱりわからん!」
「うーん。やっぱり”かくかくしかじか”と口で言ったところで伝わりませんね」
そりゃそうだ。
・・・・で、ちゃんと説明しました。
「ニャ!ということは、あの女性の口が紫になっていたのは!」
「そう!リストランテ・リストラのパープルロールキャベツを食べたからです!」
「つまり、あの女性はその食い逃げの犯人・・・・・って、赤ちゃん連れでそんなことするかい?」
「赤ちゃんは私たちが預かっていました」
「わざわざ人に赤ちゃん預けて食い逃げするかい?」
「そもそも不可能じゃニャいかニャ?」
「というと?」
「エ・クレア君の言う通りだよ。彼女はリストランテ・リストラの最寄り駅であるBTB駅に着く前まではこの列車に乗っていた。で、赤ちゃん預けた後BTB駅で降りて食い逃げをしたとしよう。でもその後、赤ちゃん引き取りに来たじゃないか。BTB駅の停車時間は2分だ。そんな短時間で店に行き注文して食べて逃げて戻ってくるのは絶対無理だろう。駅のホームの立ち食い蕎麦屋でも無理だ」
「タルト所長!食い逃げした後、BTB駅の次のフェノールフタレイン駅から乗り込んだのかもしれないニャ!あの女性が赤ちゃんを引き取りに再び姿を現したのはフェノールフタレイン駅を過ぎてからニャ!!赤ちゃんを預けたのは、自分の姿をオレっち達に印象付けて、いざという時、列車内に自分がいたことを証明してもらうためニャのニャ!アリバイ作りニャ!!」
「BTB駅で降りて食い逃げして、次のフェノールフタレイン駅に先回りして再び同じ列車に乗り込む・・・?そんなことが可能なのか?」
「しょ、しょっ、所長!!!」
「どうした、スフレ君」
「こ、こ、これは、あ、あ、あれなんじゃないですか?!」
「”あれ”とは」
「す、推理小説の花形中の花形!時刻表トリーーーーーック!!」
「探偵なら1度は解いてみたいトリックニャーーー!!」
こんな、本編からはずれたサブストーリー中にまさかの王道花形トリック登場で、さしものエ・クレア助手も少し興奮気味です。
さて、皆様。
ここで事件のおさらいをしましょう。
起こったのは食い逃げ事件です。
そして例の女性を犯人と呼ぶことにしましょう。
走行中の『特急えんとうち3号』内で、犯人は探偵達に赤ちゃんを預けます。
そしてその直後の10:07、列車は『BTB駅』に停車します。
犯人はここで電車を降り、改札を抜けて駅から徒歩3分の『リストランテ・リストラ』で”紫キャベツのパープルロールキャベツ”を食べ、代金を支払わないまま店を後にします。
一方、列車はBTB駅に2分停車し、10:09にBTB駅を出発します。
そして次の『フェノールフタレイン駅』到着は11:00ちょうど。
この駅で犯人は再び『特急えんとうち3号』に乗り込み、探偵達から赤ちゃんを引き取ります。
犯人は『特急えんとうち3号』よりも先に『フェノールフタレイン駅』に到着するために、列車を利用しました。
山道のため、車では『特急えんとうち3号』に追いつけません。自家用ヘリやコンコルド等の特殊な乗り物も使用していません。あくまでも列車で移動しています。
そして『リストランテ・リストラ』の”紫キャベツのパープルロールキャベツ”ですが、店の看板メニューであり、客の90%以上がこの料理を注文することから、店側はいつでもすぐに熱々が提供できるようにスタンバイしているようです。そのため、注文してから料理が出てくるまでの時間は2、3分だということです。
そして犯人は・・・犬舌?ゴリラ舌?・・・まあ、ともかく熱いものが平気な舌なので、5分くらいで食べ終わることができるようです。
・・・ということで、重要な情報は全て提示しました。
あとは皆様、お手持ちのJR時刻表を駆使してトリックを見事見破って下さい!!
・・・・・・・え?JR時刻表ですよ?
はい。『Japen Railways』の時刻表です。
いいえ、誤字ではありません。『Japen Railways』の時刻表です。
CMでもやってますよ。
♪~一家に3冊~ JRじ~こくひょ~ぉ~ ジャペンレールウェイズ!♪
って。
もちろんご存じですよね?
では、解決編でお会いしましょう。
地の文さんでした☆




