第27章 ノックスの十戒10(1)
みなさんは、”ノックスの十戒”をご存じでしょうか。
ノックスの十戒とは
【イギリスの聖職者・神学者で推理作家でもあるロナルド・ノックスが、1928年に編纂・刊行したアンソロジー“The Best of detective stories of the year1928”の序文において発表した、推理小説を書く際のルール】
(参考文献:Wikipedia)
のことであります。
我が『私と猫と迷探偵と』も、このノックスの十戒を順守して書かれています。
例えば・・・・・・
ノックスの十戒
10.双子・一人二役は、その存在を予め読者に知らされなければならない。
「ストーカーのご相談ですか」
RR探偵事務所。
応接セットのソファにはタルト所長。
そしてその所長の、テーブルをはさんだ目の前のソファには20代男性が座っています。
今回の依頼人のようです。
「そ茶ですがどうぞ」
スフレさんがしずしずとお茶を出しています。
「あ、どうも」
緊張気味の依頼人は、早速出されたお茶を手にして話し始めます。
「ストーカーといっても、僕がされているのではなく・・・・ぐぼぼごっっ!!」
「大丈夫ですか?!」
タルト所長がティッシュペーパーを2枚ほど渡し、依頼人を心配します。
「スフレ!何を飲ませたんだニャ!」
「そ茶ですが」
「その『そ茶』とやらを漢字で発音しなさい、スフレ君」
「楚茶ですが」
「楚茶とは何だね」
「商店街のはずれの崖の脇にある、『砂防茶房リプ1000キロ』で売ってたんです」
「ああ、あの茶葉も売ってる喫茶店だニャ」
「なんか、『中国の楚の時代の遺跡から出たお茶っ葉らしき物を直輸入!幻の高級茶かもしれないこの楚茶で、いつもと違うラグジュアリーなひと時を!数量限定!売り切れ御免!』って宣伝してたから・・・」
「怪しさしかない」
依頼人には楚茶の代わりに、今朝やっと八百屋のケンちゃん(小学校教諭)から取り戻したスピリタスをお出ししました。
ちなみに、取り返したときにはスピリタスは半分ほど減っていました。
どうやらケンちゃんが給食の時に牛乳割りにして飲んでしまったようです。
でも、アルコールランプに入れたのではないので全然問題ありません。
「ストーカーをされているのではないんですか?」
「はい。僕がストーカーの疑いをかけられているんです」
「なるほど。詳しくお伺いしましょう」
「はい。僕は月馬 樋です。僕にストーカーの疑いをかけているのは宇津田 L代さん・・・という人だそうです」
「だそうです?」
「はい。僕はストーカーどころか宇津田さんという人を知らないんです」
「ウニャ?そうニャのか」
「はい。会ったこともありません」
「これ、つまらないものですがどうぞ」
スフレさんが今度はお茶請けを持ってきました。
「スフレ君、僕はね、その『つまらないもの』っていう言い方、好きじゃないんだよ。大体、『つまらないもの』ってわかってて人に渡すって失礼極まりないと思わないか?へりくだり方がおかしいんだよ。渡される方からしたら『つまるもの』持って来いよって話でしょ。この場合、『お口に合うかわかりませんが』とか、『お茶請けにどうぞ』でも十分・・・」
「これ、『つまらないもの』っていう名前の和菓子です」
「そんニャのあるの?!」
「商店街の『老舗和菓子”餡庵”』でバカ売れの人気商品ですよ?」
「こんな風に、『つまらないものなら持ってくるな』とか言うヘンクツ爺さんに一矢報いようという、和菓子屋のちょっと皮肉を込めた商品名というわけですね」
依頼人も話に加わってきました。
タルト所長はなにげにヘンクツ爺さん扱いされています。
「ふん。センスの欠片もないね」
ヘンクツ爺さん、ちょっとヘソを曲げてしまいました。
「いえ。そうではなく、これ水羊羹なんです。のどに『詰まらないもの』という意味で名付けられたらしいっすよ」
「センスの塊ニャ!」
「・・・ふ・・・ふん!」
タルト所長、素直じゃありませんね。
そして、これは”お茶請け”ではなく”お酒請け”です。
しかしながら、スピリタスのお供に水羊羹というのもどうなんでしょうか。
「で、月馬樋さん」
「フルネームをフラットに言うのやめてもらっていいですか?つきま・といです。あ、できれば苗字だけで呼んでもらいたいです」
「分かりました、月馬さん。では何故、面識のない女性からストーカー呼ばわりされているんでしょう」
「理由はわかりませんが、こんな写真を突き付けられて・・・」
月馬さんはウエストポーチから数枚の写真を取り出します。
写真の1枚は路上で撮られたもので、前を歩く女性の背後の電柱の陰に、黒の帽子をかぶり、黒のトレーナー、黒のジャージを着た男が女性の様子をうかがっている姿が写されています。
他にも、同じ女性がコンビニに入っていく所を歩道の植え込みの中から男が覗いている写真、駅のホームでまたも同じ女性のすぐ後ろに男が立っている写真などがあります。
男はどの写真でも帽子をかぶっているものの、顔はバッチリ写っています。
写っている男は全て同一人物で・・・・
「・・・・これ、あなたですよね?」
どう見ても月馬さんです。
「いえ!違います!!僕は本当にこの写真に写っている宇津田さんの事を知らないんです!ましてそんな知らない人の跡をつけたなんてあるはずありません!!」
「うーーん。宇津田さんの事を知らない・・・・例えばネット上で知り合って、面識はなかったけど住所を特定してストーキングしちゃったテヘペロ、とかは・・・・」
「ありません!!ある日突然、宇津田さんが弁護士とかいう人物と一緒に僕の家に来てこの写真を見せられたんです。この時が初対面です。で、示談金の話も出ました」
「弁護士と被害者がいきなりあなたの家を訪問したんですか?・・・確かに、それは怪しいですね。・・・しかし、この写真に写っているのはどう見てもあなただと思うんですが・・・どう思う?エ・クレア君」
「オレっちにもこの写真の男は月馬樋さんにしか見えないニャ」
「空前絶後のビューティーインテリジェンス探偵助手、青山スフレさんから見ても、あなたが付きまといです!月馬樋さん!!・・・・あ、そうだ。スピリタスのおかわりいります?」
「フルネームやめて下さい。スピリタスは要りません。次はエバークリアでお願いします」
スフレさんは依頼人の空になったグラスを取り上げ、無言でスッと移動し、キッチンに置いてあった消毒用エタノールをなみなみとグラスに注いで持ってきました。
「エ・クレア君・・・・この件、どう思うかね」
「所長、大事なことをお忘れですニャ」
「ん?何だっけ?」
「ほら、何回もやって来たニャンよ。これで10回目、最終回ニャンよ。一番大事なアレですニャ」
「・・・・うーーん。ドリンクコント?」
「それじゃニャイ」
「ああ、あれですよ所長。毎章恒例のエ・クレアさんのにゃんこあるある講座」
「そんニャもの1度もやった覚えがニャイ」
「じゃ、なんだ?」
「なんなんだろう?」
「あんたら、正気かニャ?」
みなさん、月馬さんが95%エタノールでべろべろになる前に話を進めましょう。
「べろべろになるだけで済めばいいが」
「あ、『つまらないもの』食べ終わったら『そ菓』もありますよー」
エ・クレアさん、あなただけが頼りです。
そろそろ本題へ話を戻していただけないでしょうか。
「わかったニャ。・・・では、ズバリ聞きましょうニャ、月馬さん。あなた・・・・双子ですか???」
そうです、そうです。2人ともここまでやってきて何故忘れるかな。
もちろん十戒ですよ。
双子は予め読者に知らせておかなければいけないのです。
・・というか、今回の場合、双子だと知らされた時点でほぼ事件解決だと思うのですが。
「いいえ。僕は双子ではありません」
依頼人は『Are you twins?(あなたは双子ですか?)No, I am not.(いいえ、私は双子ではありません)』という、中学1年英語教科書みたいな答え方をしながら、”つまらないもの”と95%エタノールを交互に口に運んでいます。
「双子じゃないのかー」
「・・・・となると、他人の空似?」
「ウニャ、さすがに他人がここまで似ニャイニャ」
「ええ。自分で見ても、自分にそっくりです。でも、本当に僕は宇津田さんに付きまとったりしてないんです」
月馬さんは必死で訴えます。
「・・・・・となると、怪しいのは・・・」
「この写真自体ニャ」




