第31章 そして誰もいなくならない Day1(1)
いよいよツアー当日。雲一つない、絶好の行楽日和です。
タルト所長はなぜかいつも通りのスーツ姿でトロリーバッグを引いています。
この、ツブレヤ紳士服店のおばちゃんに押し付けら・・・・こほん、おばちゃんが気前よくくれたスーツですが、タルト所長は意外と気に入ったみたいで、後日同じものを5着購入したため、今回の旅行の着替えにもこのスーツを持ってきています。
スフレさんは”動きやすい”という理由で中学校時代の体操服(2本線ジャージ)を着て、旅行への気合十分です。荷物が多いため、やけに大きなリュックを背負っています。
「君、南極探検隊か何かなのかい?」
「いや~。お弁当箱がたくさんになっちゃって~☆」
「向こうでは豪華な食事が出るんだよ?」
「大丈夫です!別腹、別腹!!」
エ・クレア助手はお手頃サイズのボストンバックで、旅慣れた感じです。
ジャーキーは小さめのお弁当箱1個におさめました。
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そんなこんなで3人は最寄り駅に到着。
乗る予定の電車が来るまでにはまだ少し時間があるようです。
「あ。そういえば、今日、歯医者の予約してたの忘れてました」
「ちょっ、スフレ君、何やってんの。早くキャンセルの電話入れなさい!」
「はーい・・・えと、スマホ、スマホっと・・・あれ?スマホ使えません」
「充電切れかい?」
「いいえ。料金滞納で止められました」
「なにやってんだ」
「公衆電話からかけるニャ!」
「はいはーーい。行ってきまーす」
スフレさんは駅の公衆電話へと向かいました。
2台並んだ公衆電話の1台は男性が使用中です。
「ああ、そうそう・・・うん、うん」
電話で話し中のその男性を見て首をかしげるスフレさん。
「・・・・知ってる人・・・かな?」
どうやら男性が自分の知り合いなのではないだろうかと思案しているようです。
「・・・でも、見覚えはないんだよな~誰だったかな~有名人かな?・・・・・ま、いっか。電話、電話っと」
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「所長、今回のツアーってオレっち達の他に何人くらい参加するのニャ?」
「8人くらいらしいよ」
エ・クレア助手とタルト所長が話しているとスフレさんが戻ってきました。
「ああスフレ君、歯医者は日にち変更してもらったかい?」
「電話かけられませんでした!」
「はい?」
「公衆電話の使い方がわかりません!」
「今どきの若い子は!!」
「所長もスフレとそんなに歳かわらないのニャ」
「あ、そういえばエ・クレアさんはいくつなの?」
「コンプライアーーーーーーーンスニャ!!!!!猫に年齢を聞くとは、アニマルハラスメント略してアニハラ!」
「・・・・もうそれやめてよ。トラウマレベルなんだから」
「・・・まあいいよ、スフレ君。僕のスマホ貸してあげるからこれでかけなさい」
「あ、どうもでーす・・・・・・あ。歯医者の電話番号分かりません!」
「診察券は?」
「家に置いてきました」
「君のスマホに登録してないのか?」
「してません」
「すぐ電話帳で調べてくるニャ!!」
「アイアイサー」
スフレさんは再び公衆電話へと向かいました。
先刻の男性はまだ電話で話し中です。
電話で話し中のその男性を見てまたも首をかしげるスフレさん。
「・・・・知ってる人・・・のような気がするけど・・・」
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「さっきスフレ君を公衆電話に行かせたけど、最初からスマホ貸してあげたらよかったよね。エ・クレア君だって持ってるでしょ?」
「いやはや面目ニャイ。すっかり失念していたニャ」
「・・・ていうか、歯医者の電番もスマホで検索してあげたらよかったよね」
「いやはや面目ニャイ」
タルト所長とエ・クレア助手が話しているとスフレさんが戻ってきました。
「おまたせしましたー」
「ああスフレ君、歯医者の電話番号はわかったかい?」
「電話番号わかりませんでした!」
「はい?」
「電話帳の引き方がわかりません!」
「今どきの若い子は!!」
「所長もスフレとそんなに歳かわらないのニャ」
「あ、そういえば・・・」
「コンプライアーーーーーーーンスニャ!!!!!」
「まだ何も言ってない!」
「そういえばハラスメント略してソーハラ」
「まあまあ、とりあえず歯医者の電話番号はスマホで検索してあげるから」
「アリガトざいーーっすっ☆・・・あ、そうそう。さっき公衆電話のところで男の人を見かけたんですが、知ってる人のような気がして・・・」
「知り合いかい?」
「・・・うーん。顔に見覚えは全くないんですけど・・・」
「なら、なぜ知っている人だと思ったんだい?」
「それがわからないんですよねー。うーーん。うーーん。誰だろう・・・あ、元カレかな?」
「んニャアホな」
「スフレ君、君こういうの多いよね。でも、フランソワーズちゃんの件もあったし、何か重要なフラグなのかもしれない。よし、僕もその男性を見て来よう。はい、歯医者の電番分かったから、君はこのスマホで歯医者に電話かけてて。」
「了解でーす」
スフレさんに自身のスマホを渡し、タルト所長は公衆電話に向かいます。
そこにはまだ先程の男性が電話で話していました。
ずいぶんと長電話のようですね。
(・・・あれがスフレ君の言っていた男性かな?)
タルト所長はそう思いながら、男性の顔を見ます。
(知らない顔だな。事務所の過去案件の関係者でもなさそうだ。やはりスフレ君個人の知り合いということか?・・・だとすると僕にはわかりそうにないが・・・少し近づいて通話の内容を聞いてみるか。何か手掛かりになるかもしれないし・・・)
タルト所長は自然な動作で男性に近づき、隣の公衆電話を使うふりをしながら、男性の話に耳を傾けます。
「モシモシ ワタシ ロマンス・サギーダサン。イマ 空港ニ イルヨ。キミニ 会イニ ハルバル 飛行機デ 来タンダケド オゾンガステロ ガ 発生シテ 空港カラ 出ラレナク ナッチャッタ。今スグ コレカラ言ウ 口座ニ 500万イィェン 振リ込ンデクレル?」
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「あ、はい。その日なら大丈夫です。すみませーん。はいー。失礼しまーす」
「キャンセル大丈夫だったかニャ?」
「うん。別の日に変更してもらったよ・・・それにしても、さっきの男の人・・・あ!そういえば、声を聞いたときに昔の記憶が思い出されたような・・・・やっぱり過去の元カレなのかも!!」
「顔に見覚え無いのに、んニャわけないだろ」
んニャわけあったりするんですよ、エ・クレアさん。
「あ、所長帰ってきた」
「どうだったかニャ?」
「いや。僕の記憶にはない人物だったよ。あれはメリーさんだ」
「メリーさんニャ?!」
「今、空港にいるそうだ」
「次はタバコ屋さんの角にいて、その次は家の前にいて、最後は・・・・あなたの後ろにいるの!!!」
「ニ゛ャニ゛ャニ゛ャニ゛ャーーーーー!!!!」
「・・・・て、いや、ここ空港じゃなくて電車の駅だし。エ・クレアさん、怖がり過ぎっしょ」
「ウニャウニャウニャウニャ・・・・ブルブル」
「でも私、メリーさんの友人はいないので、さっきのはたぶん私の気のせいですね・・・そうそう、所長、スマホありがとうございました」
スフレさんはタルト所長にスマホを返しました。
歯医者に無事連絡できてよかったですね。
さて、皆さん。そろそろ電車が出発する時間です。行きましょう。




